第9話 成功の影に ④
草むらから現れた小さな魔物、ゴブリン。人間の子供ぐらいの背丈で緑っぽい皮膚、尖った耳、中々怖い顔。私の討伐対象。
「ギギャーギャー!」
ゴブリンは私に向けて威嚇する。耳障りな大きな声で私を圧する。でも、この程度で怖じ気はしない。私は強くなる。こんなことで怯んでいられない。
幸いにもゴブリンは一匹。武器の類を持っている様子もない。他の仲間が来る前に早く倒しちゃおう。
「やああああ!」
私は構えた剣を大きく振りかぶりゴブリンへと斬りかかる。ゴブリンの頭を狙い一刀両断で真っ二つにするイメージで。
「ギャイイイイィィ!!」
頭から真っ二つにするイメージで斬りかかったけど、ゴブリンに少し躱されゴブリンの腕を叩くという結果になった。躱されたこともあり剣は肉を少しだけ斬り、あとは叩くようなことに。
それにしてもこの剣切れ味悪すぎる。初心者冒険者に配ってるやつだから仕方ないかもしれないけど。これだったら包丁の方がよく切れる。
切れ味が悪いから斬るのはダメだ。他の方法を考えないと。
「ギャォォォ!」
「うぐっ!」
一撃入れた後、考えているとゴブリンから反撃を受ける。ゴブリンの勢いある体当たりをもろにくらい、私は吹っ飛ばされる。
そして、体当たりの勢いで私は地面に倒れ、その上へゴブリンに乗られる形となり、上からの殴打を受ける。力任せに拳を私の顔面に向けて振り下ろすゴブリン。それを剣を防御に使い何とか防ぐ。でも、子供ぐらいの力とは言え上から殴られ続けるのは防御していてもかなりの衝撃がある。
「ぐっ……、このっ!」
私はゴブリンを振り下ろすために身体を右に左に捻る。そして、それによりゴブリンはバランスを保つために攻撃の手を止め、私に反撃の機会を与えた。
攻撃が止んだとき、私はそれまで両手で防御に使っていた剣を咄嗟に片手に持ち替え剣でゴブリンの胴を突いた。そんなに勢いよく突けはしなかったが、剣の切っ先はゴブリンの肉にめり込み、ゴブリンの身体を吹っ飛ばす。
何とかゴブリンを私の上から降ろすことには成功し、上に何もなくなった私はすぐに起き上がる。そして、吹っ飛ばされたゴブリンもまた立ち、再び元の状態へと戻ってきた。
元の立ち合いに戻り、今度は先にゴブリンが仕掛けてきた。さっきと同じ体当たり。捨て身とも言える勢いでぶつかってくるゴブリンの体当たり。それを今度はちゃんと躱す。身を捻り横へ避け、体当たりを躱す。体当たりを躱されたゴブリンは私の剣の間合いよりも遠くに行ってから方向転換をし、そして、また突っ込んでくる。
一度、二度と体当たりを躱したが、その後もゴブリンからの体当たりは途切れることなく続いた。何度躱そうとも再びぶつかってくる。そして、それをまた私は躱す。
「はぁはぁ……。あぶっ!」
何度躱そうとも体当たりを止めないゴブリン。ゴブリンと言えども魔物。体力は私よりもはるかに多いのだろう。もう既に体力の限界へと近づいてきている私に対し、ゴブリンはまだまだ元気だ。
また、来る!
