第101話 ギルドで見学

 さて、早めに切り上げることにしたレインスだが、実際に冒険者の社会科見学を終わらせるには冒険者ギルドの依頼を1つこなす必要があった。

 ということで早速依頼探しだ。レインス、シャロ、リティール、シャリアの順番でラビとカフスの青年二人に連れてこられた一行はギルドに張り紙されている依頼を見て何を受けるかを決める。


「こういう時に揉めるのが報酬関係だ。事前に取り決めしておくこと。特に……」


(……まぁ、今更って感じではあるけど)


 社会科見学ということで一応、色々と教えてくれる青年たちだが、一応レインスたちも冒険者ギルドで依頼自体は受けているので今更という形になる。レインスがレポートに書くところかなと適当にメモしながら一通り説明を聞き終えたところでステラナイツの二人は張ってあった依頼書から魔物退治のものを取り、レインスたちに見せた。


「じゃあ、今回はこの依頼を受けるけど……学校で決められた通り、報酬は僕らが受け取るよ? 皆もそれで問題ないかな?」

「あ、はい」

「ん」

「大丈夫なのです」


 依頼書を確認し、ラビの言葉を了承する一行。依頼はこの近辺に出現する兎型の魔物、ラビットファングの駆除だ。名前の通り、牙を生やした兎だが咬合力が強い肉食獣で群れる上にすばしっこいため、割と危険な魔物である。その上、繁殖力も強いので定期的に狩る必要がある。それを受けることで話がまとまりつつある中、リティールの姿を見つけてから何かを探していた職員がこちらにやって来た。


「……あの、リティールさん」

「何よ」


 不機嫌全開なリティール。しかし、この程度で一々怯えていてはギルド職員など務まらないとギルド員は続ける。


「ギルドの依頼を受けてくださるのですか?」

「……別に。個人的な問題だから報酬は受け取らないし、ギルドは関係ないわ」


 魔力を目に宿したリティールはギルド員の後ろめたさを透かして見ながら先んじて難題を押し付けられる前に拒絶を示す。しかし、ギルド員もただで引き下がるほど間抜けではない。


「そうですか……ではシャリアさん。最近、この町に怪しい魔力反応があるらしいのですが」

「ごめんなさいなのです。レインスさんの護衛が優先なのです」


 ギルド職員が打った手は二つともダメだった。で、あるならばとギルド員は最後の希望を込めて白雷、シャロの方を見て口を開く。


「シャロさんは……」

「ん、リアちゃんに同じ」


 これも撃沈。ギルド員はやはりこうなるのかと思いながらレインスににっこりと微笑んで尋ねる。


「レインス君。ちょっといいかな?」

「今、知っての通り学校の課題中です」


 ギルドでステラナイツを含む冒険者たちと待ち合わせをしたのだからギルド側は当然、把握している。しかし、レインスごときに塩対応されるのはギルド側も少しムッと来たようだった。少し強めの口調で言ってきた。


「課題中ごめんね? でも、その課題の件なんだけど、学校の課題に後ろの皆を連れていくのはちょっとおかしいと思わないかな? 君の課題なんだから。で、お願いなんだけど、後ろの皆を借りてもいいかな? あ、シャリアちゃんは一緒の学校だから別として……」


 尤もなことを言い、譲歩を見せる形で分断を図るギルド員。彼女はステラナイツの二人にも苦情を入れる。


「ラビさん、学校からの依頼を真面目に受けてください。こんなにぞろぞろ引き連れて……」

「あはは、すいません。つい……」


 レインスとシャリアの当初の予定通りに行きそうな流れだった。ギルド員はラビに一通り苦情を入れた後にレインスに確認を取る。


「で、リティールさんとシャロさんはギルドで借りてもいいかな?」

「知りません。本人たちに訊いてください」


 姑息にもレインスの持つ決定権でシャロとリティールの行動を縛ろうとしているらしいギルド員。当然、レインスはその手に引っ掛かるほど甘くない。彼は二人の行動に責任を持つのが嫌なため、適当に濁して答えた。そして二人も微妙に面白くない流れになっているのは理解できているので文句を言う。


「何で所属もしてないギルドから私の行動を一々口出しされなきゃいけないのよ」

「私生活まで色々言われる筋合い、ない」

「えーっと、でも、今、時間ありますよね?」

「可愛い妹と同居人のために使う時間はあってもギルドに使う時間はないわ」


 はっきり言ってのけたリティール。レインスはギルドとの関係悪化を恐れないのかと思ったが、リティールにはその辺りのことを気にせずとも独力で事を為す実力と自負がある。言うだけ無駄だろう。


(こういうのが英雄の器だよなぁ……俺みたいな小市民は関係悪化を恐れて話を聞くだけなら、とか譲歩するよ……)


 レインスはリティールを眩しいものとして見た。ただ、当の彼女は言い方というものがあるとしてシャリアに窘められていたが。それでもリティールに受ける気がないと見たギルド員はシャロに縋るように尋ねた。

 

「シャロさんは……」

「ん、私はどうしてもの依頼しか受けない」

「……分かりました。では依頼は受けなくてもいいです。ただ、町中で何か妙な気配を見つけたらギルドまでご報告をお願い致します」


(押しが強いな……)


 たくさんいる学生相手に殿様商売の気分なのだろう。ギルド員である当人は自覚していないようだがレインスにはそう感じられた。レインスがそんなことを考えている間にラビがシャリアに近づいて尋ねる。


「えーと、レインス君とはお友達?」

「はいなのです!」


 元気よく答えるシャリア。そんな彼女の耳元でラビが更に質問しようとする。勿論それはリティールに阻まれたが。


「お姉ちゃん……」

「近付き過ぎ。何か聞きたいことがあるなら普通に訊きなさい」


 何か諦めたようにシャリアは声を出すがリティールはラビに喧嘩腰で聞いていない。彼女は妹を守る為に必死なのだ。


(この二人、さっきから性欲が増してるわ……何故か、嫌われるような態度をしている私に対してまで……)


 嫌悪感を露にするリティール。その隣ではシャロがカフスに質問を受けていた。


「リティールちゃんはちょっと怒りん坊さんだね? いつもそうなのかな?」

「ん、違う」

「へぇ……みんなといる時は違うんだ。今日は皆を守る為に頑張ってるのが空回りしてるのかな?」


 どうやらリティールを集団の中で孤立させたいらしい。レインスはリティールの情報とステラナイツの二人の行動の裏を読んでそう判断した。


(ギスギスしたパーティだ。何とか無難に終わってくれないかなぁ……)


 本来なら回れ右して帰りたい気分になるパーティだった。しかし、レインスには普通の子どもを演じる必要がある。この段階では残念ながら学校の決まりを反故にしてまで動く要素はない。


「じゃあ、皆でラビットファングを狩りに行こうか。五匹以上で依頼達成で、討伐証明部位は尻尾。その他の肉の解体や皮の鞣しを午後にやって見学終了という流れにしよう」

「妖精姫や白雷には簡単すぎる依頼かもしれないけど、レインス君に合わせた依頼になるから我慢してね」

「ん、分かった」

「大丈夫なのです」


 全員の承諾を得たところで一行はラビットファング狩りに向かうのだった。

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