第16話 ダンジョン探索と五行刻印

 ボク達が待ち合わせ場所の南門に辿りついた時、すでにアーク兄とカレンさんのグループが揃っていた。


「あ、ボク達が最後か。マイア、行くよ」

「うん」

 マイアを引き連れて、カレンさん達の前にやってくると、カレンさん達がびっくりしたような顔をしていた。


「えっ!? スピカちゃんなの!?」

「随分可愛くなったんだね~」

「スピカちゃん、可愛くなった」

 カレンさんとリーンさんは素直に驚いていたけど、すぐにボクだと認識すると、囲んできて頭を撫で始めてきた。

 コノハちゃんは何を言ってるのかわからないけどね。


「まぁ募る話もあるだろうけど、自己紹介とかは向こうでやろう。今回はダンジョン探索だから、十分気を付けるようにな」

 アーク兄は簡単にそう言うと、みんなを引き連れて歩き出した。


「しょうがないわね、向こうで話しましょう」

「そうね~、向こうでなら時間も取れるし、ここでよりはいいかも?」

「楽しみ」

「はは……」

 どうやら追及を免れることは出来なそうだった。



 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★



――メルヴェイユ南部森林地帯ダンジョン前――


「ここがメルヴェイユ南部森林ダンジョンだ。ここは全体的に採集場や採掘場が存在するちょっと変わった資源ダンジョンだ。中層以下は結構強いのが多いから、今は上層オンリーになると思うけど、依頼内容のことを考えると、事足りるはずだ」

 今回ダンジョンに来た理由、それはフィルさんの材料集めの依頼を受けたからだった。

 依頼がボク個人に向けた指名依頼なので、ボクへの報酬が追加されている。

 まぁお世話になってるし、やってあげないとかわいそうだよね?


「それにしても、ムーンリーフかぁ。実は現物ってみたことないのよねぇ」

「フィルさんの話だと、花畑を見つければいいらしいですけど、わかります?」

「ごめんなさい、ちょっとわからないかも。ダンジョン内に花畑というのは気になるけど、どうしてそんなことを知ってるんだろう」

 カレンさんとリーンさんは申し訳なさそうにしている。

 とはいえ、製作をやらなければ知らないことの方が多いのは間違いないはず。


「たしか、ムーンリーフや魔力結晶はそれなりにレアだったはずだな。ムーンリーフは魔力回復ポーションの材料になるんだけど、最低でも中下級、通常成功で中級のポーションになるってんで、錬金術師には人気の薬草だよ。魔力結晶は、魔素が凝縮してできた鉱石なんだけど、粉末にすると各種薬剤やスクロールの魔力効率や薬効を高めてくれるんだ。単価はそれなりに高いから実入りはいいぞ?」

