01-14 初転職



「おっはよー! いやー、いい朝だな。朝日が目に染みてくるぜ!!」


 ログインしてベッドから起き上がり、始めて見たものは──太陽(?)だった。

 眩しく目を照らすその輝きは、太陽そのものなんだが……いろいろと疑問点がな。


「とりあえず、今日も一日頑張るか」


 色が若干異なっていようと気にしない、そう思考を放棄して外へ向かう。




 リカルドさんに鍵を返して最初に行ったのは、冒険者ギルドだ。

 ──そう、ゲームの王道ギルドだぜ!!


 中に入ってみると、大勢の人々が並び滅茶苦茶混んでいた。

 ……そうだよな。みんな、普通同じことを考えるはずだよな。


 受付までをいろんなことを考えながら待っていると──やっと俺の前がいなくなった。


「ようこそ冒険者ギルドへ、ご用件はなんでしょうか?」


「はい、冒険者登録をしに来ました」


「では、こちらに記入をお願いします」


 慣れた感じで、そう伝えてくる受付嬢。


 今はプレイヤーがルールも知らずに入ってくるから、どこの部署で云々などとやることもできなかったのだろう。

 実際、すべての受付にプレイヤーが並び、それぞれで冒険者登録をしていた。


 受け取った紙を確認する。

 えーと、何々……名前・種族・職業・得意なスキルかー。


 なら、これをこうしてーっと。


「──はい、受け賜りました。名前は『メルス』さん。種族は天使。職業は旅人ですね」


 種族と職業を言った時、テンションに変動があったのは気のせいだろうか。


 種族で下に、職業でなお下に、であるが。

 ……『種族:天使』は堕天する可能性を極力控えるだろうし、旅人も冒険者には向かないからだろうか。


「では、こちらのプレートに血液をお願いします」


 はいはい、血を垂らす必要があるのね。

 渡された針でチクッと指を刺し、名刺サイズの石版に流れ出した血を零す。


 一瞬淡く光ったそれを見ると、受付嬢は針とプレートを回収して奥の部屋に下がる。


「少々お待ちください」


 待ち時間、これが俺を今まで待たせていた原因だな。


 ただやることもないので、設定から戦闘中のステータス表記などを弄っていた。

 HP系の減る物をバーで表示するなど、俺なりに工夫を凝らした仕様にしておく。


 そうした暇潰しも、受付嬢が一分ほどして戻ってきたためすぐに終わる。


 やはり待ち時間に先輩冒険者に絡まれる、などといったイベントは発生しなかった。

 ……つまらないな、俺に主人公の素質カリスマなどやはり無かったのだ。


「──はい、お待たせしました。こちらがギルドカードでございます。ギルドの説明は必要ですか?」


「いいえ、あらかじめ学んできましたので大丈夫です」


 予習はバッチリ、普段のゲームでは見ない掲示板をわざわざ見てまで調べておいた。

 あっ、でも訊きたいことが──


「すみませんが、こちらで転職をすることはできますか?」


「いいえ、こちらでは転職はできません。転職──そして進化は、神殿でのみ可能です」


「……そうですか、ありがとうございます」


 ギルドに転職用のアイテムが置いてある、そういう創作物もあったんだけどな。


「はい。メルスさんは現在ランクF-ですので……残り10QP(クエストポイント)──ランクFとなります。頑張ってくださいね」


「はい、頑張ります」


 ギルドで頭角を現すイベント……これは主人公っぽい奴に任せておこう。


 俺は裏で暗躍し、こそこそと活動する方がベストなんだ。




 ギルドを出た俺は転職と進化を行うため、さっそく神殿に向かった。


 神殿は……なんかこう、神々しいオーラで溢れていた。

 床までピカピカだったので、少し怯えながら中に入る。


 神官っぽい人を発見、男の人だったので安心して目的地を尋ねた。


「すいませーん」


「はい、なんでしょうか?」


「転職……をしたいんですけど」


「分かりました。では、こちらに」


 種族進化はとりあえず隠しておく。

 周りにプレイヤーがいないのは話しかける前に確認していたが、それでも隠れているかもしれないし……。



 連れてこられた先には、巨大な水晶が置かれていた。


「こちらの水晶に触れることで、職業を変えられますよ。同様に、種族の進化にもこちらの水晶を使用します」


「助かりました、ありがとうございます。俺は、メルスと申します。あなたは?」


「これは、自己紹介が遅れましたね。神殿司祭の『チャーリー』と申します……では、私はこれで失礼を」


 そう言ってチャーリーさんは、水晶の間を出ていった。


「……さて、始めるか」


 コツンコツンと足音が木霊する広い空間。

 ゆっくりと水晶に近づいていくと、その大きさが想像以上の物だと理解する。


 一回りも二回りも俺を超えるその高さ──現実でこんな水晶、はたして造ることはできるのだろうか。



 恐る恐る水晶に触ると、いきなり目の前にボードが浮かぶ──


***********************************************************

転職 [全表示]


