10本目【最終物件】悪意を積み重ねる白い部屋【ばいばい】

10-1 前編【大事なご報告があります。】




「ハイ、どうも〜! いただきますっ! 『ゴーストイーター』のウスバカゲロウ二号です!」


「三号です。車の中からのオープニングも久しぶりですね」


「そうだねっ! 今回は本編に行く前にひとつ、やることがあります!!」


「ちょっと前に募集した質問コーナーの回答です。まずはコチラ。下にテロップ出ま〜す」




『※ 相方の良いところと悪いところを教えて下さい ※』




「ビビり、単純バカ、ぽんこつ、鈍感……」


「ちょっと。ちょっと三号くん?」


「ネギの青い部分を最後まで刻む、リンゴの皮の処理が雑、パンの耳を切り落とす、具材の切り方が大きいから火の通りが甘い……」


「先に悪いところをそんなに挙げるのやめて!? と、いうかそれって悪いところだと思ってたの!?」


「はい」


「主に食べ物の恨みじゃん! その時に言ってよ!! パン耳あるほうが好きとか!」


「出されたものは文句を言わずに食べる主義なので」


「そ、そう……立派だね……!」


「良いところもありますよ」


「どこ?」


「……です」


「えっ?」


「……やさしいところ、です」


「ありがとう!」


「………」


「他には?」


「ないですね」


「ないの!? ま、まぁ一つでもあって良かった……!! 僕はねぇ、三号くんの冷静で物事に動じない賢いところが好きだよ!!」


「そうですか」


「褒められ慣れてる……!」


「他にはありますか」


「え〜……色々あるけど、えっと、ご飯を美味しそうに食べてくれるところが好き!」


「二号さん、料理わりと上手いのにどうしてあんなに痩せてたんですか?」


「そんなに上手じゃないよ? 一人だと作る気にならないし。キミの食生活がヒドすぎるだけだと……」


「納豆ご飯のどこがいけないんです?」


「毎食ソレはやめなって……! あー、強いて言うならちょっと頑固なところが悪いところかな?」


「初志貫徹できると言って下さい」


「物は言いようだね!? じゃあ次の質問!! ドン!」




『※ 一号さんは見つかった? ※』




「これね、皆さん気になってるところだと思います!!」


「今までたくさんの情報、ありがとうございました」


「この話題は後で答えます!! 次!」




『※ 事故物件YouTuberやろうと思ったきっかけは? ※』




「僕はね、めちゃくちゃ仕事で悩んで病んでいた時に一号に誘われました! 楽しいことやろう! って。実際楽しかったし、仕事以外のことに意識が向いたのはよかったな〜当時は寝ても覚めても、夢の中でも仕事のことばっかりだったから……」


「社畜ってヤツですか」


「今風に言えばね。それでも、不動産屋の仕事は楽しかったよ。三号くんじゃないけど、家って人にとって絶対いるものでしょ? 生活に欠かせないものだから、みんなとっても真剣だよね。いろんな人生を垣間見たよ。誰も彼も事情があって、そして最善を尽くして生きようとしているんだなって。料金設定とか……間取りとか……保証人とか……敷金礼金とか……家族構成とか……権利、関係とか……」


「他人の人生の毒に当てられて萎れるようじゃ、この先が思いやられますよ」


「いいじゃん! これからは気をつけるから!! ……一号がいなくなってからは、正直もうやめようと思ったんだよね。一人だと心細いし。なのにもう一度、事故物件YouTuberをはじめたのは……実は、三号くんと同じ理由です!!」