「くっ! どうすれば……」
ゴブリンはずっと体当たりを仕掛けてくる。それを躱した後もすぐにまた来るから、こちらが攻撃する隙がない。
それに攻撃出来たとしてもこの剣でゴブリンを斬ることは出来ないだろう。切れ味は悪いし、私の腕力じゃ押し斬ることも出来ない。棒として叩くことに使ってもゴブリンを叩き倒す前に私の体力が尽きそうだ。剣は使えない。かと言って、素手なんてもっと無理。どうすれば……。
「は! きゃあ!」
悩んでいて対応が遅れた私は体当たりを躱すことは出来たが、バランスを崩し地面に倒れこむ。
ゴブリンはこれを好機と捉えたのか、いつもより短い距離で方向転換をし、倒れてる私へと突っ込む。そして、また私の上へと乗っかってきた。
乗った後はまた殴る。上からひたすら。私の顔目掛けて。
それを私は剣で防ぎながら、前と同じように身体を捻りゴブリンを振り下ろそうとする。そして、攻撃が止んだとき剣でゴブリンの胴を突く。剣は肉にめり込み、今度は少しの傷をつけた。
ゴブリンを降ろし、起き上がる。……ダメだ。もうそろそろ限界を迎える。全身が疲労感に襲われ、息も苦しい。
早く倒さないと。でも、どうやって? 剣はなまくら。腕力で叩き斬ることも出来ない。素手でゴブリンを倒す技術も力も私には無い。対するゴブリンはまだまだ元気。体力も有り余っているだろうし、身体にダメージも少ない。あるダメージなんて最初の一撃で出来た腕をの切り傷と二回目に突いた時にできた胴の小さな切り傷ぐらい。斬った時と突いた時……。
満身創痍の私と小さな傷二つのゴブリン。ここからどうすれば私が勝てるのか。剣も使えず、力も無い。
……今の私にゴブリンを倒す攻撃をすることは出来ない。
吹っ飛んだゴブリンが起き上がる。そして、また突っ込んでくる。捨て身の体当たり。当たればすごい勢いのある体当たり。私を吹っ飛ばす程の勢いで、全身で真っ直ぐ私へと突っ込んでくる。
今の私にゴブリンを倒す攻撃をすることは出来ない。私の力では出来ない。
……それなら、力を貸してもらえばいい。
足を開き、腰を落とす。剣を胸の高さで固定する。私の力でゴブリンを倒せないならゴブリンの力でゴブリンを倒してもらえばいい。ゴブリンのあの体当たりの勢いをそのままゴブリンにぶつければいい。
「来なさい!」
足に力を入れろ。剣をちゃんと固定しろ。何のためにシオンさんに鍛えてもらったんだ。
「っぐうううっっ!!」
ゴブリンが突っ込んでくる。狙い通り構えた剣へ。そして、すごい衝撃が私を襲う。耐えろ。動くな動かすな。大丈夫、いける。スクワットで足腰は強くなった。走り込みで忍耐力もついた。素振りで腕力も鍛えた。
「ギイイイイィィ!!」
突っ込んで来たゴブリンが剣へと突き刺さる。しかし、弱い。野生の本能が働いたとでも言うのか、ゴブリンは体当たりを弱めていた。突き刺さるが貫くまではいかない剣。
あと少し。あと少しで貫ける。貫け。力を入れろ。身体は限界だろうと諦めるな。強くなるんだろ、私!
「ああぁああぁぁぁ!!」
最後の力を振り絞り、剣を強く押し出す。ゴブリンの身体へと深々と突き刺さっていた剣。それがついに貫いた。
「ギ、ギギ、グギッ…………」
「ハァハァ。……やった」
剣はゴブリンの身体を貫き、貫かれたゴブリンは息絶える。
「やった。私の、私の勝ち……! 勝ったんだっ……!」
私は剣から手を離し、地面に落とす。ドサッと地面に落ちる剣とゴブリン。
私は立っている。ゴブリンは地に沈んでいる。……勝った。私は勝ったんだ!
「ううっ……、やっ、やったー! 私、勝った! 勝っ、え?」
勝利の喜びで歓喜する私。しかし、そんな私の目に突然何かが飛び込んできて、そして、
ゴスッ。
「んぐうぅ……。痛、何……?」
私の目に向かって突然飛んできた何か。咄嗟にそれを躱そうとするが、躱しきることが出来ず、目の少し上の額にそれがぶつかる。
そして、それは私の額にぶつかり地面に落ちた。石だ。握りこぶし程ありそうな石。それが私に飛んできてぶつかった。
「石、なんで、? ……あっ……」
石が飛んできた方向を見た時全てを理解した。
「ギイギィギィギャーー!!」
石が飛んできた方向、そこには私を睨みつけるゴブリンが大量にいた。
「あ、やだ……、逃げ、ないと」
早く、早く、早く早く早く逃げないと。逃げないと、逃げないと、私は…………。
「あれ……、動か、動かない……?」
身体が動かない。逃げないといけないのに。ただ石のように立っているだけで動けない。
怖い。ゴブリンがあんなに。一匹でもこんなボロボロにされたのに、あんなにいたら確実に殺される。殺、される……。
恐怖で身体が固まる。殺される悲惨な映像が頭によぎる。動けない。
「ギィ! ギィギィ!」
一際大きな身体のゴブリンが声を上げる。それは仲間への合図。私を殺すための合図。
「や、やめっ、いっあああぁあぁぁ!!」
合図で一斉に私に襲いかかるゴブリン達。動けない私へ容赦なく攻撃を仕掛ける。
「あぐっ、うえ……、う、あ………………」
殴られ、蹴られ、潰され、引裂かれ。防御することも出来ず、ただ攻撃を受け続け私は壊れていった。身体は壊れ、意識は無くなっていく。
暗い。
暗い暗い黒……。
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