第47話最後の一人

 京也が教室に戻った時、案の定昼休みは終わっており、クラスメイトは次の授業の準備をしていた。


「おっ、相棒おつかれ♪ 何の用だったんだ?」


「別に、ちょっとな」


「そうか、まあいいけどな。次数学だぞ、寝んなよ〜」


「それは約束しかねるな」


 林道から内密に、とは言われていなかったが、事が事なので京也は楽斗にも『聖人教』については話さないことにした。


《ガラガラ》


「全員席につけ〜、もうチャイム鳴ってるぞ〜」


 数学の担当の先生が教室に入った事により楽斗と京也の会話も打ち切られ、京也は自分の席に向かう。


(それにしても最後の一人か、俺がいつも話してる奴はほとんどが代表だしな〜。そうなると、実力的に考えてもあいつしかいねえか……)


 京也はそう考えながら憂鬱な数学の授業にのぞんだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「授業も終わったことだし帰るか」


 六時間目が終わり、先生が教室から出た事を確認した京也は大きく伸びながらそう呟いた。


「授業も終わったことだしって、あんた寝てただけじゃない」


 呟いたつもりが、京也はかなり大きな声で言ってしまっていたらしい。前の席に座っていた美桜が呆れながら京也に話しかける。


「まあまあいいじゃねえか美桜、相棒はこれだからいいんだ。まあでも相棒、今日俺達は帰れねえぞ」


「は? 何でだよ」


「いや、詳しくは俺達対抗戦のメンバーだけなんだけどな。これからちょっとしたミーティングがあるんだ。だから悪りぃけど和葉と二人で帰ってくれ」


「……分かったよ。んじゃ、帰るぞ和葉」


「へぇ〜、珍しいな。京也なら一人で帰るとか言い出すと思ったけど」


「まあな、お前に話しておきたいこともあったし」


 普段ならこういう時は一人で帰ると言い出す京也だが。少し悩んだ末に、(タイミングがいい)と考え、楽斗の話に了承した。そんな京也の対応が和葉にとって少し意外だったらしい。和葉は驚いた様子を隠しもせずに率直に思った事を言った。


「じゃあな」


「おう、また明日な相棒♪」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 楽斗達と別れた京也と和葉はそのまま帰路に着き、ちょうど校門を出てしばらく経った、人気が少なくなった辺りで京也は話を振った。


「なあ和葉、お前対抗戦の日ってどうするつもりだ?」


「えっ? どうするってそりゃ凛達を応援するに決まってんだろ。どうしたんだよ急に」


 京也の突然の質問に、和葉は訝しげに問い返す。


「いや、どっから話せばいいか分かんねえんだけど……『聖人教』って知ってるか?」


「ああ、反ソーサラーの過激派組織な? そんな常識知らないはず無いだろ」


「そうだよな……常識だよな……」


「どうしたんだ?」


 和葉に常識だと言われて、京也は『聖人教』の存在すら知らなかった自分の無知さを嘆いた。


「まあ、直球に言うとな。『聖人教』のアジトを攻めるからお前にも協力して欲しいんだ」


「……京也の事だからシャレで言ってないってのは分かるけど、何でそうなった?」


 先程まで和葉は友人と話すようなお気楽なテンションで話していたが、京也からの願いを聞いた途端、和葉は一気に真剣な顔持ちになった。


「ああ、俺昼休みに呼ばれただろ? そん時に林道さんに『聖人教』を襲撃するように言われたんだ」


 和葉が真剣な雰囲気になったのに合わせて、京也は昼休みに起こった事を和葉に伝える。


「それはまた何で?」


「『聖人教』が『鳴細学園』を襲ってくるらしい。まあ、何で今なのか分からないけどな。だから襲われる前に叩こうって話だ。ああ、ちなみにこれほとんど誰も知らない事だから内密に頼むな?」


「なるほど、理由は理解した。じゃあ何で私なんだ? 『聖人教』は対ソーサラーの武器をたくさん揃えて数々のソーサラーを殺して来た。いわば対ソーサラーのエキスパートだ。もっと適任者がいただろ」


「実力が足んねえって事か? それなら大丈夫だ。『百鬼夜行』の時見てたがお前の実力は序列以上だよ」


「違う、私が言いたいのはそういう事じゃなくてだなあ。何でお前が選んでるんだ。あと、お前なら私じゃなく楽斗とかを選んでただろ」


「……そうか、まず俺が選んでるって点に関してだが、それは俺にもよく分かんねえ。林道さんに選べって言われたからな。そして二つ目に、あいつは無理だ。作戦決行が対抗戦の日だからな、試合に出る選手は参加出来ねえって話だ」


 それを聞いた和葉は少し悩んだ末に京也の話についての答えを出した。


「……分かった。そういう事情なら私も参加する」


 和葉のその答えに、京也はあからさまに安堵する。


「そうか、それは助かるな。じゃあ明日の放課後に一緒に「ただ」


 突然自分の言葉を遮った和葉に、京也は一瞬驚くが、すぐに表情を最初の真剣な顔持ちに変えた。


「私の質問にお前が答えて私がそれに納得してからだ」


「分かった」


「何で今回お前は林道学園長の話に乗ったんだ? いつものお前ならめんどくさいって言って断ってただろ」


「ああ、それについては。まあ、そういう約束だからな。林道さんが俺の願いを二つ聞く代わりに俺は林道さんの願いを三つ聞く事になってんだ。だから、仕方なくだよ」


「違う、私が言いたいのはそんなんじゃ無い。私は鵜島 誠吾が話してた事が気になって仕方がないんだ。お前がこの国に恨みを持ってるってどういう事だ? いずれこの国を壊す気なのか? もしかして今回の件もこの国を壊すために参加するのか?」


「……もしそうだとしたら?」


 京也の意地悪な質問に和葉は一瞬戸惑ったが、すぐに目線を真っ直ぐ京也に向けた。


「……別に止めはしない。ただ、無理はするなって事だ。私達は友達だ、何かあれば相談に乗る。頼ってくれ、ただそれだけだ」

 

「……奏基といい、お前といい、何でそんな事が真っ直ぐ言えるんだろうな…………」


 和葉のその台詞を聞いた京也はどこか遠くを見ながら、和葉に聞こえないぐらいの声量で嬉しそうにそう呟いた。


「? なんか言ったか?」


「いや、なんでもねえよ。安心しな、今回の件は全く関係ねえ。ただ約束を果たすってだけだ。それから、お前の言葉に甘えて、これからは頼らせてもらう」


「そうか、それならいい。安心した、だったら参加するよ。じゃあ、私はこれからどうすればいいんだ?」


 京也の言葉に安堵した和葉は今まで真剣な顔持ちだった顔を緩めた。


「ああ、明日俺と一緒に学園長室に行ってくれ。そこで詳細な話を聞く」


「分かった。じゃあまたその時に詳しい話を『ドーーーン』


 和葉の言葉を遮るように聞こえて来た爆発音に和葉と京也は思わず構えてしまう。音のした方を見てみると、そこには黒い煙がもくもくと出ており、市街地では見れるはずのない光景だった。


「なんだ!?」


「分からねえ、ただ只事じゃ無いのは確かだ。行くぞ和葉!」


「分かった!」


 事態を深刻に見た京也と和葉はすぐに現場に向かった。

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