1日目 探偵――立花レン

 バーチャルYoutuber。


 動画共有サイトYoutube上で活動するYoutuberの中でも、二次元キャラなど仮想空間で活動しているYoutuberのことを主に差す。


 別名Vtuber。


 顔を出さずに活動しているということが大きなメリットになっていることからも、今やその数は五〇〇〇人を超えているとも言われており、急速にその数を増やしている。


 そして、僕もその中の一人だ。


「……ふう」


 僕は立花たちばなレン。探偵Vtuberだ。探偵の名の通り、推理が得意である。またかなり情報工学について明るいので、やったことはないがハッキングなども本気を出せば簡単にできる。まあ、犯罪行為なので決して行わないのだが。


 はてさて。

 そんな僕は今ヘッドホンを耳に掛け、Youtubeで動画を見ている。

 大物もいれば新人もいる中、僕はどちらかというとふらっと色々な人を見る方が多い。

 時刻はもう午前〇時を回りそうな頃。

 今日もVtuberの生配信を見てみることにした。


 チャンネル名は「YAEGI!kun」。

 ヤエギ、という人が雑談配信している。前髪が指の形をしているということが特徴的なVtuberだ。



『ういっす。そんな感じで俺っちはヴィジュアル系って何かを考えっているっすよ』


 軽い口調で視聴者に話し掛けているが、その声の感じから好青年の様子を醸し出しており、外見とのギャップが面白い。そういう中の人が垣間見える瞬間も面白さの一つだろう。

 ……いや、中の人とか言ってはいけないな。

 僕は頭を振って彼の放送に目を向ける。


「……ん?」


 画面に映っているヤエギ。

 その背後に映りこんできたのだ。


 真っ白に塗られた肌。

 真っ赤な丸鼻。

 黄色と赤の派手な衣装。

 にたにたと張り付いた笑み。


 それは紛れもなく――だった。


「……何だこれ?」


 思わず眉間に皺を寄せてしまう。

 画面に現れたピエロはあまりに場違い感があったのだ。


『そうそう。前髪のセットがこれまた難しいんすよ。マジでやったらどれくらいワックス代でどれくらい使うんだよってね。大学生のお財布には優しくないっす』


(……気が付いていない?)


 ヤエギは全く背後に出現したピエロなんかに言及していない。視聴者のコメントがあるが、タイムラグがあるからか気が付いていない様子だ。

 しかしその間にもピエロは、彼に少しずつ近づいてきている。


 一歩。

 また一歩。

 僕はずっとそのピエロから目が離せなかった。

 思わず息を止めてしまう程に、じっ、と。


 そしてピエロはヤエギの背後に立つと、右腕を振り上げて――


『ん? コメントなに? 後ろ? 後ろに何が――』



 ガンッ!!



「っ!?」


 突然の大きな衝撃音に、思わずヘッドホンを外してしまった。


「何だったんだよ今のは……?」


 文句を言いながらパソコンの画面に目を移す。

 すると、ヤエギの放送は終了していた。

 タイミング的に考えれば、ピエロが拳を降ろして大きな音を放った直後に終わったということだ。

 でも傍から見たらこう思えてしまうのだ。


 ――


「……仕込みだろ……?」


 しかしながら僕は背中に薄ら寒いものを感じていた。

 Vtuberがピエロに殴られた瞬間に放送を終了させた。

 そう、それはまるで――



「……殺されたみたいじゃないか」

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