転職試練・百体討伐編1

「えいやー! とうりゃああああ!!」

 刀を振り回してゴブリンを切り裂いていく。


「まだまだー!! てええええい!!」

 現在ボクは、魔物百体討伐チャレンジ中だ。

 正直に言って良い? とってもだるいです。


「ゲギャー」

「ゲギャギャー!!」

 茂みから再び湧いて出てくるゴブリンたち。


 現在いる場所は、小さな出来たばかりのダンジョンだ。

 ソロプレイヤーでも安心して攻略ができるのが良いところだと思う。

 いわゆるインスタンスダンジョンというもので、チャレンジには制限が設定されている。

 メルヴェイユ北にある洞窟から行くこのダンジョンは、参加人数は一人、レベルは25までという制限が存在している。

 全体的な魔物のレベルはそれほど高くはなく、湧きもそこまで頻繁じゃない。

 落ち着いて進んでいけばどうにかクリアできると思う。


「まったく、なんで、茂みから飛び出してくるばかりなのさ! 術使えないじゃん!!」

 ボクは刀士ではないので、そこまで刀の扱いは上手ではない。

 でも、使えないわけではないので、威力が必要な時は利用している。

 ついでに言えば、陰陽師見習いから弓も扱えるようにはなるらしいけど、そもそもボクは弓を扱ったことがないので不安しかない。


「なかなか面白いところね? 狐の子。それともスピカって呼んだ方がいいかしら?」

 隣を歩いていた白髪の少女、大禍津がボクに話しかけてきた。

 なんでソロ専用のダンジョンにもう一人いるのかというと、彼女がボクの契約した神の扱いになっているかららしい。

 陰陽師見習いになれるレベル20からは、神との契約が出来るようになるらしい。

 この『神』というのが曲者で、それこそ色々な神が存在しているようだ。

 なので、戦いを支援してくれる神もいれば、踊っているだけの神なんかもいたりする。

 でも、問題もある。

 基本的に彼らは契約には否定的で、簡単には協力してくれないのだ。

 

「ボクには大禍津がいてくれてよかったよ。お婆ちゃんとは神獣契約してるから今回の『神との契約』という条件には当てはまらなかったし。だいたいなんで、百体倒すのに契約した神を同行させる必要があるのさ」

 ボクたちが出発する直前になって、宮司さんが慌ててそう言う条件が存在するから契約してから行くようにと付け加えてきたのだ。

 ちなみに、同行というけど、実際には宿ったものを持っているだけでもいいらしい。

 たいていの神は実体化しないので、当然と言えば当然かな?

 

 大禍津がいなかったらボクは未だに出発出来てなかったよ。


「あの人間も案外ぼ~っとしているみたいね。それとも私に見惚れてしまったのかしら? なんにしても、私がいてよかったわね? 狐の子」

 大禍津は綺麗な紅い瞳を挑発的に細めながら、ボクにそう言ってくる。

 大禍津は結構癖があるようで、嬉しそうな時は少しだけ顎を上げ、少しだけ小首を傾げながら笑顔で話すのだ。

 大禍津の可憐な容姿も相まって、貴族のお嬢様をイメージさせている。


「また来たわよ? ほら、早く倒しなさい。……私がやってあげてもいいのだけれど、それでは面白くないでしょう?」

 口は出すけれどちっとも手伝ってくれない大禍津に、ボクは視線だけで抗議の意思を伝える。

 彼女も気が付いてはいるようだけど、敢えて無視しているようだった。


「「「ゲギャー!」」」

「あぁ、もう! うるさああああい!!」

 溜まった鬱憤を晴らすように、ゴブリンをまとめて切り伏せた。


「はぁ、はぁ……。この階層、どうしてこんなにゴブリンだらけなんだろう?」

 不思議なことにこのダンジョン、まだ一層目とはいえど、だいぶ奥まで進んできたというのに未だに下級のゴブリンしか出てこなかった。

 後から知ったことだけど、このダンジョンの名称が『ゴブリンアーミー残党拠点』だった。

 つまり、最初からゴブリン系しか出なかったのだ。


「緑色の小鬼、変な生き物ね? 餓鬼……というわけではなさそうだけど、違う世界に来ると住んでいる生物も変わって面白いわね」

 ボクが倒している様子を見ながら、大禍津はそんな感想を口にしていた。

 どうせだからドロップ品でも拾っておいてもらおうかな。


「ねぇ、大禍津。落ちてるドロップ品拾っておいてよ? ボク倒すのに忙しいからさ」

 一層目のゴブリン程度なら結構余裕で倒せる。

 さすがにレベルも20となると今までよりも体が動くようになるし、攻撃力も上がっている。


「少しは敬いなさい? まぁ、狐の子がそういうなら拾ってあげてもいいのだけれど」

「素直じゃないなぁ。でも、他人の前だとスピカって呼ぶのに、どうして二人だけの時は狐の子なの?」

 渋々と言った様子だが、落ちているドロップ品を回収して一纏めにしていく。

 ボクはその様子を見ながら、疑問に思っていたことを尋ねた。


「人間って、自分と違うものを極端に恐れるでしょ? 妖怪と人間の関係性とか考えれば人間の前で気を遣うのは正しいことじゃないかしら? あの女、ココノツだって若いころは、人間を共に生きる者とは認めていなかったもの」