(戦士)・(魔法使い)・(僧侶)・(闘士)・(盗賊)・(放浪者)・(旅芸人)・(鍛冶士)・(木工士)・(裁縫士)・(耕作士)・(調合士)・(錬金士)・【??】

***********************************************************


 グチャグチャしていて見づらいな。

 これも、あとで設定を変更しようか。


 ボードを見る限り、新しく増えたのは三つだろう。

 旅人の順当な系進化先である(放浪者)と派生である(旅芸人)……そして、正体不明の【??】。


「これは間違いなく、俺に【??】を押せと言っているんだよな。ああ、間違いない。物凄くなんとなくだけど」


 矛盾した言葉を零しながら、【??】を転職先にすると強く念じる。


 その瞬間、それは突然起きた──


  □   ◆   □   ◆   □


 ERROR 異常なコードによる介入

 $E&*#……???による上位アクセス

 以降の導きは???主導の下で行われます


【??】が選択されました

これより『個体名:メルス』の業値カルマを確認します

【??】→【色欲】強制解放 -100

【??】→【怠惰】強制解放 -100

【??】→【暴食】強制解放 -100

【??】→【憤怒】強制解放 -100

【??】→【強欲】強制解放 -100

【??】→【希望】強制解放 +100

【??】→【忍耐】強制解放 +100

【??】→【謙譲】強制解放 +100

【??】→【慈愛】強制解放 +100

【??】→【救恤】強制解放 +100

【??】→【節制】強制解放 +100

(優越LvMAX)→【傲慢】へ強制進化 -100

(羨望LvMAX)→【嫉妬】へ強制進化 -100


行動経験より──【純潔】を習得 +100


現在の業値0──中庸 ±0


(正なる心LvMAX)を確認

→(正なる心)を<正義>へ強制進化±0


<正義>の固有能力“善意は時に悪意となるイノセントシン”発動――【??】を全開放した状態での習得・業値0での固定となります


伝説レジェンドスキル<大罪シン>習得

傲慢プライド】【憤怒ラース】【暴食グラトニー】【怠惰スロウス】【色欲ラスト】【強欲グリード】【嫉妬エンヴィー】は<大罪>へ格納されます


伝説スキル<美徳グローリフィ>習得

謙譲ヒュミリティ】【慈愛ベネボレンス】【節制テンペランス】【希望ホープ】【純潔チャスティティ】【救恤チャリティー】【忍耐パーティエンス】は<美徳>へ格納されます


夢幻ファンタジースキル{感情エモーション}習得

<大罪><美徳><正義ジャスティス>は{感情}へ格納されます


種族:(天使)・伝説スキル:<正義>を確認

→固有種族:【天魔フィンド】へ強制進化

種族スキル:(天魔魔法)(天魔眼)(天魔翼生成)(思われし者)(一途な心)習得

(天使魔法)は(天魔魔法)へ統合されます

(天使翼生成)へ(天使翼生成)へ統合されます

(善なる心)へ(一途な心)へ統合されます


固有職業:【??】を選択


業値:0を確認


固有職業:【大罪之魔王】シリーズ不可

固有職業:【美徳之勇者】シリーズ不可


→新たな職業の作成が選択されました

特殊固有職業の作成……成功しました


特殊固有職業:【初心者ノービス】への転職を実行

職業スキル:(全武術適正・微)(全魔法適正・微)(全身体適正・微)(全技能適正・微)(初心者の可能性)を習得します


称号:『最速転職』『最速進化』『初めての伝説スキル』『初めての夢幻スキル』『大罪保有者』『美徳保有者』『正義保有者』『初めての固有種族』『初めての特殊固有職業』『天魔へ至りし者』を獲得しました


  □   ◆   □   ◆   □


「え゛──? あ、え……は?」


 いろいろなことが同時に起きた。


 体が淡く光ったり、遠くで何かをアナウンスする声があった気もするが──それに気を配ることすらできない。


 気が滅入りすぎて、思考が停止していた。


「……なんか、もう疲れた」


 この後俺は考えるのを止め、呆然と立ち尽くした。


「どうして、こうなった」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る