3-6
チャイ・ラッセルについて、俺はそれほど多くの事を知っているわけではない。
学年順位八位、特に身体能力、それも反射神経に優れた性能を持ち、従器の操作においても平均を大きく超える、その順位通りに学年上位の腕前の従者候補生。
「……はぁ、っ、あぁ」
少なくとも、自分では客観的なつもりの概要を並べてみると、特に彼女に問題はないように思える。その言い方が正しくなければ、有望、あるいは優秀と言ってもいい。
「くそっ!」
少し前までは、俺もそう思っていた。客観でなく主観で、優秀なチャイの事を競争相手として警戒していた。
「…………」
だが、今、チャイは俺の目の前で息を荒げ、床に片膝を付いている。対する俺は、無傷のままでそれを見下ろす形。いや、無傷と言うならばチャイの方も同じではあるのだが。
互いに無傷、決定打すら与えないまま、それでも勝者と敗者の定まった状況がそのまま現時点の二人の力量差を示していた。
「なんで……」
呆然とした呟きは、何に対してのものか。
ただ単純に俺に敗北した事へのものでは、おそらくないだろう。仮にも学年一位と位置付けられた俺が八位のチャイに勝利したという結果自体は、妥当とすら言える。
驚くような点があるとすれば、それはすなわち彼我の力関係ではなく、その間の差、絶対的な力量の違いについてのもの。
明らかに全力、ついには従器が制御限界に達して自壊するまで繰り返されたチャイの攻勢の全てを、俺は予測も妨害もせずただ後反応で受け切った。それは、つまりイレギュラーのない平地での対戦では、百回やっても百回俺が勝つという事を意味する。それほどの差が、今の俺とチャイの間にはあった。それがわかってしまった。
「…………」
打ちひしがれたチャイを置き去り、俺は訓練場を後にする。勝者が敗者にかける言葉など無い、とはよく言われる事だが、その意味を俺は嫌というほど知っていたから。
後ろ手に閉めた扉の先、聞こえた弾けるような衝撃音にも振り返る事はなかった。
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