「一号さんを探すため、ですね。そのためには、視聴者のみなさんの力が必要でした」


「詳しい事情は言えないんですけど、たくさんの方に見てもらわないと一号が消えた原因の手がかりさえ掴めない状態だったんです!!」


「その節は本当にありがとうございました」


「一号はどうしてYouTuberになろうって思ったんだろう?」


「兄ちゃんはテレビが苦手でしたから、自分で時間を区切れるYouTubeみたいな動画サイトが好きだったんです」


「テレビ、嫌いだったんだ」


「不意打ちでイヤなものが映りこんでしまうので」


「あぁ……いろんな番組があるもんね」


「後は一号さんも人探しのために始めたみたいですね。後は、二号さんを元気づけるためかと」


「友達想いだよね〜早く会いたいな!」


「三号も同感です」




『※ いつまで『ゴーストイーター』やるつもりなの? ※』




「これ! これもみんな気になってるよね〜?」


「そうですね」


「ではここで! 重大なお知らせです!!」


「二号さんと三号が『ゴーストイーター』を始めたのは、行方不明になった一号さんを探すためでした。なので、一号さんを見つけだすことができればコンビを続ける理由はありません」


「僕は理由がなくても、コンビでいたいけどね〜」


「ハ?」


「ごめんなさい! コッチ睨むのやめて!」


「いいですよ」


「えっ?」


「……っど、どうでも……」


「またソレ!? じゃあ話を戻すけど、僕たちは一号が見つかったらYouTuberはやめようって約束していたんです! そしてそして、視聴者の皆さまのおかげでとうとう! 一号が見つかったんです!!! パチパチ〜」


「よかったですね」


「うん! それで、なんと!! 今から一号に会いに行くんです!」


「それがアチラ。先日まで二号さんが住んでいた白い部屋になります」


「あの部屋はですね! やっと分かりましたよ〜? 各会社を転々と渡り歩いてロンダリングを繰り返されていたから非常に分かりにくかったんですが……!!」


「事件事故が起きるたび、ロクに処理もせず血や謎の液体が染み出た壁紙を白く塗り替えるということを繰り返していたようです。異常に白く見えたのは、シミを消すために法律スレスレの強力な塗料を使っていたからですね」


「人が亡くなった部屋って、変なシミが壁から浮き出てきたりするけどアレってなんだろう?」


「人間って、温度管理を徹底しないとすぐにダメになってしまう水分の塊ですからね。ヘタな化学薬品よりタチが悪いって聞きます。それに、人間が腐り落ちる過程で蛆や蠅がたくさん集まるんですけれど……とっても小さな彼らは特殊清掃されても完全に取り除くことは難しいんですよ」


「グロ表現はその辺りにして!? ……生きてるって奇跡に近いんだね!! 白い部屋での最初の事件はもう遠い昔みたい! 大正あたり? そこから何度も繰り返し、リフォームと建て替えを経て……都合の悪いところは白いペンキで隠して……」


「建物自体を取り壊しても、事故物件って引き継がれるんですか?」


「普通は止まるけどね〜? ホラ、幽霊にもいろんなタイプがいるじゃん? 白い部屋の霊は建物じゃなくって、住人じゃなくって、土地に憑いた霊だと見た!! ……僕には見えないけど!!」


「幽霊は気づかれないと力が弱まっていくんですけど、白い部屋は立地が特殊でして」


「立地?」


「ピーッにあるんですけど」


「実在の地名は止めて!?」


「そこは幽霊たちの通り道である霊脈のどん詰まりなんです。何もしなくても幽霊が溜まっていく場所なので、長年の悪霊たちに加えて新しい霊がミックスされて、新旧の霊たちがゴチャゴチャと煮詰まった状態が長く続いた結果、歪な事故物件になったわけです」


「三号くんの実家もいくつも事件が積み重なっていたよね」


「悪意を積み重ねてしまうと、完全に浄化するのは非常に厳しいです。長い年月が必要です。生きている人間も死んでいる人間も怖いですけど、一番怖いのは悪意という負の感情です。それは生死に関わらず他人に影響を及ぼします」


