伝説の剣? part1
一夜明けて、
「うぅ……頭いたい……」
通りを街の外れへと向かって歩きながら、ララが青い顔で頭を抑える。あんだけ飲んだら、そりゃ二日酔いになるのは当たり前だ。
対して、俺を頭に被って歩くセリアさんは、
「大丈夫、ララちゃん……? 何か薬を買ってくる?」
と、案外平気そうな顔でララを心配している。一杯飲んで卒倒したおかげで、むしろ熟睡できたのかもしれない。
「で、どこに向かってんのよ? こんな何もない所に『伝説の剣』があるわけ?」
通りを外れ、岩場の続く海岸へ下りていくガロン爺さんにララが尋ねる。
うむ、とガロン爺さんは厳めしく頷くが、ララと同じく二日酔いを患っているらしくその足取りはかなり危うい。ついて歩いている杖もブルブル震えて、今にも前にぶっ倒れそうである。
「もうすぐそこじゃ。そこに洞窟がある」
その言葉通り、岩海岸の海へ突き出すようになっている部分(小さな山のようになって陸からここまで伸びてきている)へ行くと、そこにぽっかりと洞穴があった。
ガロン爺さんは、セリアさんに持たせていた松明に火を点けさせると、波に洗われて湿っているその中へと入って行く。
中の空気は、ひんやりと冷たい。
入った瞬間から何か見えない『壁』を超えたようにしんと静かになり、奥へと進むにつれて波の音さえ聞こえなくなっていく。
「……トゥリーズに昔、とある夫婦がおってな」
不気味な静けさと肌寒さの中に、ふとガロン爺さんの声が響く。
「夫は貧しい猟師で、対して妻は豊かな商人の家の娘じゃったが、二人は結婚して何年経ってもたいそう仲がよくて、夫が漁へ出た時には、妻はその帰りを浜辺から一歩も動かずに待ち、妻が体調を崩した時には、夫は寝ずにその看病をしたらしい。
二人はそんな誰もが羨むような仲睦まじい夫婦だったのじゃが……ある時、夫が漁へと出ていた時に、妻がどこぞの商人の男と浮気をしてしまったそうじゃ」
言いつつ、ガロン爺さんは洞穴の奥――その岩壁に突き立てられている一本の剣の前で足を止めた。
「夫は妻を問い詰めて、浮気が事実であることを確信すると――持って来ていた剣で妻を斬り殺し、そして自分もまたその剣で自らの腹を搔き斬り、死んでいった。それでも晴れぬ恨みを込めて、最後の力で剣を壁に突き立ててな。
……以来、その剣は誰にも抜くことができずに、そのまま捨て置かれておる。が、うら若き、美しき乙女であればその魂を慰め、剣を抜くことができる……とも伝えられておる」
「それって……まさか」
ララが、ごくりと生唾を飲み下す。
ガロン爺さんはララを振り返って小さく頷き、
「そうじゃ。その痛ましい事件が起きた場所がまさにここで……この剣こそ、水着コンテスト賞品の『伝説の――」
「い、いらないわよ、こんなもん! 何が『伝説の剣』よ! こんなの、『伝説の』じゃなくて『呪いの』剣じゃない!」
ララがガロンの胸ぐらを掴み上げて怒鳴る。
「う、うぷっ……あ、あんまり揺すらないでくれ。は、吐きそう……」
ガロン爺さんは口を手で押さえ、それを見て吐き気を誘発されたようにララもガロン爺さんから手を放して口元を抑える。
ガロン爺さんが息も絶え絶えに言う。
「だ、大丈夫じゃ……。お主らならば必ずこの剣を浄化し、抜くことができるはず……。お主らで抜けぬ男など、この世におるはずもないのじゃからな……」
「……? アタシら『で』?」
で、って何? と何か違和感感を覚えたらしいララが小首を傾げる。
ともかく、と下ネタジジイ・ガロンは勢いで押し切ろうとするようにまくし立てる。
「そういうわけじゃから、お主らにはこの街を救うと思って、どうかこの剣の呪いを払ってほしいのじゃ。これは、この街で最も美しいお主らにしかできぬ仕事。その美しき身体を使って、どうにか男の心を癒し、慰めてやることはできんじゃろうか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます