2日目昼 探偵――立花レン

 次の日。

 僕は目覚めが悪かった。

 原因は昨日のあの出来事だ。

 ヤエギというVtuberが突然にピエロに殴られて配信が終了したあの放送の所為で夢見が悪かった。

 どこかバーチャルなのに――いや、バーチャルとしてリアリティのある終わり方だったので頭に引っ掛かったのだ。

 ……世間の反応はどうなのだろうか?

 気になったのでネット上で調べてみた。


「……大して話題になっていないな」


 ヤエギ、で検索しても昨晩の出来事は多くはヒットせず、しかもネット上の反応はどこか面白がるようなものばかりであった。


「仕込み……まあ、普通はそう思うだろうな」


 実際、僕も最初にそう思った。

 だけど何だろう……探偵の第六感というモノだろうか? それが何かがおかしいと訴えてくるのだ。

 あれが仕込みで遊びであるならば、それはそれでいい。

 そう思いながらヤエギのSNSを見てみる。

 昨晩以降から投稿がぷっつりと途切れている。フォロワーからの反応にも何一つ返していない。まあ、仕込みであったらそれは当然だろう。……仕込みでなくても同じだが。


「……ん?」


 フォロワーからの反応を辿っていた所、ふと違和感を覚えた。

 今までのヤエギの呟きに全て返していたフォロワーが、昨日の最後の呟きにだけ何も返していなかったのだ。


「……綾胸あやむねエリ、か」


 その人物の名を口にして、SNSを見てみる。


「えっと……綾胸エリ、おっぱいの大きな我らが姫、胸から下は見えないが器用に階段を降りる女性、エリちゃん、腕立てをすると地面を胸が付いている女性…………凄いな」


 自己紹介文を読みながら僕は感嘆した。

 胸の大きい女性型Vtuberだが、Pカップは流石に現実離れしているだろう。

 ……いや、凄い、とはそういうことではない。

 仮想空間を存分に楽しんでいる様子で凄いと思ったのだ。

 そのままの勢いで動画も見た。


『やっほーっ! エリちゃんだよ! みんな見惚れているー?』


 女性特有の高い声で自分の胸を言葉でいじっている。コメントの反応もノリノリだ。バーチャル世界を思いっきり楽しんでいるのが分かる。

 しかしながら、そんな彼女のSNSの呟きは昨日で止まっていた。かなりの頻度で呟いていたのにヤエギと同じタイミングで呟きを止めていることが気になる。


「……え?」


 SNSからYoutubeのチャンネルに移った所で、僕は思わず声を上げてしまった。


「生放送予定がある……?」


 綾胸のチャンネルには次回の生放送予定が入っていたのだ。

 時刻は午前0時。

 題名は『雑談配信するよー』


「見てみるか」


 僕はそう誓うと、夜に備えてもう一度布団に入るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る