第70話 襲撃

 プチ・マ・スライムの村に急行したレインスたち4人とぷち様。彼らが目にしたのは燃え上がる里の様子だった。


「すぃー!」


 悲痛な鳴き声を上げ、急いで川の水を操って火を消しにかかるぷち様。シャリア、シフォン、コーディもそれに倣い小さな村の危機を抑えようとする。そんな中、彼女たちのように便利な魔術を使えないレインスだけ別行動を取っていた。


(状況把握しないとな……まず、間違いなく黒いスライムによる襲撃があった。何が目的でこの集落が狙われたのか、そして襲って来た奴らはどこに行ったのか……)


 それらが分かりそうで意思疎通が可能なのはこの村に一人だけ。レインスはその心当たりである村長のことを探し始める。


「いた!」


 スライムサイズの小さな村だ。探すのにはそう時間はかからなかった。どうやら村長は未だ交戦中らしい。黒いスライムに囲まれていた。レインスは弱々しい光を纏った村長に駆け寄るとすれ違いざまにその黒いスライムたちに斬撃を見舞う。


「【斬時雨】」


 左右の薙ぎ払いで囲んでいた一角を崩すレインス。同時に村長が叫んだ。


「わたくしはよいので子どもたちをお願いいたします!」

「そっちはシャリアたちが回ってる!」

「なんと! ご助力感謝いたします!」


 村長の感謝の言葉を聞きながらレインスは目前にいる黒いスライムたちを屠っていく。しかし、いつの間にやら最初に屠ったはずのスライムが身体を寄せ合い復活しようとしているのが目に入った。


「チッ……キリがなさそうだな……」

「攻撃はお任せいたします! わたくしは魔素を食べます故!」

「わかった!」


 そう言って村長が下がって何やらまじないを唱えると復活しようとしていたスライムたちが崩れ始める。レインスはまだ生き残っているスライムたちを屠り始めた。

 復活しないのであれば相手はそこまで強くはない。様々な属性の初級魔術が時折飛んでくるが、レインスにとっては低速だ。当たるほど早くはない。被弾することなく次々と新しい獲物を倒していく。残るは数体。そんな折に声が届いた。


「レインスさん!」

「シャリア! そっちは終わったのか!?」

「……はい」


 落胆しながらも頷いて見せるシャリア。決着は呆気なかった。まだ残っている黒いスライムたちは視認されるとほぼ同時に発動されたシャリアの魔術によってすべて薙ぎ払われ、この場の戦闘は終了した。


「助かりました」

「遅くなってごめんなさいなのです……」

「いえ、来てくださっただけでもありがたいです。して、子どもたちは……」

「……私が感知出来る範囲にはもう、四体くらいしか……」


 項垂れながらそう告げるシャリア。それを受けて村長はショックのあまり少し硬直してしまう。


「なんと……ヒューマノイドスライムはどうなったのですか?」

「おっきい魔力は、この村に来た時と同じ数……村長さんを含めて7つあるのです」

「……不幸中の幸い、ですか」


 そう呟いたきり黙りこくる村長。悼む気持ちは分かる。だが、レインスたちには時間がなかった。


「村長、ご愁傷様です。だけど、まだ黒いスライムたちはいると思う……そいつらの居場所とかは、分かったりしますか?」

「……えぇ。彼らは私たちに人の町を襲わないかと持ち掛けて来ました。恐らくは今頃、町に向かっていることでしょう」


 顔を見合わせるレインスとシャリア。恐らく、森の中で出会ったスライムの一隊はフラードの町に侵攻する部隊だったに違いない。レインスがそう思っているところにシフォンとコーディも合流して来た。


「……このスライムがこの村の長?」

「はい。そうです」

「うわ、喋れるんだ……二人が言ってた話は本当だったみたいね……」


 過去形で話すシフォン。この惨状を見て、この村にはもう人間と共闘する程の戦力がないと見たのだろう。そして彼女に遅れてコーディが告げる。


「ごめんなさい、間に合いませんでした……助かったのは数体だけ……」

「いえ、謝る必要はありません。あなた方が来なければわたくし達は全滅していたでしょうから……」


 そう言いながら体に纏う光を強めていく村長。そうしている間に周囲にあった嫌な魔力が減少していた。そして彼女は宙に浮き上がり、村中に響くように言った。


「同胞よ、行きましょう。復讐です。黒きもの達を倒すのです」

「むー!」

「ふぃー!」

「すぃすぃ!」

「ヴぁー」

「めぇー!」


 声を上げ、立ち上がる5体のヒューマノイドスライム。無言で立ち上がる1体もいたが、彼もやる気は満々のようだった。皆が集まったところで村長も地に降りてきてレインス達に告げる。