 涼し気な大禍津の横顔を見ながら、ボクは大禍津の話を聞いていた。

 その顔には表情らしい表情は浮かんでおらず、興味なさげというか無関心というか、「そういうもの」として認識しているだけと感じた。

 一緒にいる間に少しずつ分かったことだけど、大禍津は基本的に興味のないものにはほとんど言及しない。

 例えば、ボクに絡む事柄であれば興味のないことでも詳しく話してくれたりはするけどね。


 一層目にいるゴブリンの種類は少なめだ。

 ゴブリンにゴブリンファイター、そしてゴブリンアーチャーの三種類しかいない。

 そのどれもがメルヴェイユ南部にいるのと変わらないくらいの強さだ。

 ちなみに、お宝らしいものは一層目にはなかった。

 巣穴のような場所に、籠のようなものがあり、そこにガラクタが入っている程度だった。


「張り切って二層目行ってみよう!!」

「元気ね、狐の子。階層の数も少ないようだし、早めに終わらせましょう?」

 ボクと大禍津は雑談しつつ、階段を降りていく。

 このダンジョンの階層移動方法は階段式しかないようで、各階層に向かうには階段を上り下りする必要がある。


「あら、急に見た目が変わったわね。さっきまでただの洞窟だったのに今はどこかの地下迷宮のようよ?」

 階段を降りた先に広がっていた光景は、今までとはまったく違うものだった。

 石レンガで組まれた回廊のようなものが目の前に広がっている。


「うふふー。これならお宝も期待できそうじゃない? がっぽりだよ!」

 洞窟の先に広がっていた石レンガ造りの回廊。

 隠された遺跡のような雰囲気に、ボクのテンションはどんどん上がっていく。

 冒険ものの醍醐味だよね!!


「確かに雰囲気はあるけど、貴女の考えている古代遺跡とは違うものではないかしら? 尻尾を振り過ぎよ?」

 後ろから呆れたような声が聞こえてくるけど、そんなことは関係ない。

 ボクは今この雰囲気を楽しんでいるのだから!!


「よっし、いこう! まだ見ぬ秘境へ!!」

「もう、落ち着きなさい。階層移動して変化があるかもしれないでしょう? まずは確認よ」

「うぅ。そうだよね。というか、詳しくない? もしかしてこういうの好き?」

「好きか嫌いかでいえば、好きかしら? 悪くないとは思うわよ? そうね、肉体があったらプレイヤーとして参加するのは楽しそうね」

 少しだけ柔らかい表情になる大禍津。

 あっ、これすごく好きなやつだ。


「ほら、来たわよ? 長剣を持ってるところを見るに、騎士的な何かかしら」

 大禍津に指摘され、前方を見る。

 やってきたのは上半身にブレストプレートを装備した長剣装備のゴブリンだった。

 相手の情報を調べると、『ゴブリンアーミーファイター』という名前が表示された。

 つまり、ここからゴブリンアーミーの残党が出てくるというわけだ。


「あれはゴブリンアーミーファイターってやつみたいだね。どうやらゴブリンアーミーたちの拠点ってのは本当だったみたいだよ」

「あら、騎士ではなかったのね? でも歯ごたえはありそうよ?」

「シンニュウシャ コロス」

「しゃべった!?」

「ゲギャー!!」

 まさかゴブリンがしゃべるとは思わなかった。

 ゴブリンアーミー召喚術師くらいだと思っていたので、びっくりだよ!


「ええっと、ええっと、そうだ! 【強化符:鋭利】」

 体を強化するものとは違い、武具類を一次的に直接強化する符術だ。

 鋭利を付与した刀の切れ味は、量産品でも一つ上の武器同じような攻撃力になる。


「てええええい!!」

 ゴブリンアーミーファイターの長剣とまともに打ちあうのはやめて、直接胴体を狙いに行く。


「ギャー!!」

 振り下ろされる相手の長剣をかわし、がら空きの胴体に直接刀での一撃を食らわせた。

 

「咄嗟に攻撃方法を変えたようだけど、そもそも刀は打ち合いには向かないのだから打ちあおうとはせずに、斬ることを前提に立ち回りなさい」

 どうやら一回打ちあおうとしたのがばれていたようで、やんわりと注意される。

 

「あはは、うん。気を付けるよ」

 ゴブリンアーミーファイターを真っ二つにした後、刀に着いた緑色の血をぬぐい納刀する。

 一層目よりも明らかに強くなってきた二層目に、ドキドキとワクワクが止まらなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る