夢のマイホーム(成長型)

 とりあえず苦い妖力丸を服用し、魔力回復ポーションを服用して回復に努めた。

 魔力回復ポーションはマナポーションと言われたりもするので、時々他の人が別の名前でいっているときがあるけど、同じものを指している。


「どうする? もう一回浄化する? でもこれ結構きついんだよね」

 広範囲が一気に浄化される様は見ていて気持ちがいい。

 まぁ今のボクには思いっきり負担がかかるので、何度もやるのは辛いんだけどね?


「そこまで体を張らなくてもいいと思うにゃ。ただ、こういう風に安全な場所が作れるなら、旅先でのログアウトもなんとかなりそうだにゃ~」

「あっ、そっか。街に戻れないパターンだってあるよねぇ」

 ログアウト=寝るという行動が基本になっているせいか、就寝するための場所を探すのも大事な作業の一つだ。

 もちろん、寝ずともログアウトすることはできるのだが、宿屋などに泊まっていると安全に保護されるが、それ以外の場所、フィールドや街中などでは無保護の状態でこの世界に体が残されてしまう。

 一定期間ログインがないと、宿などから別の場所に体は移動、保管され、再びログインしたときには世界門からとなるようにできているらしい。

 ちなみに、聞きかじった話だけど、フィールド上に放置だけしてログアウトすると、次ログインした時には世界門からとなったという話を聞いた。

 死んだのか、それとも移動されたのかは不明だけどね。

 そんなわけで、野ざらしのまま体を放置するわけにはいかなかったりするのだ。

 色んな意味でね。


「という話を聞いたんだけど、実際どうなの? ルーナ」

 幸いボクたちの側にはそんな事情に詳しい天使がいるので、この際だから聞いてしまおうって思った。

 

「その話ですが、こっそり私たちが移動させています。料金の徴収などの裏方作業などもありますので、未払いの宿賃などにもしっかり対応しています。そう言った事情については私たちに聞いてくださればいつでもお答えしますよ? とは言いましても、この世界のヒントなどには答えられませんけど」

 ちなみにこんな話をするルーナだけど、ゲームマスターなどではないらしい。

 本人曰く、メルお母さんの配下でアニエスおばさんの部下として世界の運営に携わっているんだとか。

 