「どうすればいいんだろう?」


「いつものように、事故物件に一日だけ泊まってYouTubeで動画配信するのみでは無理です」


「無理とか言っちゃうんだ!? いつも強気なのに!?」


「もう、強がる必要はありませんから」


「どういうこと?」


「……浅葱さんが、いてくれるので」


「三号くん……!!」


「事故物件の怖いところは」


「もっと語ってもいいんだよ……!?」


「イヤです。……事故物件は狭い空間で繰り返し事件事故が起きるために、短期間でケガレの濃度が普通では考えられないくらい跳ね上がってしまいます」


「普通の心霊スポットなら数百年かかるところが、数年だったりね」


「心霊スポットだと出かけるときに身構えたりできるんですけど、事故物件だと全くの不意打ちじゃないですか」


「アレは困るよね〜。突然心霊スポットで暮らせっ! って言われるのと同じだもん。よくないこともたくさん起こるよ」


「……だから、三号はこの世から事故物件なんてなくなればいいなって思います」


「僕もだよ! ……でも、事故物件がなかったらキミと出会うこともなかったのかなって思うと……ちょっとさみしいなぁ」


「三号は……」


「あっ、さみしくなんかないよね!? ゴメンゴメン」


「……帰ってから、伝えます」


「えっ?」


「コレが、二号さんと三号の『ゴーストイーター』にとって最後の物件です」


「そっ、そうそう! それが今日一番言いたかったことなんだ! え〜、視聴者の皆さん!! 実はね、今回でお別れなんです! 急な報告になっちゃってゴメンナサイ!!」


「ありがとうございました」


「感謝してもしきれません! 最後まで頑張るので、解決編までお付き合い下さい!!」


「じゃ、一旦切ります〜」






***






「ハイ! コチラが例の白い部屋の前です!!」


「Hi〜♪」


「あっ! ラフィ!」


「こんばんは」


「Uhnnn……」


「なんだか顔色悪いね、大丈夫?」


「ノープロブレム……!キミたちが『ghost eater』してる間、ちょっと出かけるヨ」


「分かった! 終わったら連絡するからね!!」


「Bye-bye〜」


「行っちゃいましたね」


「この先に一号が……!」


「……行きますよ、浅葱さん!」


「うん! 那由多なゆたくん!!」







『前編はこれで終わりです!!


すぐに後編アップロードするので、ちょっと待っててね!


では、ごちそうさまでしたっ!!


ばいば〜い!!!』







<コメント:新着順5件表示>


アカウント名:□■□■

ええええ!?

一号さん見つかったのはうれしいけど二人は解散しちゃうの!?

もう三人で『ゴーストイーター』すればいいのに〜!!!


アカウント名:■□■□

行方不明の人物を探すことと事故物件YouTuberすることって、関係あるんですか?

それは教えてくれないんですね……でも今までありがとう!

一号さん、見つかっておめでとう!!!

最後の動画、楽しみにしてますね!


アカウント名:■■■□

三号くんの対応が最後まで塩w

一号のこと『兄ちゃん』って言ってない??

あと今回二人とも本名で呼び合ってるじゃん……最後くらいちゃんとしろ!

がんばれ!!


アカウント名:◼️◼️◼️◼️縺ォ縺■繧s繧医

おいおいあけないでくれおまえたちにはあんなすがたになったおれをみられたくなかっ たのにいまあけるとおまえたちのこところしてしまうあけないでくれたのむからあけるなもうおれはおれじゃないおまえたちのことをころしてしまうあけるなあけるなあけるなあけるなあけるなあけるなあけるなあけるなあああああああああああああああああああああああ縺ゅ≠あ縺ゅ◆あ繧峨≠縺セあ縺ッ縺あ縺ゅd縺九ああd繧?あ◆繧?あ≠あ繧医°ああ繧?°





アカウント名:■■■■荳蜿キ

たのむよいま

すぐにでてい

けよなころし

てしまうから


おまえらのこ

れからのこと

をかんがえて

ここにいるこ

ろすとかいわ

せるなだから



く 


る 





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