嘘だ。え、なんで?




 大学生生活が何事もなく終わろうとしていた。


 私立中学の初日に味わった幼なじみのあいつ事件を乗り越えた私は、油断なく身構えて備えつつ、大学生生活を満喫していた。

 そして案の定、サークルにて私の一度目での初彼氏に遭遇した。なんで社会人のお前がここにいるんだとは言わない。

 生活圏が被っていて、趣味が同じ。しかも理系の仕事をしていて、わりと目下に対して面倒見が良いところがある。だったら出会ってもおかしくはない。


 一度目の私は、出会ったその日に口説かれて舞い上がるままに初彼氏をゲットしたもんだ。

 でも、二度目の私は違う。そいつが驚異の12股男だってことをもう知っているからね。いくらイケメンだっていってもさすがに嫌だ。

 ……そんな彼氏にアラサーになってまでしがみつく私も私だったけど、それも過去のことだ。


「かわいいよ(棒読み)」

「がんばっている真央を見ているのが好きなんだ(適当)」

「ごめんよ、今夜は友達と遊ぶ約束してて……(嘘)」


 はっ。

 幻聴が聞こえたぞ!?

 いやいや、ここでがんばるんだ私。カムバック、平常心。過ぎ去った過去なんか思い出すんじゃない。

 もう百万円近い高級時計をプレゼントしたりなんてしないし、一回も乗れないままだった自動車の借金だって背負わないんだぞ。


「君、かわいいね」


 はっ、幻聴………………じゃない……だと!

 セリフまで一度目と同じとかどんだけ適当なんだよ……まあ、覚えている私も私なんだけどさ。


「ありがとうございます。嬉しいです(棒読み)」


 さあ、逃げよう。全力で逃げよう。


「ちょ、あれ? おーい、君!」


 聞こえねえな!

 私には今、コミュ障気味で理系男子なかわいい片思いの相手がいるんだよ。

 両思いじゃないのかって?

 あぁ、あぁ、その通りだよ。コンチクショウ。告白なんか恐くてできるかっ。仕送りなしでバイトして生活してる愛しの理系男子くんに大学の食堂でせっせとお昼ご飯を貢いでるわ……得意の手作り弁当をな!

 料理が得意で良かった……このまま学生のうちに胃袋を鷲掴みにする計画ですよ。




 愛しの理系男子くんの笑顔を思い浮かべながら、ど必死で因縁の12股男から距離を取った私は、最後の節目を無事に乗り越えてほっと息を吐く。

 これで、一度目で起こったメインイベントは全部終わった。



 ここから私の人生が…………人生が…………あれ?



 私は、立ち止まった。


 頭がぐらぐらする。

 吐き気までするって……。


 えっと、あれ?

 私は、どうやって死んだんだっけ?

 嘘だ。え、なんで? どうして? 覚えて……ないの? いやいや、マジでなんでよ?


 ちょっと待って。冷静になろうよ、私。


 ねえ、神様。

 私はどうして死んじゃったの?

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