 錬金術師であるフィルさんは、おそらく魔力回復ポーションの増産をするつもりなんだと思う。

 本人は引きこもりがちだから、あまりこういうところにはこないっぽいけどね。


「それにしても、洞窟型のダンジョンってのは、迷いやすくて困るな。特徴的な物がほとんどない」

 ボク達は現在、ダンジョン内を探索しながら歩いている。

 このダンジョンには動物類やスライムなどのよく見かけるタイプのモンスターが出るようだ。

 遺跡型などはアンデッドやゴーレムが多いと聞くので、それよりはだいぶマシなんだけどね。


「警戒は怠るなよ? バックアタックなんてされた日には、あっという間に壊滅だってあり得るんだからな」

 カレンさんは前衛で剣士型、リーンさんは魔術師型、コノハちゃんは弓師型という構成で、こっちは魔術師型、術師型亜種の道士、僧侶型という構成になっている。

 ただ、アーク兄の場合は近接戦闘も行うので、魔導戦士型といった方が正しいんだけどね。


「わかってるわよ。今度からこのパーティーで行くんだから、慣れるようにしましょう」

 カレンさんはパーティーの合体に賛成のようだ。


「連絡網はあるから、スピカちゃんとマイアちゃんを追加すればいいだけだね。後で追加するけど、スピカちゃん達はSNSアカウントもってる?」

「一応あります」

「作ってありますから、後ほど」

「うん、了解。それじゃ、後で追加するからアーク君経由で教えてね」

 リーンさんとカレンさんはアーク兄の学校の同級生のようだ。

 時々、そんな話を3人でしていることがあるので分かったことだけどね。


「敵、来たわね。索敵に引っかかった。ダンジョンウルフ三頭ね」

「了解、いつ接敵?」

「もうすぐよ、構えて」

 カレンさんがそう言うや否や、洞窟の奥から三頭のダンジョンウルフが飛び掛かってきた。


「一射」

「ギャンッ」

 コノハちゃんが短く呟くと、一瞬にして一頭のダンジョンウルフが絶命した。

 見事に矢が頭蓋に突き刺さっている。

 驚くべき射撃性能だった。


「コノハちゃん、すごい」

「ふふん、どやっ」

「調子に乗らないの」

「むぅ~~」

 ボクが褒めると、一瞬ドヤ顔をして勝ち誇ったコノハちゃんだけど、すぐにリーンさんに怒られて拗ねてしまった。


「あはは、流れるように怒られたね」

「いつものことだから仕方ない」

 ボク達がそう言っている間に、アーク兄とカレンさんが残りの二頭を打倒してしまった。


「まったく、緊張感もてっての。まぁいいけどな。どうせダンジョンウルフだ、慣れてれば一番楽な相手だしな」

「もうちょっと考えて突っ込んでくればいいのに、これじゃ、どうぞ殺してくださいって言ってるようなものよね」

 たしかに、狭い通路で飛び掛かってくるだけなら、対応しやすいと思う。

 まぁ、ボクが一番どんくさいのは知ってるから、何も言えないんだけどね!


「おっと、また敵さんか。またダンジョンウルフだな。スピカ、やってみるか?」

「うん、ちょっと試したいことがあるから、やってみるよ」

 ボクはちょっとだけスキルを試してみたかった。

 やってきたダンジョンウルフは二頭、冷静に対処すれば楽に倒せるはずだけど……。


「まぁ、撃ちもらしたら倒すから、スキルの実験台にするといい」

 アーク兄からの許可も出たところで、早速……。


「【五行刻印比和火行二段:火炎陣】」

 五行刻印に使う五行とは、『木行』『火行』『土行』『金行』『水行』の5つの属性のことだ。

 比和は同じ属性をかけ合わせるときに使用する言葉で、火を二段重ねるために使用している。

 現在は最大五段まで重ねることが出来るけど、重ねた分だけ消費MPがかかるため、何段も重ねることは今は出来ない。

 今回使用した、『火行二段』によって、火の属性が高まり、相手を焼き尽くす属性魔術となって現れたのだ。


「ギャンッ」

「ギャワンギャワン」

 ダンジョンウルフの足元に出現した攻撃陣がダンジョンウルフを焼き殺す。

 陣とは言うものの、一筆書きのようなもので、点に始まり、直線や曲線、立体、五芒等を描き、そこに指定した属性の攻撃魔術を発生させる。

 今回は、横一列に直線を引いたため、そこに触れたダンジョンウルフがまとめて燃え上がった。


「結構面白いんだよ? 一筆書きで攻撃魔術の効果範囲を描いて、そこに攻撃用の属性魔術を発生させるんだ。属性は重ねたら重ねた分だけ威力を増すし、相反する属性を重ねることでも威力を増したりするんだ」

 道士スキルの五行刻印と属性攻撃陣の組み合わせは、パズルのような感覚で使えるのだ。


「へぇ~? なんだか楽しそうね。円形とかにも出来るの?」

 カレンさんが攻撃陣について質問する。


「基本は点と点を繋ぎ合わせることで様々な現象を起こすんだけど、直線や円形になると、同じ属性しか使えないんだよ。三角とかだと、最大三属性を重ねることが出来るけどね」

 点の数が多いほど重ねることは出来るけど、始点と終点しかない直線や円は同じ属性を最大二段までしか重ねられないのだ。

 陣構築の条件を簡単に説明すると、次のようになる。

 点の数は重ねられる属性の数。

 点と点、つまり始点と終点だけを結ぶ直線の場合、一属性二段まで重ねることが出来る。 

 三角形のような場合、点と点で結ばれた直線が三本あるため、三属性を重ねることが出来る。

 四角形でもおなじとなる。

 五芒星のような場合、五つの点を直線で結んでいるため、木火土金水の五つの属性を重ねることが出来る。

 また、同じ属性を五段にすることも可能。

 

「考えてみると、結構面白いな。陣の構築は早くなったりするのか?」

「うん、陣構築スキルのランクが上がれば処理がもっと早くなるよ」

 陣構築速度は陣構築スキル次第だけど、一応人力でも早くは出来るようだ。

 

「よし、それじゃどんどん行こうぜ! これならかなり楽が出来るはずだしな」

 ボク達は早速花畑を探しに向かったのだった。

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