守護天使ルーナ

「お帰りなさいませ、お嬢様、音緒様」

「ただいま~」

「にゃっ!」

 やることはやったので、とりあえず屋敷に戻って来たボクたち。

 ルードヴィヒさんがさっそく出迎えてくれた。


「もしかしたらこの世界の住人さんが増えるかもしれません。それと金貨十枚預けておきますね」

 手に入れた金貨十枚は屋敷の資金として保管してもらう。

 これで馬車を買う資金や税金などを支払うのだ。


「お預かりいたします。では後ほど長に相談させていただきます。登録しなければ入ることはできませんからね」

 金貨が入った小袋を受け取り、さっそく準備を始める。


「そういえば、さっきの新しいコンテンツ、さっそく確認しないかにゃ?」

「あっ、そうだね。といっても、絶対いいことないと思うんだけどなぁ」

 ルーナには悪いけど、天使という存在にはあまりいい印象はない。

 数ある神話を見る限り、大体ろくなことに関わってこないからだ。


 部屋に入り、音緒と一緒にベッドの上に座る。

 ここまでいわゆる巫女服を着続けているボクだけど、まだ着替えたりはしないよ?

 

「さっそく見るにゃ」

「わかったってば~。ルーナのお・へ・やってなんだかイラッとするよね」

「かわい子ぶってるって言いたいのかにゃ? まぁ分からなくはないけど、このくらいは許容範囲にゃ」

 まぁ、基本的におっとりした人なのは分かるんだけどねぇ……。


 端末を操作し、ルーナのお部屋をクリックする。

 すると扉が開き、その扉の奥へとカメラは進んでいった。

 その光景はまるでホラー映画のようだ。


「ド、ドキドキするにゃ……」

「これ完全にホラーだよ……」

 しばらく見ていると、不意に奥の方に赤い光が灯り始めた。

 それはゆっくりゆらゆらと揺れており、まるでこちらを誘うかのように映っていた。


「もうホラー確定じゃん!」

「怖いにゃ怖いにゃ」

 妖種だってホラーは苦手なのさ!

 ただそこにいるのとびっくりさせられるのとでは全く違うからね!

 ただ、亡霊とか出て来て憑りつこうとするなら全力でぼこぼこにするけど!!


 そしてその揺らめく赤い光をしばらく映した後、急に横から白い腕が伸びてきて、カメラを揺さぶった。


「ひぃぃぃぃ」

「なんにゃなんにゃ!?」

 これ完全に分かっててやってるよね!?

 そうしてやがて揺れは収まり、ゆっくりとカメラは横を向く。

 いよいよ、その正体が明かされるのだ!!


「うわぁ、ドキドキする……」

「落ちる寸前のジェットコースターのような気分にゃ」

 そしてカメラが完全に横を向くと、そこには般若の顔があった!


「ちょっとまって!? これ完全にやばいやつじゃん!!」

「アウト! アウトにゃ!!」

 ボクたちをさんざん脅かした般若は、ゆっくりとその仮面を外していく。

 そしてその下から出てきたのは――。


「どうも~! 貴女のアイドル、ルーナちゃんで~す!!」

 長い青い髪の、幼げな顔をした美少女だった。

 青い瞳をしたその少女は、にっこりと微笑むとぱちんと指を鳴らした。

 すると部屋は明るくなり、普通の部屋が現れた。

 主に白とピンクで構成されたその部屋は、ルーナの趣味のようだ。

 

「や、びっくりさせてしまいましたか? 守護天使ルーナ、ただいまから任務を開始いたします! ですので、『ルーナおいで』ってお呼びくださいまし」

 ニコニコ微笑みながら、ルーナはそう言った。

 彼女はキャラクターを作る時にお世話になった自称守護天使だ。

「二次転職後にお会いしましょう」という言葉を聞いていたのだが、今の今まで忘れていた。


「ルーナ、おいで」

「は~い!」

 そう言った直後、ルーナはカメラの前から姿を消した。

 そして、ゆっくりと光が集まり、ボクたちの目の前に現れたのだ。


「お久しぶりです、スピカ様! ルーナ、参上いたしました」

 優し気な表情で微笑むルーナは、前に見た時と何一つ変わらないように見えた。


「あっ、アイドルの原石にゃ!?」

「アイドルですか? えぇ、ルーナはスピカ様のアイドルでございます!」

 ルーナは自分を個人のアイドルといい、音緒はアイドルユニット用のアイドルについて話している。

 うん、噛み合ってないよね!


