修行中のナンパはご遠慮ください。ボクとお婆ちゃんと冒険者たち

「おっ、俺と付き合ってくださいっ!!」


 コノハちゃんが迎えに来たとき、なぜかゴリアテさんたちも一緒にやってきた。

 そして、ゴリアテさんがお婆ちゃんを見て、すぐに言った一言がこれだ。


「なっ、なんじゃ? いきなりお主は何を言っておるのじゃ」


 さすがのお婆ちゃんも困惑気味。

 出会ってすぐに告白とか、ちょっとよくわかりません。

 誰か教えて!!


「ね、ねぇ。スピカちゃん。あの美人さんだれ?」


 シルさんが驚いた顔をしながらボクに問いかけてくる。

 何にそんなに驚いているのだろうか。


「うわわ。ふわふわしてそうな高級そうな毛並み……。スピカちゃんのも一級品だけど、あの妖狐の女性は特級品……!!」


 もふもふしたものに弱いアイルさんは、今すぐにでも触りに行きそうなほどに、左右に体を揺り動かしそわそわしていた。

 たしかに、アイルさんの言う通りお婆ちゃんの毛並みと毛の色つやは特級品といっても間違いではないと思う。

 あの尻尾で包まれると安心できるので、ぜひ包まれてみることをおすすめしたい。


「一目ぼれなんです! こんなに美しい人がいたなんて……!! あぁ、神よ!!」

「アイル、リーダーがキモイ」

「奇遇ね、シル。私もちょっと引いてしまったわ」

「あらら、たしかにあの巨乳、傾国の美女といっても過言じゃない容貌。惚れない男はいないわよね」

「カリーナ、リーダーの暴走は放っておいてもいいのか? 一応幼馴染だろ?」

「あら? マックスは勘違いしているようだけど、ゴリアテは近所のお兄さんってだけよ?」


「ええい、寄るな! 妾に気安く触れようととするでない、下郎が!」

「あぁ。罵倒すら心地良い」

「ねぇ、スピカちゃん」

「見ちゃだめだよ? あれも大人の悪い一面なんだ」

「大人って難しいね」


 ボクはコノハちゃんの両目を手で覆い隠して視界を遮ることにした。

 コノハちゃんの教育に悪いので、これ以上は見せられないからね。


「いい加減にせぬかっ!」

「あぁ~~~~!! あふんっ」


 業を煮やしたお婆ちゃんの平手打ちで、吹っ飛んでいくゴリアテさん。

 たったそれだけで頑丈な戦士の男性を吹っ飛ばすなんて、お婆ちゃん強すぎる!


「スピカや、妾を癒すのじゃ。早く近くに」

「はぁ、わかったよお婆ちゃん」


 げんなりした表情のお婆ちゃんは、癒しを求めてボクに手招きをする。

 仕方ないので近づいていくと、おもむろにボクを引き寄せて抱きしめる。

 そして流れるように数度なでてから膝の上にボクをセットする。

 それからすぐにお婆ちゃんは、ボクの頭に顔を載せて深呼吸をするのだ。

 これがお婆ちゃん流、ボクでの癒し方だ。


「やはりスピカはよいのぅ。毛色は泥棒猫のものじゃが、気高さは妾の血筋じゃ。孫らは妾の宝じゃが、一番はスピカよのぅ」


 お婆ちゃんはボクを膝の上に載せてから一気にご機嫌になっていた。

 ボクは癒し装置じゃないんだけど、どうして会うたびにこうなるのだろうか。


「あの~……。スピカちゃんとはどのようなご関係で……?」


 シルさんが恐る恐る近づき、お婆ちゃんにそう問いかける。

 別に取って食ったりするわけじゃないから、そろりそろりと近づかなくてもいいと思うんだけどな。


「何じゃ小娘。妾のスピカに付く変な虫かえ? それともあの下郎と同じく、妾に興味があるとでも……?」

「ひぃっ。うちは、スピカちゃんとはお友達で……」

「ほぉぅ? 齢二千を超える大妖である妾に気安く質問をするとは良い度胸じゃのぅ。挑戦なら受けて立つが、どうじゃ?」

「いいいいええええ、挑戦などではなく……。スピカちゃんの友達としてはご関係が気になるというかなんというか……」

「お婆ちゃんやめなよ。嫌いになるよ?」

「待つのじゃスピカ! 妾が悪かったのじゃ。だから許してほしいのじゃ!」


 お婆ちゃんはそういうと、小さい姿に変化して謝り出す。

 お婆ちゃんのずるいところは可愛い姿になって許してもらおうとするところだ。

 現に今も小学生サイズになってぺこぺこと頭を下げている。

 

