13話「聖夜のミスコン」

「――大変長らくお待たせいたしました! ではアピールタイム行きましょう!」


 それからしばらくして私たちの着替えも終わり、舞台袖に待機する。そして司会者さんの合図と共に、明日美あすみ先輩から順にステージへと出ていく。大きな拍手とともに、おそらく男子の歓声だろう、それが混ざって聞こえてきた。私たちのその姿に興奮しているのか、とても目をキラキラさせて、腕を上げて何か叫んでいる人もいた。なんか、その男子たちにちょっと恐怖感を覚える私がいた。そして一番大事なれんの反応を見てみると、他の男子たちと同じように私たちの姿に魅了されているようで、見惚れているようだった。それが私に対してならいいのにな、なんて考えながら、私は所定の位置へとつく。


「みなさん、いかがですかー? この美女たちのウェディングドレス姿は!」


 みんなが位置についたところで、司会者さんがそんな風に観客へ煽る。すると、圧倒されてしまうほどの大きな歓声が上がってくる。


「ですよねぇーいやー誰も彼もみんな似合っててこれは激戦の様相を呈してきましたよぉー! では、アピールタイムに移りましょうか! 私が質問をしますので、参加者の皆さんはそれぞれ出てきた順に答えていってください!」


「さぁーて、まずは……『自分の好きなタイプ』でも訊いちゃましょうか!」


 いきなり攻めたような質問が飛び出してくる。私たちは予め質問の内容は聞いていない。だから、突発的な質問に、アドリブで対応しなければならないのだ。このアピールタイムはその辺の実力が試される戦いとなりそうだ。


「おおおおおおぉぉ――!!!!」


 やはり男子たちはそういうのに興味津々なのか、低くでかい歓声が上がってくる。


「さあ、まずは明日美さんからどうぞ!」


 そう言って、司会者さんは明日美先輩へと近づいていき、マイクを向ける。


「え、えぇー……好きな、タイプ……あっ! えーと、いつもはついつい構いたくなっちゃうような愛くるしさがあるんですけど、いざって時にはバシッと決めてくれて、カッコいいところを見せてくれる人、ですかねー」


 明日美先輩は悩むような仕草をしたが、何かを思いついたのか、ズラーッと自分のタイプを話していく。


「え、えらく具体的ですねぇー……さて、続いてりんさん!」


 司会者さんの言葉通り、『誰か』を思わせるような具体的な内容が語られた。そしてその明日美先輩の言葉に、私はその『誰か』の方へと目をやると、頬を赤らめて明らかに恥ずかしそうにしていた。そんな彼に、ちょっと明日美先輩が言うような、愛くるしさを感じていた。


「はーいっ! 私はーいつもは私のボディタッチに嫌そうな顔して抵抗してるけど、なんやかんやでそれをいっつもさせてくれる優しい人かなぁー! ホントに嫌なんだったら、もっと本気で抵抗してるはずだしね! それに『嫌よ嫌よも好きのうち』っていうし」


 明日美先輩の流れを組んだのか、また同じ人をさすような内容だった。その凛先輩の言葉に、彼はどう考えても困って、嫌そうな顔をしていた。あんまり積極的に、グイグイいくタイプは好きじゃないのだろうか。


「はぁーこれまた具体的……というかもはや特定の誰かさんを指しているようなもんですねぇー! さあ、次はつくしさん!」


「えっ、えと……えとっ! 私が、仕事の途中で眠ちゃっても、生徒会室までおんぶして運んでくれる、そんな気が利く人ですっ!」


 完全に流れが出来てしまい、全員が彼の、いわば自慢をすることになった。そうなると、これはもう私の知らない煉の情報を聞く機会となる。煉はそんなことをしていんだぁーと思いつつ、やはりちょっぴり嫉妬してしまう私がいた。


「ほほーう! やはりそういう優しさがモテるんでしょうな! さて、今度はなぎささん!」


「えっとー……いつもは……冗談ばっか言って茶化すくせに、褒める時はちゃんと褒めてくれる、そんなカッコいい人……です」


 ものすごく身に覚えのある事を、うつむき加減で恥ずかしそうに答える。やはりあの時のアレはそういうことだったのだろう。なんかこうやって聞いていると、彼が数々の女の子を落とす『罪作りな男の子』に見えてきた。もっとも、私もその彼に落とされた女の子の1人なのだけれど。