「皆さん、申し訳ありませんが……先の戦いの影響で、外の様子を見に行っていたすぃーを除き今の我々に戦うだけの余力はありません。ですので最初の方は皆さんに頼り切りになると思います。ですが、魔素を食べることで復活の阻止、そして自分たちの魔素に変換が出来れば皆さんへ助力が出来るのは間違いありません。どうか、同行を許可していただきたい」


 深々と頭を下げる村長。それを見てシフォンは好戦的な笑みを浮かべていた。


「へぇ……やる気満々ってところね……泣き寝入りはしない。里を失った気持ち、ぶつけるなら手を貸すわ」

「おんなじ悲劇を繰り返さないためにも黒いスライムたちを倒すのです」


 村長の言葉により盛り上がる一行。ぷち様を連れた彼女たちは急いで町に来た道を戻り始めるのだった。





 そんな彼女たちが向かう先、フラードの町では異変が起きていた。


「スライムの第二波だ! 戦える者は町を守れ!」

「何だ? 黒いぞ?」

「ギルドから注意勧告が出てた奴だろ! とはいっても所詮はスライムだ、俺たちの相手じゃねぇ!」


 笑いながら武器を片手に町の外に出向く冒険者たち。祭りということでこの地に集まっていた流れ者の冒険者や、領主の私兵なども続々とそれに続く。


「数が多いな。魔術師はいねぇのか?」

「学園都市から銀級の奴が来てる奴がいたって聞いたが……どこだろうな?」

「まぁ戦ってりゃ見つかんだろ。そんなことより、目の前に集中だ」


 喧騒が町を包んでいく。そうなれば当然、町の中にいるベルベットたちにもそれは伝わった。魔物襲来の報を聞いてデビッドが嘆かわし気に呟く。


「公演間近で魔物の波か……ついてないな」

「ベル姉ぇ、俺らもちょっと戦いに行った方がいいんじゃね? スライム相手でも手数欲しいと思うし」

「ダメよ。今、シフォンとコーディが援軍を呼んできてるからそれを待ちなさい」

「援軍? 騎士団?」


 アンドレの問いにベルベットは静かに首を横に振る。


「じゃあなんだよ?」

「黒いスライムの敵になる魔物……この町じゃぷち様とか言われてるらしいわね」

「ぷっ! ぷち様ぁ? 何だそれ。そんなのより俺の方が強いっての! ちょっと行ってくる!」

「はぁ……待ちなさい」


 答えは聞かずにベルベットはアンドレを術によって芽生えさせた木で拘束する。逆さ吊りになったアンドレから抗議の声が上がるが、ベルベットは無視した。


 悲鳴が上がったのは丁度、その時だった。


「ッ! 私が見ます。皆さんは窓に寄らないようにしてください」


 悲鳴が聞こえたのは外からだった。その方向にベルベットが鋭く視線を送ると町の中に黒い影が侵入しているのが目に入る。不定形の黒い影は鈍足ながら若い女性を追いかけているようだ。


「……あれが、シャリアさんたちの言っていた……」

「ごちゃごちゃ考える前に倒した方が良くね? マリウスー窓開けてー!」

「えっ、あ、う、うん」

「よっしゃ、【雷撃】!」


 ホテルの上階より放たれた雷撃は鈍足だった黒いスライムに見事命中する。それを達成したアンドレはついでにとばかりに自分を拘束している木も焼き払う。


「こうなったら人助けに走った方がいいだろ? 俺たち、戦えるんだし。マリウス行くぞ」

「えっ、あ……」


 マリウスを連れて窓から外へ出ようとするアンドレ。戸惑いながらもそれに従うマリウス。それらを止めようとするベルベットだが、その時丁度部屋の外から扉をノックされたことでそちらに気を取られてしまう。


「じゃあ行ってくる! ベル姉は皆をお願い!」


 そう言い終わる時には既に彼はホテルの外にいた。残されたベルベットたちはこんな時にやって来た訪問客に鋭い目を向ける。


「あ、ベルベット様より申し付けられておりました魔具の類なんですが……」

「……はぁ、ごめんなさい。すぐに取りに行くわ」


 やって来たのは自身が頼んでいた物を準備してくれたホテルマンだった。何の罪もない彼に謝罪してベルベットはすぐにものを取りに行く。



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