第15話 マタンガを狙え!

 東門から抜けると、北門方面へ向かう途中に森が広がっているのが確認できた。

 北門から直接行けないのには理由がある。

 

「ねぇ、スピカ。なんで北門から行ったらだめなの?」

 美影が後ろを歩きながらボクに話しかけてきた。

 今の美影は狩衣を来た妖刀士見習いという和風刀士の格好だ。

 術も使えるということで、この先の転職次第では幅広い活躍が期待できるだろう。

 ある程度の術も使え、かつ刀での素早い攻撃をこなす。

 術の方が強く、かつ自分を強化することに長ける妖狐族とは違う戦闘スタイルだ。

 特に、味方を強化するスキルがあるので、かなり期待している。


「北門は他に比べると小さめの門で、王族と騎士団の専用の門なんだよ。北側には王城があるでしょ? あの真裏にあるんだ」

 メルヴェイユでも特に厳重な警備を敷かれている門でもある。

 見に行く分には怒られないんだけどね。


「ふぅん? 王族ねぇ」

 美影は興味なさげにそれだけ言うと、腰にある刀に手をかけて辺りを見まわしながら歩いている。


「スピカ、王族ってなんで三人いるのかな?」

 興味を失った美影の代わりに、瑞樹が話しかけてきた。

 瑞樹は召喚術師見習いの職業についている。

 攻撃方法は召喚術と中級までの魔術、味方への強化バフと簡単な回復スキル、あとは召喚獣支援系スキルという構成のようだ。

 ただ、美影と同じくレベルが低いため召喚獣はいない。

 なので、強化バフと簡単な回復がメインになるだろう。


「三つの国があって、それが集まって今の連邦が出来たらしいんだけどね。王様二人に女王様が一人らしくて、人間種、ドワーフ種、エルフ種の三種族の長がいて、人間とドワーフが男性、エルフが女性って構成らしいよ」

 この辺りの情報は街の人や門番の衛士さんに聞いたりしていた。

 みんな色々と教えてくれるので、理解するのに時間はかからなかった。


「そうなのね。ファンタジーだとドワーフはお酒好きで喧嘩っ早いって言うじゃない? その辺りは大丈夫なの?」

 瑞樹のイメージは、大体の人が持っているイメージと同じだと思う。

 そんなボクもそうだけどね。


「人によるけど、お酒は好きかな? 頑固なところはあるけど、喧嘩っ早くはないかなぁ。人間の方がキレやすいイメージ」

 実際どんと構えて仲裁するのはドワーフが多いように思える。

 貫禄があるだけじゃなくて度胸もあるのだ。


「へぇ~? なんか意外ね」

「そうかもねぇ。エルフとドワーフも仲良いし。二種族揃ってお酒好きだなんて信じられる?」

 酒場とかで、意気投合したのか仲良く杯を交わしている姿をよく見かける。

 

「イメージと違うのはいいこともあるよね。ところで、この辺りの森なのかな?」

 ボク達は話に夢中になっていたが、どうやら目的の場所近辺に到着したようだ。


「あっ、この辺りだね。あの奥にキノコっぽい赤いのが見える」

 ボクが指を指す先、大きな傘をかぶった赤キノコが立ち止まっていた。

 あれが大きめのマタンガというやつか。


「美影、瑞樹、いくよ」

 今回ボクは美影と一緒に刀で戦う。

 術は時々使うとして、基本は刀での戦闘だ。


「ほいほ~い。【剛力】」

 美影が短く唱えると、紅いオーラがボク達の身体から立ち上ってきた。


「時間は短くて三十秒の強化らしいから気を付けてね」

 範囲スキルである分、効果時間が短めなようだ。

 急がないとね!


「風を纏い駆けよ【風走(かざばしり)】」

 瑞樹が使用したの移動速度強化術がボク達を強化する。

 足腰が軽くなった気がする。

 それに、心なしか足をふわふわした何かが包んでいる気がする。


「てぇぇぃ!!」

 ボクは強化を得て、一気にマタンガへと迫る。


「!?」

 マタンガに声帯はない。

 驚いた仕草をした後、頭を振る動作をする。

 すると、傘から黒い胞子のような球が飛び出した来たのだ。


「なっ!? なにこれ!?」

 ボクは一気に距離を詰めたため、正面からその黒い球をお腹に受けてしまった。


 パァン


「うぐぁっ」

 弾ける音がし、ボクは後ろへと吹き飛ばされた。


「スピカ!」

「き、来ちゃダメ!」

 美影が駆け寄ろうとするが、まとまってしまったら再び黒い球の餌食になってしまうだろう。

 どうやらあれは破裂するようだ。


「ボクは大丈夫。レベルがある分耐えられてるから、美影は出来るだけ避けて手数で押して!」

「わかった!」

 ボクの指示で美影はマタンガ大に迫っていく。


「よっ、はっ、ほっ」

 間抜けな掛け声ではあるものの、見事に黒い球攻撃を避ける美影。


「てい!」

 そして間合いまで飛び込むと、引こうとするマタンガ大を刀で斬りつけた。


「!!」

 とっさに飛び退かれたせいで美影の攻撃は大きな傘をかすめるだけになってしまった。

 とはいえ、ファーストアタックというやつだ。

 上出来だよ、美影!


「いたた。お腹が痛むけど、ボクもやらなきゃね。【水符:双水刃】」

 ボクは頭を切り替え、符術を行使した。

 ボクの前に二本の大きな水の刃が出現し、マタンガ大に向かってすごい速さで飛んでいく。


「!?」

 飛んでくる水の刃に気が付くのが一瞬遅れたマタンガ大は、そのまま胴部分を斬り飛ばされてしまった。

 斬り飛ばされたマタンガ大は、その後動くこともなく地面に転がった。


「はぁはぁ、やった……」

 お腹は痛むものの、無事に一体目を倒したボク達。

 なんだかんだ言って、体力の少ないボクには結構痛い一撃だった。


「大丈夫? 昴」

「昴、待ってね。癒しの光あれ【治癒光】」

 真っ先に駆け寄ってきて、ボクの身体を抱きかかえてくれた美影。

 そして駆けつけてすぐに回復をしてくれた瑞樹。

 駆け出しの二人だけど、ボクはなんだかんだで助けられてしまった。


「美影が隙を作ってくれて助かったよ。瑞樹も回復ありがとう。お腹が痛いのが治ったよ」

 美影の鋭い一撃がなければ、マタンガが驚いて飛び退かなければ簡単にはいかなかっただろう。

 美影には感謝だ。


 そして、瑞樹の回復でボクの痛みは徐々に治まっていった。

 瑞樹にも感謝だ。


「えへへ、どういたしまして」

「それで、吹き飛ばされたけど、大丈夫だったの?」

 照れる美影と心配する瑞樹。


「まぁね。打たれ弱いから結構痛いけど……。お腹から水に落ちた時の感覚に似てるかなぁ」

 ボクはそんな感想を二人に伝えたのだった。

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