ヤキオニギリ

 ヤキオニギリの起源は江戸時代に遡る。


 場所は天下太平江戸の町、町人文化が花開き、この頃に握り寿司が産まれた。


 この頃の握り寿司屋は主に屋台であり今の握り寿司の倍以上の大きさがあったという。


 そんな数ある寿司屋の中に半兵衛という男が商う屋台があった。半兵衛はもったいない精神の持ち主で生寿司のネタが古くなっても捨てるのは忍びなくそれを焼いて客に出す事をしていた。ヤキオニギリの起源の話ではあるがこれが『炙り寿司』の起源であるとも言われている。


 そんなある日、半兵衛は風邪をひいてしまった。当時の文献に40度近くの熱が出て妻や子供達にもうつっているところから考えるとインフルエンザであったのではないかと後の専門家は語っている。


 仕入れてしまったネタがあった事から半兵衛は同じ長屋に住む長介に寿司屋のピンチヒッターを頼んだ。


 長介は寿司を握った事はなかったが日頃世話になっている半兵衛の願いを断れず屋台を引いていつも半兵衛が商いをしている江戸川沿いに店を開いた。


 元々器用な長介はそつなく仕事をこなしていた。夜も更けそろそろ店仕舞いをしようとしていた屋台に一人の常連らしき客が来た。


「あれ?半兵衛さんは?」


「半兵衛さんは風邪をひいちゃって休みでやんす!オイラはピンチヒッターでやんす!」


 アホそうに答える長介。


「そうか。それは大変だな。じゃあ、マグロを炙ったのを貰おうか。」


「え?」


「ん?」


「炙る?寿司を?」


「そうだよ。俺は生物が苦手でな。ここの寿司は炙ったのがあるから重宝してるんだ。ほらそこの七輪で炙って一つ頼むよ。」


 長介は混乱した。寿司を炙る?何で?半兵衛さんそんな事言ってなかったじゃん!あのアホ!…と心の中で悪態をついた。


 とはいえ、客を待たせてはいけないと七輪で寿司を焼き始めた。長介は真面目だった。友達にするならこういう奴がいいね…と作者は思った。


 しかしこの時、長介は重大なミスを犯していた。


 本来、炙り寿司はネタのみを炙るのだが、何も知らない長介は握った寿司をシャリごと焼いてしまったのだ。


「お待ちしましたでやんす。」


 長介はこんがりと焼けた寿司を客に出した。


「ありがとよ……何だこれは?」


 シャリに焦げ目のついた寿司を見て常連客は閉口した。


「言われた通り寿司を炙ったでやんす。」


「おいおい、シャリごと焼いてどうするんだ。ネタだけを炙るんだよ。」


「え!?そうなんでやんすか!?これは失礼いたしやした!すぐに新しいのを…。」


 そこまで長介が言うと常連客が制止する。


「ちょっとまて…何だこの香ばしい香りは…。」


 そう言うとそのアツアツの寿司を手に取り醤油につけた。


 ジュッと音がして香ばしい香りが更に倍増する。客はそれを口に運ぶ。


「これは…旨いな…。だが、このマグロが邪魔をするな…。酢の匂いも余計だ。米を握ったヤツを焼いてくれないか?」


「お客さん、それはオニギリじゃないですかね?」


「そういえばそうだな。まあ、いいじゃないか。やってくれ。」


 長介は白飯を握り焼いて客に出した。


「うむ。悪くない…。だがもう少し何か足りないな…。そうだ。醤油をつけた後にもう一度焼いてくれないか?」


 長介は言われた通りにそれを作った。寿司屋のプライドがない長介だからこそである。


「おー!!これは旨い!これは売れるんじゃないか?」


「そうですか?名前はどうしましょうか?」


「こういう名前は奇をてらってはいけない。焼いたオニギリだから『ヤキオニギリ』でいいんじゃないか?」


 こうしてヤキオニギリは誕生した。この時の客が発明家、コピーライターとして有名な平賀源内だったとか…じゃなかったとか…。



 嘘だけど…


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