ズィークさんへの薬の配達後編

 迫りくるゴブリンたちをどんどん斬り伏せていく獄門衛士(ごくもんえいし)。

 その刃には血の一滴も付着しておらず、曇ってすらいなかった。


「スピカにゃん、あの式神強くないかにゃ?」

 音緒が指さす先には、どんどんゴブリンを斬り捨てていく獄門衛士の姿があった。


「予想以上に強いかもしれない。陰陽師は妖種や神の力を利用したりできるっていうけど、上限があるとはいえ見習いでも結構強い力が使えるんだね」

 一人でも十分強いこの式神は、現在のボクでも三体同時召喚ができたりする。

 ただし制約があって、同時に同じ職種の式神は操れない。

 この場合の職種は、所持している武器で決まる。

 たとえば、刀であれば刀士だし、弓であれば弓師だ。


「弱点はあるのかにゃ?」

 未だ大暴れしている獄門衛士を見ながら、音緒はそう問いかけてきた。

 なので、ボクも包み隠さず答えてあげることにする。


「紙ということで水や火には弱いね。憑依とかさせられればそういうのは補えるんだろうけど、そうなると義体が必要になるんだよね」

 獄門衛士はあくまでも人形(ひとがた)の形代(かたしろ)を利用し憑依させて使役している。

 なので当然火や水には弱い。

 義体は今のボクには用意できないので、残念ながら火気や水気の多い場所では使用は困難だろう。


「にゃ~。私のスキルのおかげでドロップ率は変わらないけど、なんだか仕事を奪われたようでショックだにゃ~」

「何か色々落ちてるな~って思ってたけど、音緒のスキルが乗ってたの?」

「そうにゃ。有効にしたり無効にしたり自由自在なんだけどにゃ、このスキル使うとMPとSPをどんどん消費するのにゃ。長時間はきついから、案外使いづらいのにゃ」

 残念そうにそう言う音緒だけど、ドロップ率が上がるという時点でチート級だとボクは思っている。

 だってさ、それやってたら盗賊系は持ちになるということだよ!?

 うっ、うらやましい……。


「はぁ、いいなぁ。ボクにもドロップ増加ちょうだい!!」

「陰陽師系は育つと強いとか話は聞いてるけど、盗賊系は前線ですごく活躍するような職業ではないのにゃ。武功あるほうがある意味羨ましいのにゃ。お金も装備も交渉できるからにゃ」

 短期的に儲かるけど、大きな儲けに繋がるかは不明な盗賊系と長期的に見れば大きく儲けられるチャンスがあるそのほかの職種。

 果たしてどっちがいいのか……。


「そういえば、商人とかもいるらしいけど、見たことある?」

「あるにゃ。市場なんかでお安く仕入れてお高く売るということをしているにゃ。固有スキルにはNPC傭兵を雇ったりすることができるものがあるそうにゃ」

 商人という職業は存在しているとは聞いているけど、実際ボクは会ったことがない。

 料理人とかは多いんだけどねぇ。

 にしても、傭兵の雇用とか、ある意味ファンタジーを謳歌(おうか)していると言っても過言じゃないよね!


「スピカにゃん、私たちサボってるけど、獄門衛士だけに任せてていいのかにゃ? もうそれ式神だけでよくね? にならないかにゃ?」

「まっ、まだ慌てるような時間じゃないよ! ボクの活躍はまだまだこれからなんだから!!」

「そのうちきっとこういわれるにゃ。スピカにゃん必要なくね? ってにゃ。にゃっはっはっはっはっ」

「ぐぬぬぬぬ~」

 ひどい言われようだった。

 ボクだって特徴はあまりないけど頑張ってるんだよ!?


「まぁいいにゃ。スピカにゃんの特徴はスピカにゃんが頑張って出すにゃ。ただ可愛いだけだったら私がその座を奪うにゃ」

 音緒、その内側に宿った邪悪な野望をいつか打ち砕いて見せる!