「将来のアイドルユニットにはぜひ欲しい人材だにゃ。しかもレア種族の天使にゃ」

「正確には上級天使でございます。得意な武器は槍、魔術系が得意な非力な女の子でございます」

 上級天使としては下級天使と一緒にされたくないのか、しっかりと『上級』というところを強調したルーナ。

 自称非力な女の子は、小柄なわりに豊かな胸を張りながら少しだけ勝ち誇った顔をしていた。


「ルーナにゃんはどんなことができるのにゃ?」

 好奇心旺盛な音緒はとりあえずこの質問をする。

 相手が何ができるのかということに興味津々なようだ。


「通常召喚であれば、防御や回復系でございます。攻撃してほしいとなりますと武装を召喚しなければいけないのでかなりのMPを消費してしまいます。通常召喚では私の召喚MPは400ですが、武装召喚すると合計800ほど必要になります。完全武装になると1000以上必要になってしまいますね」

「高すぎない!?」

 通常召喚でMP400ということは、ボクのMPのほぼすべてということになる。

 ボクの術がSPを消費することを考えれば攻撃に問題は起きないけど、普段余りっぱなしのMPではあるけど一気になくなるのはそれはそれで心もとなくなるというものだ。


「高コスト! しかしてハイスペック! 特殊な上級天使が私でございます。使える女ですよ?」

 いい女は高いんですとでも言いたげだけど、言い換えれば重い女ということになるんじゃないだろうか?


「それって重い女ってことでもあるんじゃないかにゃ? コスト的に」

「ちょっと!?」

「うぅっ、そうとも言うかもしれません……。しかし他の子よりも断然使えるんですよ?」

 言わなくてもいいことを言ってしまうのは音緒の悪い癖だけど、怒るでもなく自分を使える子アピールしてくるルーナはすごいなと思った。


「怒るかと思ったけど怒らないのにゃ」

「怒るとかそうそうありませんよ? 一応慈愛の天使とも言われてますし」

「わかったにゃ、歓迎するにゃ。ところで、私たちは外の世界へと出てみようかと思ってるけど、ルーナにゃんはこれそうなのかにゃ?」

「あっ、そういえばそうだったね。ルーナ、どう思う?」

 ボクがそう尋ねると、ルーナは少し考えてからこう言った。


「おそらく大丈夫だと思います。汚染については私は一応防護できます。スピカ様は浄化が可能なので音緒様達を汚染から保護することは可能かと思います。一応ですが、すでに外部へと出てみたパーティーがいるようでして、いくつか保護された村を発見したそうです。ただ全滅していた村などもあり、必ずしもいい結果とは言い難いようです」

 ボクたちがのんびりしている間に、すでに外部へと旅に出たパーティーもいたようだ。

 一番乗りはできなかったけど、それはそれで仕方ないよね。

 でも、保護された村ってどんな風に保護されていたんだろう?


「保護されたと言っていたけど、どんな風に保護されていたの?」

「はい、各村にはメルヴェイユ様の神殿がありました。そこには浄化や解毒に使える聖水を生み出していた泉があったのです。その泉が破壊されずに残っていた村は辛うじて生き残っていたようですが、そうでない村は住人が衰えて死んでいき、全滅してしまったようです」

 ルーナは辛そうな表情でそう語った。

 でも、外の世界って怖いところだなぁ……。


「外の世界、怖いにゃ」

「わかる」

「あはは……。でも、要塞と復帰させ、各村などの施設をしっかり管理すればなんとかなりそうですね。メルヴェイユ様の神殿の聖水は、軽い汚染を浄化することはできても、固着化した汚染には対応できません。その辺りは、現在は陰陽師の方にお頼みするしかないですね」

「ほかの職には浄化できる職はないの?」

「一応ありますが、神官職の二次職かつレベルがある程度上がらないと使えません。それに、使用するMPも多いため、簡単ではないのです」

 一応神官職もできるということは、ミナにも可能ということか。

 そういえば今日はまだ見てないなぁ。


「とりあえず、外部に出る準備しようか。音緒、ルーナ、お手伝いお願いね」

「了解にゃ」

「かしこまりました、スピカ様」

 とにもかくにも、外部世界を確認しないとどうにもならないよね。

 考えるのもいいけど、まずは行動だ!!

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