第42話「次期会長を決めよう」
「なんで、ここに伊坂さんと
僕は思わず驚きの声を上げると、類家さんはまるで原稿用紙を読むみたいに淡々と説明を始めた。
「一度、このスペースから出て、資格を失った者が誰かを連れて来てはいけないというルールはなかった」
「いや、でも、一度ここから死亡して出てしまったら中には入れないはず。僕らみたいな立会人が手引きしたならいざしらず」
僕は絶対に無いとは思いつつ、アリーに視線を送る。
しかし、すぐにアリーは首を横に振り、僕の考えは否定された。
「このスペースから出てはいるけど、再入場を果たす方法なんて……」
僕は類家さん達がここに現れたシーンを思い出す。
そうだ! あの現れ方はっ!!
「チャンネル移動ですね!!」
類家さんはコクンと頷き、僕の考えが正しい事が証明された。
「ティザン。チャンネル移動ってどういう事?」
「それはね。まず、類家さんは自殺するって言って、チャンネルを変更したんだ。その時点でこのギルドスペースから出ているから資格を失うよね。で、その状態で、伊坂さんを別チャンネルの『女王陛下』のギルドスペースへ招く。そして広間で待機し、時間を見計らって再びチャンネルを戻せば、外に出たはずなのにこの広間に戻って来れるんだよ」
「えっ!? そんな裏技ありなの?」
「イーノさんのこれまでの性格から考えれば、裏技だからアリなんだよ!」
「う~ん。そう言われればアリな気がするわね。むしろあたしよりちゃんとした裏技なのだからアリにすべきよね」
ニョニョは自分を納得させるように、ウンウンと頷いた。
「では、ここにいる4名を資格者として、伊坂伊之助に判断していただきます」
アリーは場を仕切り、空中に映像が投影された。
今度はライブ映像の様で、映し出されたのは『イーノ』ではなく、白髪に皺くちゃの顔、目元はサングラスで隠れているけど、どことなく伊坂さんに似たお爺さんが映し出された。
「ふむふむ、面白い顔ぶれになったようだの。さて、この中で、『ざさばいばる』を分かった者はおるかの?」
伊之助さんは全員を見回す様に顔を動かすと、なぜかニョニョのところで動きが止まった。
「そこの綺麗なお嬢さんは分かったかの?」
なぜ、参加者でもないニョニョに聞くんだ!?
「ええ、それは分かっていますが、あたしは立会人で参加者ではないのですけど」
困った様に笑みを浮かべ、返事を返す。
「ふむふむ。容姿通りの綺麗な声じゃの。ふふふ。眼福、眼福!」
ただの趣味かッ!! 僕の中で『イーノ』の印象がエロじじいになっていく。
「まぁ、冗談はさておき、お嬢さんは分かったみたいだが、他に分かった者はいるかの?」
その問いかけに、えらく面倒臭そうに伊坂さんが答えた。
「その答えなら、参加者の頭文字だろ! 座谷の『ざ』に坂上の『さ』、坂東の『ば』、伊坂の『い』、番匠谷の『ば』、最後に類家の『る』だろ。全員合わせるとその言葉になる。これがヒントって言っていたから、全員で作り上げたモノとかチームワークがここに持ってくるもっとも大事なものって事だろ」
「ほぉ、流石、我が子! 良く分かったの!」
伊之助さんの目はサングラスで見えないけど、たぶん、その奥では目を丸くしていたのだろう。口元は驚きで開き、その後に笑みを浮かべていた。
なるほど、そういう意味だったのか、僕も当初関心したけど、でも、それをあえて、生き残り戦を想起させる並びにしたのは、この場面じゃ悪趣味だね……。ああ、だから、伊坂さんは悪趣味だって言ったのか!
僕は全てに合点がいってスッキリした。
「では、それを踏まえて、次期会長を決めよう」
ドゥウルルルルル!!
どこからともなくドラムロールが鳴り響き、ドンッと最後の一音と共に、映像の画面に、
『伊坂和彦』
デカデカと映し出された、その文字は現社長である伊坂さんを次の会長に指名するものであった。
「最後まで生き残ったみゆきも悩んだが、和彦よ、お前はみゆきを守ることを優先し、その結果、情報流出犯を炙り出すという皆での結果を作った。まさしくチームワークと言えるだろう。そして、次期社長にはみゆき、お前だ」
その結果に不満を言う者がたった一人。
「おいおい。ちょっと待ってくださいよ! 座谷専務が会長になるなら、まぁ分かりますよ。でも、伊坂社長が会長になるのはおかしくないですか? 一度外に出てますし、その順番で言うなら、俺が社長なんじゃないですかねぇ?」
会長の座は諦めたが、まだ出世することは諦めていない、番匠谷さんが、どう見ても失礼な態度で伊之助さんへ抗議を申し立てる。
「おお、忘れておった、番匠谷くん。キミにも辞令を出そう」
「そうこなくちゃ!!」
なっ!! 明らかに犯人は番匠谷さんなのに、ここに居たからって理由で出世しちゃうの!?
「キミの会社でのパソコンを調べさせてもらった。巧妙に隠してあったが、情報を抜き出した跡や、不正な資金の流れが確認できた。それから、キミの家のパソコンも覗かせて貰ったが、そちらからは情報流出の確固たる証拠が見つかった。で、キミへの辞令だが、豚箱送りだっ!!」
「なっ、なっ、自宅のパソコン? いったい、いつ?」
「キミは、坂東さんの時にっ! と言うかな?」
「まさか、坂東さんの時に……ハッ!」
「まぁ、あれだ。諦めなさい!」
番匠谷さんはぐったりとうな垂れ、そのまま動かなくなった。
「これにて一件落着かのぉ。ほっほっほっ!」
水戸黄門の様に高笑いを上げつつ、映像は切られた。
「では、これで、試験を終了いたします。皆様へは追って今後の事をご相談いたします」
アリーが事務連絡を終えると、伊坂さんはニョニョの元へ近づき、
「ありがとう。まさかこんな結果になるとは思わなかったが助かったよ。依頼料はここへ請求してくれ」
ニョニョが請求先のデータを受け取るのを見届けると、伊坂さんはログアウトした。
そして、それと同時に、座谷さんも僕らに礼の言葉を向けると、そのまま伊坂さんの後を追う様にログアウトした。
「さてと、それじゃ、俺も落ちるよ。ま、今日の件でこの前の借りは返せたかな?」
スティングはニッと笑みを作る。
「ええ、もちろんよ。あたしもティザンも助かったわ。情けは人の為ならずとは良く言ったものね」
「ああ、人にかけた情けはいつか自分に返ってくるってやつか。俺もその言葉は好きだぜ」
親指を突きたて、グッドポーズをしながら、スティングもログアウトしていった。
残すは僕とニョニョ、アリーに類家さん。それからオブジェと化している番匠谷さんになった。
ちょうどいいメンバーが残ったね。
僕はずっと謎に思っていた事を口にした。
「あの、類家さんって伊之助さんですか?」
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