「あっ、終わったみたいにゃ」

 HPはそこそこ削れているようだけど、奮戦していた獄門衛士が戻ってきた。

 おそらくそろそろ召喚時間の上限時間になるだろうから、新規での召喚も必要かもしれない。


「階段も見えてきたし、早く行こうにゃ」

「うん、その前に式神用の形代作っちゃうね」

「まってるにゃ」

 式神用の形代は、人形などの形に切った後、浄化で手にれた穢れの残滓である黒い勾玉を使用して作る。

 陰界から漏れ出した世界を越えるエネルギーの塊である黒い陰の勾玉。

 これがないと、空間を越える呼び出すことができないのだ。


 形代自体はまだ多くストックできないので、時々補充する必要がある。

 そのための作成方法は、転職と同時に知ることができる。


「よしっと。これで大丈夫」

 人形の形代に髪の毛を一本編み込み、砕いた黒い勾玉の粉末を振りかける。

 すると、それ自体に所有者が設定され、同時に黒い勾玉の力で人一人分の召喚能力を与える。

 ただし、本体を呼び出すほどのエネルギーはないので、実際は力の一部を召喚するだけなのだが……。


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 名前:スピカ

 年齢:13歳

 種族:妖狐族

 性別:女性

 職業:陰陽師見習い

 所属パーティ:ケモミミでもふもふ

 所属クラン:

 登録ギルド:メルヴェイユ冒険者ギルド

 冒険者ランク:D


 レベル:22

 HP:312

 MP:550

 SP:400


 筋力:30

 耐久:35

 俊敏:40

 魔力:55


 所持スキル:

 ■武器マスタリー

 【中級短剣マスタリー:ランク2】【スタッフマスタリー:ランク8】【中級刀マスタリー:ランク1】 【錫杖マスタリー:ランク7】

 ■防具マスタリー

 【中級ローブマスタリー:ランク2】

 ■知識

 【薬師の知識:ランク9】【彫金の知識:ランク9】【鍛治の知識:ランク10】【木工の知識:ランク8】

 ■生産

 【調理:ランク7】【鍛冶:ランク1】【呪符作成:ランク1】【呪具作成:ランク1】

 ■攻撃術

  ■符術

  【全属性符術:ランク8】

  ■刀術

  【基礎刀術:ランク8】

  ■道術

  【五行刻印:ランク7】【属性攻撃陣:ランク7】【属性防御陣:ランク7】【陣構築スキル:ランク8】

  ■神獣召喚

  【召喚符:九尾天狐ココノツ】

  ■神召喚

  【召喚符:禍津日神】

 ■術合成

  【符術合成:ランク7】

 ■陰陽術

  【式神召喚:ランク1】【陰陽符攻撃術:ランク1】【浄化:ランク1】【九字護身法:ランク1】【妖怪調伏:ランク1】【悪鬼調伏:ランク1】【神魔調伏:ランク1】【治癒祈祷:ランク1】【舞神楽:ランク1】

 ■種族スキル

  【妖術(天狐):ランク7】【神通力:ランク6】【人化】【陽天変化】【天雷:ランク6】【月天狐の神才:ランク9】

 ■サポートスキル

  【守護天使召喚:ルーナ】

 ■所持中の加護・権能

  ■加護

  【女神の加護】

  【禍神の加護】

  ■権能

  【天狐の権能】

  ■恩寵・恩恵

  【月の恩寵】

  【禍神の恩寵】

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 ※種族進化に伴い、希少種族の妖狐族なりました。

 ※月天狐になったため、夜間の能力が20%向上します。

 ※月天狐になったため、夜間の自然回復率が上昇します。

 ※陽天狐への変化には二尾以上の妖狐である必要があります。

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 ふとステータスを確認してみると、思ったよりも色々増えていた。

 転職したからだろうけど、出来ることは増えているようでちょっとうれしい。

 

「あれ?」

「どうかしたのかにゃ?」

「いや、なんか変なスキルがあって」

「うにゃ? どれかにゃ?」

 端末を覗きこむ音緒に閲覧許可を出して、ボクのスキルを見せる。


「陽天変化ってなにかにゃ?」

「あれ? 知らない?」

「知らないにゃ。教えるにゃ」

「えっとね、天狐種は二種類いるんだよ。一つは男性である陽天狐。もう一つは女性である月天狐。この変化スキルは、一定時間だけ性別を変えることができるんだ。最初は三十分程度、最大八時間くらいかな? 陽天狐になると近接系が強くなるけど、術系が多少弱くなる。月天狐はその逆ね」