「ふぇっ!? 小さくなった!?」

「あら~。小さいサイズも可愛らしい。なのに毛並みも色つやも変わらないなんて……!!」


 シルさんは驚いて口を開けたまま固まっているし、アイルさんは可愛いものを見て興奮を抑えいきれない様子だ。

 マックスさんはただ静かに成り行きを見守っているし、コノハちゃんは解放されたボクに駆け寄ってくると同時に背中に隠れてしまうし、ゴリアテさんはまだダウン中だしで、まったく収拾がつかない状態になっていた。


「はぁ、もういいよ。それよりみんなにご挨拶しなきゃ」

「許してくれるというのかえ? 何という慈悲深い孫じゃ。よいよい、それでは自己紹介をするとしようかのぅ」


 小学生サイズの美少女姿をしたお婆ちゃんは、どうやらそのままの姿で自己紹介するようだ。

 みんなの方に向き直ると、背筋を伸ばして少し胸を張る。

 お婆ちゃんの着ている着物は変化と同時に相応のサイズに変化するため、胸の北半球を出した着物姿からぴっちりと前を合わせた着物姿になっている。


「妾はココノツ。由緒ある天狐の筆頭にして高天原の末席に身を置くものよ。信仰するならば妾を進めるのじゃ。それと現在はスピカの神獣召喚の神獣として登録されておる。このように話す機会もあるじゃろうから、覚えておくようにのぅ。それと、妾とスピカの関係はそなたらが気にする必要はない」

「はっ、はい! シルです。レベル20で盗賊してます」

「アイルです。同じくレベル20で神官をやってますわ」

「カリーナよ。レベルは23で弓師をしているわ」

「マックスです。レベルは25で魔術師をしています。ここにいる全員はまだ種族進化を決めていないので、今後種族が変わるかもしれません」

「こっ、コノハ……です。18レベルの山猫族の弓師です……」


 コノハちゃんのレベルがボクと同じだと!?

 弓で戦う時やたらと強いもんねぇ……。

 まさかそんなにすぐ上がっていたなんて……。


「これで自己紹介は全員終わったわね」

「そうですね~」

「うんうん」

「えぇ、これで全員なはずです」

「あれ? もう一人いたような……」

「セクハラは滅んだから」


 カリーナさんが宣言すると、ボク以外のみんなが一斉に頷き、約一名をなかったことにしてしまった。

 ゴリアテさん、安らかに……。


「それにしても、もふ率高くなってない?」

 ボクたちを見てシルさんがそう言った。


「もふ率が高いのはいいことでしょう? 私、幸せです」

 アイルさんはうっとりとした顔でボクたちを見ている。

 山猫族はもふもふしてるとは言い難いとボクは思うんだけど、どうだろうか?


「ふふん。私の尻尾はもふもふしてないけど、しなやかできれい」

「なんで勝ち誇ってるのさ、コノハちゃん。ボクとしてはふさふさが一番だと思うんだけどなぁ」


 ゲーム内限定でケモ耳と尻尾をゲットしたコノハちゃんだが、どうやら今の自分がお気に入りのようで、すこぶるご機嫌だ。

 まぁボクとしては、尻尾は抱き心地の良さに限る。

 これだけは声を大にして言いたいと思っている。


 それと、犬系はもふもふした子が多いので、狼や犬の子がいれば理想の尻尾談義が出来るかもしれない。

 ただし、どんな人が相手でも、ボクは狐の尻尾を推させてもらうけどね!!

 でも、ボクに狐以外の犬系の知り合いってほとんどいないんだよなぁ……。


「そなたらが何をしにここまで来たのかはわからぬが、妾とスピカはもう少し修行してから帰るゆえ、先に戻っていてもよいのじゃぞ?」

 今回はボクの戦闘スタイルの見直しと型の練習がメインなので、他の人は見ててもつまらないだろうというお婆ちゃんの配慮なのだが、当のコノハちゃんたちは全員ここに残ることを選択してしまった。

 どうやらボクの稽古を見たいようで、ご飯に呼びに来るついでに見学に来たようだった。


「それじゃ、再開するのじゃ。覚悟は良いな? スピカや」

「ひぃぃぃん」

 そしてボクはあと一時間ほど妖力を消費しながらの稽古を続けることになったのだ。

 ボクはこの稽古が、まったくの無意味ではなかったことを後で知ることになるのだった。

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