第3話

 そして、戦局に対応する様に、『奴ら』に対するエムロード人の反攻は、地上作戦から、海上での作戦に切り替わった。

 以後、地上戦においてたまに見る事が出来た珍しい水上型、それからお馴染みの地上侵攻型は姿を見せず、殆どの部隊が相手にするのは、航空目標である空中移動型になっていた。


 ある日、決死の海洋探査作戦が実行され、制空権を確保した航空支配下で、奴らの大部分が隠れている海中の様子が探られた。

 当時、我々の船はその殆どが『奴ら』の攻撃によって失われて仕舞っており、その海中を探って情報を得る作戦は、代わりに、哨戒機による無人深海探査機の投下によって実施された。

 その結果、海中に潜って自身の周囲を探っていた探査機の幾つかが、海中でうごめく『奴ら』の群れを発見し、その中に、ひときわエムロード人の兵士を悩ませていた、あの地上侵攻型の動きを捉えた。

 それらは、我々の住む地上で何度と無く見せた、エムロード人を追い立てるあの怪物の様な動きとは違い、まるで逃げ場を探す草食動物の様に海の底を移動していた。


 探査作戦で投下した我々の探査機の殆どは、無事に戻っては来無かった。

 海中と言えど、『奴ら』の戦闘力は健在だったからだ。

 奴らの姿を捉える事が出来た探査機もすぐに破壊された為、送られて来ていた映像は、どれも途中で途切れている。

 探査で得られた情報を分析した結果、今後は、海上から陸地に飛来して来る『奴ら』の空中移動型と戦いながら、未だ大量に残って海底を逃げている地上移動型の数を少しずつ削る作戦を展開する事になった。


 作戦において迎撃すべき奴らの空中移動型の殆どは、エムロード人の兵器とは違い、電波では無く光学で、敵である我々を捉えていた。

 これは、さえぎる物の無い海上では実に厄介やっかいな敵の特徴だ。

 その為に、何機の味方が犠牲になった事だろう。

 レーダーを欺瞞ぎまんする電波妨害などは、『奴ら』の殆どには、一切いっさいか無いのだ。

しかし、その一方、飛行中は雲の中に潜って仕舞いさえすれば、群れを成して攻撃して来る奴らの追撃から逃れる事は出来た。

 その為、隠れる雲の無い良く晴れた日の出撃は、憂鬱極まり無いものだ。

 

 私は他の飛行士と共に、愛機に新兵器を搭載して出撃し、味方の爆撃機の進路を塞ごうとする敵や、高速で海岸に近付こうとする敵を葬り去って行った。


 だが、そんな忙しい任務などにまみれて過ごした日々も、或る時、遂に変化を迎える。

 或る日、私達エクスリスト中隊の置かれていた、海岸べりにある航空基地の滑走路が伸張されてから、中隊は実戦におもむく任務をやや減らされ、その代わり、重い訓練用の爆弾を抱えて、離着陸を繰り返すタッチ・アンド・ゴーの訓練を任務の間にはさんで繰り返し実行する様になったのである。

 使っていた火薬の無い訓練用の模擬爆弾は、通常、爆撃機が運ぶ大型の海面貫通爆弾をした物だった。

 その頃の『奴ら』は、海上の主要な箇所に氷を張って、地上移動型を航空機の爆撃から守る様になっていたので、私は最初、その訓練は爆撃機が作戦を実行出来無くなった場合に備えてのものだと思っていた。


 だが、毎日の様に出撃する爆撃機を護衛する戦力を削ってまで、この様な訓練を入念に繰り返すのは変だと言う思いは、エクスリスト中隊の誰もが感じている事だった。

 それが秘密にされている新兵器の投下訓練だと推察するまでに、そう時間は掛から無かった。

 その大型爆弾を使った訓練は、直ぐに5、6機で編隊を組んで、同時に投下する訓練に変わり──。

 そして、その時は来た。

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