第2話 宴
あの真珠、麻袋に詰められ
石崇は、確かに大官で金持ちで放蕩であった。だがその度合いは、あまりに常軌を逸していた。石崇は法外な大金持ちであり、猟奇的なまでに放蕩だったのである。
その石崇が、宴を開いた。石崇の膝に頭を乗せて撫でられながら、緑珠はぼんやりしていた。ぼんやりとする緑珠の目の前で、同僚の
客の周りにはすでに、事切れた婢女が四人、転がっていた。石崇の宴に召し出される婢女であるから、どれも皆、並大抵の女ではない。黒く豊かな
血の池に、新たに五人目を沈めたところで、さしもの斬り殺し宦官も、
客は、婢女の血の池の中心にできた、浮島のような
この客の名前は、
五度、王敦が杯の酒を、血の池へ捨てた。婢女は息をのみ、そして酒壺を傾けた。
そのときである。高いたまゆらの音を軽快に響かせながら、泥酔する客を避け、身軽に駆ける足で血の池を蹴り、血しぶきで薄絹の
王敦も、にやりと笑った。笑って、上座の石崇を見、改めて緑珠の笑顔を受けて、益々にやついた。
動転したのは、交代したばかりの斬り殺し宦官である。宴に呼ばれた客は、酒を飲まなければならない。飲まなければ、罰として酌をした婢女が斬り殺される。自分の眼前で、うら若く美しい乙女が無惨に斬り殺される、だから客は程度をこえてへべれけになるまで飲むのである。現に隣の席にいる王敦の従弟は、酒に弱いのを押して飲み、酔い潰れて床に突っ伏し、先ほどからぴくりとも動かないでいた。宴もたけなわ、もはやそういう客だらけである。これが石崇の宴であった。
しかし、酌をするのが石崇のもっとも寵愛する緑珠なれば――。王敦が飲めば、それでいい。しかし、飲まなかったならば。緑珠を斬るのか、斬って、よいものなのだろうか。緑珠を斬った自分こそ、殺されるのではないか。だが命に背き、背かぬまでも
婢女につづいて、宦官が蒼白とした。直前に交代した自分の不運を、今頃は宦官専用の控えの間で入念に
緑珠が酌をし始めた。杯が満たされると、王敦はにやついたまま杯を持ち上げ、一瞬、血の池に酒を捨てるような素振りをした後で、飲んだ。
宦官はへなへなと尻から崩れ落ちた。緑珠はいたずらっけのある声をたてて笑い、王敦の耳へ口を寄せ、何事かをささやいた。王敦もまた低く、一度だけ笑うと、やおら立ち上がった。
「ねえ、お前」
命拾いした婢女へ向き直った緑珠は、もう笑っていなかった。
「そっちに行くから、足を拭いてよ」
婢女は
「え? ええ、でも、拭くものが、」
「そんなの、お前の服でいいわ」
言うが早いか、緑珠はびちゃびちゃと血の池を渡り、渡り終えると、
「ん」
と立ったまま片足を婢女に差し出した。婢女は袖だろうと裳だろうと何でも構わず、血塗れた緑珠の足を拭いてやるほかなかった。緑珠は片足立ちのまま揺らぐこともなく、暇そうにして、婢女が拭き終わるのを待っていた。
「ありがとう」
緑珠は礼を言って、また走り去っていった。その行き先は石崇の元へではなく、衣裳部屋らしかった。婢女は呆然とするしかなかった。
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