 ボクは簡単に天狐について説明し、それぞれの得意なものについて教えた。


「うにゃ? 体が変化するのかにゃ?」

「ううん。正確には、天狐種は三つの体を持っていて、自由に選ぶことができるんだ。でもベースとなる体は一つだからほかの体には制限時間があるんだけどね。男性なら女性体を、女性なら男性体を。人間の体は両方共通ね」

「ずるくないかにゃ?」

 音緒の言うことはもっともかもしれない。

 天狐という種が中性の状態で生まれてくる理由には、三つの体を持っているからだと言われている。

 性というのが定着するまでの間、純粋なその魂と身体はそれぞれが混じり合った状態存在しているらしい。

 性別が決まった後、他の体はどうなるのかというと、どこかはわからないけど、自分だけが引き出せる場所に保管されているとかなんとか。

 変化をするとき、身体は一時的に失われ、新たに選択した体が自分の魂を覆うらしく、それで変化をしているようだ。

 それも一瞬の出来事なため、ただ尻尾が生えたり消えたり、女性が男性に変化したりしているようにしかみえないようだ。


「にゃ~。便利だにゃ~。特別扱いかにゃ? 私たちは尻尾が生えたり消えたりする程度なのににゃ~」

「もしかしたら無意識でそうやってるのかもよ? 妖種は特殊だから」

「かにゃ~? まぁ猫又はあんまりその辺り気にしないからにゃ」

 ボク自身も猫又についてはあまりしらない。

 音緒もよくわからないなら考えるだけ無駄かな?


「あっでも、一回じゃ死なないことくらいは知ってるにゃ。魂が多いとかなんとか」

「その方がずるくない?」

「ずるくないにゃ。生きる知恵だにゃ」

 猫又の方がチートなような気がしてきた。

 一回じゃ死なないとか本当にずるいと思う。


「にゃっはっはっはっはっ、変化時間の回復方法とかはあるのかにゃ?」

「あるよ~? 人間への変化は常に回復するけど、一番回復しやすいのは陽天狐なら太陽が出ている間で、月天狐なら夜の間だね。性別の変化のほうは、陽天狐は太陽が出ている間は少しずつ回復して、夜は回復しない。月天狐は満月の夜のみだよ」

 月天狐は名前の通り、月と共に生きる存在だ。

 なので満月の時が一番能力が伸びるし回復も早いのだ。


「にゃるほどにゃ~。おっとっと、二層目に着いたけど真っすぐ進めばいいのかにゃ?」

 話しながら進んでいくと、やがてダンジョンの二層目に辿りついた。

 音緒はそのまま進もうとするので、ボクはそれを止める。


「ストップ。そっちじゃないよ。こっちこっち」

 ボクはそういうと、音緒の手を引きながら壁へと進んでいく。


「にゃ? そこは壁しかないにゃ」

「大丈夫大丈夫」

 ズィークさんの話の通りなら、無名の書があったこの部屋に一度入る必要がある。

 それだけで認識してくれるはずだ。


「こんなところに小部屋があるのかにゃ。変なダンジョンだにゃ~」

「そうそう。面白いよねぇ。よし、出ようか」

「あいにゃ」

 音緒の手を引いて、ボクは隠された小部屋を出る。

 すると、さっきまでとは景色が変わり、階段のあるホールに出た。


「にゃにゃにゃ!? 変化したにゃ!」

「うふふ。楽しいでしょ? ボクもびっくりしたんだよねぇ~。それじゃ、いよいよ最後だから、ゆっくり行こう」

 ボクたちはそのままホールの階段を降りていく。

 目指すはズィークさんのいる場所だ。


 それにしても、何であの小部屋に入らないとここに来れないんだろう?

 あとで聞いてみようかな。

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