神様からの電話

安東 亮

第1話

 呼び出し音二十回。〈切電〉


「こちらは留守番電話サー」〈切電〉


「こちらは留守番電話サービスで」〈切電〉


 呼び出し音二十回。〈切電〉


「もしもし?」

 女性の声だ。四十代ぐらいか。

「もしもし。こちらは、株式会社スタディと申します。小学生、中学生のお子様に向けまして家庭教師の斡旋を行っております。日ごろゲームばかりで、なかなか学校の宿題も……」

「うちに子どもはいませんけど?」

「あー、そうでし」〈切電される〉


「こちらは留守番電話サービスで」〈切電〉


 呼び出し音二十回。〈切電〉


 呼び出し音二十回。〈切電〉


「はい。大畑でございます」

 高齢の女性だ。声に気品が漂う。

「もしもし。突然ですけれども、奥様、不動産投資をどのようにお考えでしょうか。お手元の資産を賢く運用し、老後の潤沢な資金を確保……」

「はいはい。承知しておりますよ。言われなくてもやっておりますので、ご心配なく。それでは、ごきげんよう」〈切電される〉


「はい」

 訝しげな二十代男性。

「もしもし。こちらは株式会社ワールドトーキングと申します。これからの時代、英会話の能力なくして」〈切電される〉


「こちらは留守番電話サ」〈切電〉


「もしもし?」

 不機嫌そうな中年男性。

「お忙しいところ申し訳ありません。私、ネットフリーの川島と申します。お客様の携帯電話の月額使用料とネット回線使用料と電気代を一気に安くする新」〈切電される〉


 呼び出し音二十回。〈切電〉


「はい」

 低く重い声。不機嫌そうな中年男性。

「こちらは角田貴金属サービス株式会社と申します。お客様、今、金・プラチナ投資が流行していることをご存知ですか?」

「はぁ?」

「目まぐるしく世界情勢が動く現代においては、株式や不動産よりも安全に資金を運用することのできる金・プラチナこそがお客様の資産運用に最も適していると考えておりまして、ですね」

「じゃあ、おたくがやればいいじゃん」

「ええ。もちろん、私もやっておりまして」

「で、儲かってんの?」

「はい。もちろん、それなりの利益を生み出しております」

「じゃあ、それでいいじゃん。他人に勧めなくても、自分たちで儲かるじゃん。なあ、そうだろ?それを何で他人に押し付けようとするんだよ。そんなに儲かるなら教えない方がいいじゃん。違うか?おい、どうなんだよ?」

「ご入用ではなさそうですね。失礼いたしました」

「おい、待てよ。おい、な」〈切電〉


「ふー。今日も異常なしと」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る