「あぁーやっぱり女子からしたら、ちゃんと『言葉で』褒めてもらえると嬉しいですもんねぇー! さて、次はみおさん! 大丈夫かなー?」


 そして司会者さんはそんな感想を述べた後、不安そうに澪さんの元へと寄っていく。


「えっ!? あっ、えと、そのっ! 恥ずかしいぃ!」


 もう恥ずかしさに耐えきれなくなってしまったのか、澪さんは両手で覆って顔を隠してしまう。傍から見ている私たちには、それはとても可愛らしいかった。だけれど本人からすると、気が気ではないだろう。ただでさえ恥ずかしがり屋だというのに、この大勢の前でこんな質問をされているのだから。例の彼も、どこか心配そうに澪さんを見つめている。


「あらら、これはもうギブアップ……ですかね……?」


「はいはーい! 姉が代理で言います! 私が寒そうにしている時に、すっとすぐに制服の上着をかけてくれる優しくて、気が回る人、でしょ?」


 そんな澪さんに、助け舟と言わんばかりに、渚さんがそう答える。たぶんこれも、あの人のことをさしているのだろう。そう言った時の、彼の驚いたような表情からも、それが伺える。


「ちょっ、お姉ちゃん!」


 渚さんのそれは図星だったようで、澪さんはお姉ちゃんにあわあわしていた。それに、観客のみんなは相変わらず優しく見守るような感じであった。


「ほーやっぱりそういうのは、心にきますよねぇー! さて、お次は莉奈りなさん!」


「はい、えー自分には関係のないことなのに、私のためにと一生懸命頑張ってくれる人、です……」


 流れ的に、これも彼のことなのだろうか。そう言えば目撃情報から、汐月さんと一緒に帰っているという情報もあった。案外、このミスコンの出場を促したのって、彼だったりして。


「自分のために頑張ってくれるのは、そりゃ嬉しいですよねぇー……さあ! どんどん行きますよ!」


 そんなことを考えいてるうちに、気がつくともう私の順番が回ってきていた。私は1つ小さく咳払いをして、質問に答える準備を整える。


「私が困っている時に、手を差し伸べてそこから助け出してくれる、いわば白馬の王子様みたいな人です!」


 私もこの流れを組んで、空気を読んで彼のことを話すことにした。ただ当然、彼はそれが自分のことだとはつゆも知らないことだろう。これは残念だけれど、彼の記憶のない期間にあった出来事だから。そして私がそう言い終わると、彼は安心したような表情を見せる。そんな彼がおかしくて、ちょっと内心1人で笑っていった。


「ふむふむ、そんなカッコいいところ見せられたら、そりゃ惚れちゃいますよねぇー! さあて、続いては藤宮ふじみやさん!」


「ふ、不真面目……じゃなくてーやることはちゃんとやってくれて! 約束はちゃんと守ってくれる人です!」


「そうですよねぇー約束はちゃんと守ってもらわないとですよねぇー……さてっ――」


 本人がどういう意図で発言したかはわからないけど、ここまでの流れだからか司会者さんはもうあの人前提で話を進めて、どこかニヤニヤした表情でそう感想を述べた。それからどんどんと好きなタイプが暴かれていき、最後の人まで好きなタイプを明かした。そして司会者さんが明日美先輩の位置まで戻り、それからは個別に質問していく形となった。やはり有名な生徒会の3人や、渚さん等には質問はあまりせず、藤宮さんやその他ファンクラブを持たない女子たちへの質問が集中した。たまにあるとすれば、汐月しおつきさんが今回参加に至った理由や、凛先輩のミニスカウェディング衣装への言及などだった。これはたぶん、ファンクラブ持ちの女子たちはもう既にどんな人かが知られているけれど、そうじゃない人たちはまだ観客の人たちがどんな人か知らない人もいるから、それへの配慮なのだろう。でも、それで困るのは私。転校してきたばかりで、その観客の殆どが私を知らないため、私にばかり質問が集中し、ほぼ私の独擅場どくせんじょうになっていた。それから一通りアピールタイムも終わり、私たちは舞台袖へと帰っていく。そしていよいよ投票タイムが始まった。もう私たちには何もできない。ただただ1票でも多く投票してもらえること祈るだけだ。だから、私が優勝するように祈りつつ、私は投票が終わるのを待っていた。

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