「ちなみに、私のような天使族やその他妖精族などが共に冒険のサポートをしたり、一緒に行動したりしています。私たち自身も補助システムの一部というわけです」

 ルーナを呼び出すには召喚が必要だということはわかってる。

 お婆ちゃんや大禍津のような類の存在のようだ。


「世界、運営……? 神がいることは知っているけど、ここまで饒舌な天使はみたことない」

 頭の良いフィルさんでも、今の話は理解できていないようだった。

 頭を抱えながら悩んでいる姿が可愛らしい。


「とりあえず、浄化の続きするにゃ。あと二つくらいがんばるにゃ!!」

「頑張るのはボクなんですけど!?」

「ファイトです、ご主人様」

「ポーションたくさんある。後方支援バッチリ」

「トイレ近くなるんですけど!?」

 みんな無責任に応援してるけど、頑張るのはボクしかいない……。

 ここでポーションがぶ飲みしたら、生理現象でひどい目に遭うことは確定だ。

 なんでゲームキャラクターに生理現象追加したんだろう……。


「やっぱり、生きていく以上必要なシステムですよね。スピカ様? トイレの世話、私にお任せください!」

「いやだよ!!」

 ルーナの笑顔が今だけはすごく怖い……。



***********



「うぅ~。つっかれた……」

 かれこれ三時間ほどフィールドを駆け回り、汚染に突っ込んでいき浄化をするという作業を繰り返した。

 頑張ってできたのは四か所で、その間トイレには二回行くはめになった。

 浄化貢献度もいい感じに溜まってきてるので、報酬にはかなり期待できると思う。

 金貨たくさんほしいなぁ~。


「お疲れさまにゃ」

 音緒が寛ぎながらボクにねぎらいの言葉をかけてくる。

 ちなみにこの猫、浄化作業中は全く仕事をしていなかった。

 まぁ、魔物が出たら即応するっていってたんだけど、一切魔物に遭遇しなかったから暇だったとも言えるんだけどさ。


「いい感じに日が暮れてきましたが、テントの設営でも致しましょうか?」

 夕暮れに染まっていくアルケニア世界の浄化されたフィールドで、ルーナはこの後の予定を尋ねてくる。

 テントかぁ……。


「あっ」

「にゃ?」

「どうしたの? スピカ」

「テントじゃなくて、あれ使おうかな」

「「「「あれ?」」」」

 テントで思い出したけど、良いものがあったんだっけ。

 みんなが首をかしげるなか、ボクはインベントリから例のものを取り出した。


「じゃ~ん!! 携帯式コテージ~!!」

「あぁーーーー!! そのこと忘れてたにゃ!!」

 ボクが取り出したのは、宝物庫で手に入れた携帯式コテージだ。

 ミニチュアのログハウスをボクは掲げて見せると、それを地面に置き【マキシマム】と唱えてすぐに離れた。

 すると、一瞬光った後、携帯式コテージはその場で徐々に大きくなり、大きな一軒のログハウスとなってその場に鎮座した。


「これはまたすごいですね」

 ミアが驚いた顔をしている。


「アーティファクト? 魔道具? 私、こんなの知らない」

 フィルさんが珍しく驚いた顔をしている。

 普段無表情なフィルさんなだけに、これはレアかもしれない。


「これは……。メルヴェイユ様が保管されていた移動型別荘ですね。手に入れられたとは大変運が良いですね」

 ルーナはこれについて知っているようだ。

 でも、保管場所については知らなかったみたいだね。


「ふっふ~ん。たまたま見つけたんだよ! ふふ、さっ、中入ろっ!!」

 音緒は一緒に見つけたのでそこまで驚いてはいないけど、他の人はみんな驚いていた。

 ちょっとだけ気分が良いので、思わず尻尾を振っちゃう!!


「にゃ~、おいしそうな尻尾が揺れてるにゃ~」

「食べちゃダメだよ? さてさて、中はどうなっているのかな~?」

 ボクはさっそく携帯式コテージの扉を開けた。


「うわっ、思ったより狭い!!」

「にゃ~、玄関開けてすぐ廊下、両サイドに扉二つかにゃ」

「廊下の先、すぐに壁。キッチンない……」

「それでも雨露しのげて他人の視線を気にしなくて済むのは大きいですね」

「同じような大きな部屋が二つですか。男女で別れても良いように作られているんですね?」

 このログハウス、あまり奥行きがないことが判明した。

 ちょっとがっかりだよ……。


「にゃっ? 説明書があるにゃ」

「ん~? どれどれ?」

 音緒が手に持っているパンフレットのような表紙の説明書を読み始めた。

 ボクはその背後から肩越しに覗きこむようにして、その中身を見てみた。


「にゃ~。入り口にある窪みには魔石をお入れください。結界が張られ、安心して過ごすことができるようになります」

「ふむむ?」

 音緒が声に出して最初の文章を読み上げる。

 ボクたちはそれを聞いて、一斉に入り口の方向を見た。


「あっ、ここのようですね。魔石はありますので、入れておきますね? ご主人様」

「うん、お願い~」

 入り口付近にいたミアが早速窪みを発見。

 そこに保管しておいた魔石をはめ込んだ。


「えっと、次にゃ。この携帯式コテージは利用者の累計人数で経験値を得てレベルが上がるようになっています。最初のレベルアップは累計五人利用することであがります。判定のタイミングは、明朝五時を迎えた時点でカウントされます。例、お一人様で五日分利用しレベルアップ。だそうにゃ」

 どうやらこの携帯式コテージは泊まった人の累計人数でレベルが上がる仕組みなようだ。

 言い換えれば、使ってあげないと成長してくれないってことで、泊まるたびに家としての経験値を獲得するというわけだ。 


「え~っと、今いるのは、ボク、音緒、ミア、フィルさん、ルーナ。あっ、明日にはレベルアップか」

 本日の利用者は五人。

 つまり明日にはレベルがあがるということだ。


「レベル2で開放される機能は三つあります。キッチン機能、素朴なキッチンが設置されます。トイレ機能、水洗式和式トイレが利用可能。お部屋カスタマイズ機能、次のうち三つからお選びいただけます。一つめ、一部屋増築。二つめ、リビングの増築。三つめ、最大二名まで入浴可能なお風呂の設置。にゃ~、トイレは嬉しいにゃ」

「確かに! ということは、今日はもしかしなくても、外でってこと……?」

 音緒が読み上げてくれた説明書には、レベル2から利用できる素敵な設備についての説明があった。

 特に、トイレ機能は嬉しい。

 たとえ和式であっても水洗なら許せる!!


「和式? というのはわかりませんけど、メルヴェイユの街には、魔石分解式水洗トイレが裕福な家庭には設置されていますね。こちらのも同じような仕組みなのでしょうか?」

 ミアはボクたちがいない間、メルヴェイユの街で結構過ごしていたので衛生事情には少し詳しい。特に、マーサさんの家には魔石式お風呂と魔石式の水洗トイレが存在しているから、知らないわけがない。


「にゃ~。その辺りは書いてないにゃ。明日のお楽しみかにゃ? ところで追加機能はどうしたいのかにゃ?」

 ミアの疑問には説明書を読んでいる音緒も答えられなかった。

 レベルアップしたら色々更新されそうだし、それ待ちかなぁ。

 それにしても、追加機能かぁ。

 それならあれしかないよね!!


「はいっ!! お風呂!!」

 ボクは勢いよくお風呂の設置を希望した。


「にゃ~。お風呂に一票」

「お風呂がいい……」

「やっぱりお風呂だと思います」

「これはお風呂しかありませんね。天使もお風呂には入りますからね」

「満場一致でお風呂に決定にゃ」

 どうやらみんなお風呂希望のようだ。

 聞いた感じだと小さなお風呂のようだけど、レベルアップしたら大きくしたり広くできるかもしれない。

 今から夢が広がるよね!!


 

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