第34話 強さ ④
「むー! 納得いかないよー!」
「だから、何度も言ってんだろ? お前にはまだ早かったの」
「………………」
私達は商業都市へと来ていた。
リンさんとドンさんの戦いはドンさんが急に速度を増し一撃を放ったところで終わりを迎えた。リンさんにはまだ早いと判断したため区切りをつけ、戦いは終わった。
リンさんはそれに今もさっきも納得してないけど、シオンさんにさっきも今もなだめられていた。そして、リンさんが面倒事を起こさないように、他の人達もそんな気を起こさせないため私達は冒険者の街を出た。そして、シオンさんの魔法により一瞬でこの商業都市へと戻ってきた。
「うー、まあいいや。もう忘れよっ! それより早く晩御飯食べよう! ちょっと早いけどねっ!」
「はいはい。好きにしろよ。ミイナもリンと飯食って今日は寝とけ」
「……はい」
こうして私は今日を終えた。
「違っがーう! そうじゃないよ! もっとシュッとやるんだよ!」
次の日、私は商業都市の外でリンさんから指導を受けていた。
「だか、ふああうぅ……。……ら! こう! シャッと、シュッと!」
「眠いなら寝てこいよリン」
「いい! 大丈夫!」
リンさんから指導の声が飛ぶ。少し眠そうだけど元気のある声が。
……でも、私はそれを受け取れていなかった。
「うー? どうしたの? やる気ないの? ダメだよ! 集中しないと!」
「…………はい」
「いい? いつでもちゃんと集中していないとダメだよ。戦いはね一瞬の油断で負けるんだよ。だから、修行の時も一瞬たりとも気を抜いちゃダメなんだよ!」
「………………」
リンさんが何か言っている。私には何を言っているのか分からない。昨日から体が重い。全然動かせないし動かす気も起きない。
「むー! ミッちゃん! やる気ないなら帰っていいよ! そんな気の抜けた弟子を指導するやる気こっちも起きないからね!」
「…………はい。分かりました。帰ります」
「……え?」
そっか。迷惑だよね。駄目だな。私は。もう、迷惑にならないように帰ろう。
そう思い私は宿へと向けて歩き出した。
「え、え、ちょっ、ミッちゃん!? まって、ボク、うええ!? ええ!? あれどうしよ! シオン!」
「ほっとけほっとけ」
「ええ!? そんな、ほっとく……、いや、でも、ボクの……」
「いいからいいからー。ほっとけほっとけー」
後ろでシオンさんとリンさんが何か言っていたけど私は振り向きもせず街へ歩き続けた。
眠れない。ベッドに横になり目を閉じていても眠れない。あの後、私は宿へと帰り、そのまま夜を迎えた。
眠れない。こんなことは今までなかった。いつもは死ぬほどしごかれて、ベッドに倒れ込んだ瞬間眠りについていた。でも、今日は違う。
「……外行こう」
私はベッドから起きて外へ向かった。
外へ出てみると月明かりだけが街を照らし、涼しい風が吹き抜けていた。商業都市の夜は静か。どの店も夜は店を閉める。魔物は夜行性が多い。だから、夜は家にいて鍵をかけ静かにし身を守る。それは街も同じ。昼間は開いている通行用の壁にある門も全て閉じている。
普段は大勢の人で賑わう大通りを歩く。今は私以外一人もいない。私の足音だけが響く。しんとした静けさを吹き抜ける風を感じ、私を照らす月へと顔を上げる。
「……綺麗だなぁ」
月は金色に光輝いていた。美しく、それでいて力強く。私とは対称的だ。
……私はこれからどうするべきなんだろう。私は弱い。弱かった。自惚れていた。私は強いなんて。
いや、元から分かっていた。私がシオンさんやリンさんなどの達人たちに遠く及ばないことなんて。でも、認めたくなかった。だって、あんなに頑張ってたんだから。何度も死にかけたし、痛いし、辛いし、苦しいし。色んな苦しみに耐えて修行していた。だから、私は強くなっていて、もう少しで届くんじゃないかなんて思ってた。
でも、実際はもう少しどころじゃなくて遥か彼方遠くにいた。あんなに頑張ってたのに。全然届かない。あんなに手を抜いていたのに見ることすら敵わない。分かっていたことなのに、いざ突きつけられると……。
……やっぱり私には無理なのかな。私が強くなるなんて。シオンさんも言ってたよね。私には何の才能もないって。才能ない人間がいくら頑張ったって無理なんだ。
それに私が別に強くならなくてもいいよね。私じゃなくても強い誰かに頼んでやってもらえたら……。
……もう止めるべきかな。二人に師事するのを。私がいくら頑張ったってあんな強くなれないだろうし、無意味に二人の時間を奪うのは良くない。リンさんはお師匠さんを全然探せてないし、よく眠そうにしているし。私は邪魔してばかりいる気がする。シオンさんはよく分からないけど。
それにこれからも今日みたいにやる気なく指導を受けるのは失礼だよね。そりゃリンさんも怒るし、やる気もなくなる。全部私のせいだ。
でも、明日から、これから今のままでやる気が出るとは思えない。私は知ってしまった。達人の世界を。異次元の世界を。私が到底辿り着けるとは思えない世界を。
その世界へ自力でなくても一歩踏み込んでしまったことにより、私の今までの全てが否定された。私の今までの努力なんて無意味だったと。そんな風に思えてしまった。
達人と私の差。今までの私の努力。これからの私の未来。どうするべきか、どうなるべきか。それでいいのか、それがいいのか。
私はあの月とは違う。汚く、弱い。でも、そんな私を照らしてくれる月。私はあの月のようになれるのだろうか。あの月に照らしてもらっていていいのだろうか。
美しく、力強く輝く月を眺め私は考える。私はこれからどうするべきなのか。私はどうしたいのか。
そんなふうに色々と考えいた時、不意に暗さが訪れた。闇夜よりも暗い、深い深い黒の暗さが。そして、私を照らしていた月明かりが消えた。
「こんな遅くに一人で出歩いてたら襲われるぞ? 俺みたいなやつにな!」
月を隠す影が私を覆った。
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