第40話準決勝第一試合後

 準決勝第一試合が終わり、楽斗と泡島は京也達の方へ歩いていた。


「ああ、くそっ! 負けた〜」


 そう言いながら泡島は悔しそうにその場に尻をつく。


「まあまあ、よくやった方じゃねえか♪」


「勝った方が言うなよ。まあ、それでも十八位相手によくやった方なんじゃないか?」


「そうか? 楽斗が最初から本気を出してたら俺速攻で負けてたと思うぞ」


 落ち込んでいる様子の泡島を和葉が慰めるが、足りないようで泡島は落ち込みを隠せていなかった。


「それにしても驚いた、奏基も結構強いじゃんか」


「うっせえぞ京也。お前の実力知ってたらそんなの嫌味にしか聞こえねえぞ」


「どうしたんだよ奏基、何か機嫌悪りぃぞ」


 楽斗の順位を聞いたあたりから機嫌の悪い泡島を心配して、京也が聞く。


「……別に何でもねえよ」


 しかし、泡島はその質問に答えず、何故かそっぼを向いてしまう。


「いいじゃねかよ教えろよ、それとも何だ? そんなに俺にお前の秘密をバラして欲しいのか?♪」


「何だよ俺の秘密って! ……はあ、しょうがねえ。恥ずかしいけど教えてやんよ」


 楽斗に地味に脅された泡島は観念して、自分が不機嫌になった理由を教える。


「これ京也についても言える事なんだけどよぉ。俺らって友達だろ? 何か理由があるってのはわかるけどよ。友達の俺に隠し事とかして欲しくねえんだよ。寂しくなる」


『…………』


「なあ、何か言ってくれねえか」


 自分が不機嫌になった理由を語った泡島を京也達は驚いた表情をしながら無言で見つめていた。そんな京也達に泡島は恥ずかしそうにする。


「な、何だよ」


「いや、なんて言うかさあ、何だっけ? 『俺たちって友達だろ』(笑)だっけか?」


「そうそうあとこれだな『寂しくなる、行かないで〜』(笑)」


 泡島の台詞に楽斗と和葉がこぞって煽った。二人としては泡島がそのような台詞を吐いたのが面白くてたまらないのだろう。


「うっせえな! だから言いたく無かったんだよ!  ていうか『行かないで〜』なんて一言も言ってねえ!」


 こうなる事を予想していたのだろう。泡島は少し食い気味に二人にやめるように言う。よほど恥ずかしかったのだ。


「二人共やめてやれ、奏基が可哀想だぞ。せっかく勇気振り絞って恥ずかしい事を言ったんだ。いくら面白いからってバカにしちゃダメだろ」


「京也、それフォローになってねえ」


 京也の追い討ちとも言える台詞に泡島はだんだん自分が惨めに思えて来た。今では両膝を抱え体操座りで縮こまっている。


「まあまあ、悪かったよ。もうバカにしないからさ、寂しがり屋君(笑)」


「楽斗お前マジで俺の事舐めてんだろ。はあ、もういいや。所で美桜と薺さんは? ああ、ついでにあの青木って野郎も。あいつは俺の事煽りに来ると思ったんだけどな」


 何とか話を変えたく、泡島は無理矢理この場にいない薺達の事について話を振った。


「ああ、凛と美桜はそれぞれ次の試合に向けて集中してる。それと、青木はあんたらの模擬戦見て奏基を煽りに来る所か自信を失くしてたっぽいな。あいつにとってはハイレベル過ぎたんだろ。模擬戦が始まってしばらくしてから凛からも離れていったな」


「あいつが薺さんから離れるとか、相当かよ。ていうかそんなにハイレベルだったか?」


 和葉の説明に泡島は驚愕を露わにする。彼としては、自分達の戦いが哲也が自信を失くすほどではないと思っているのだろう。


「いや、すごかったぞ。実際一年生レベルの戦いでは無かったな」


「おお、何か京也に言われると嬉しくなるな。あれ、そういえば和葉は負けたのか?」


「嫌味か?」


「いや、お前の実力なら準決勝ぐらい残ってもおかしくないと思ったんだよ」


 あからさまに不機嫌になる和葉に泡島は、これはいけないとすぐさま訂正を入れた。


「私のタビアは炎が無いと発動しないからな。炎の無い環境じゃただの一般人さ。模擬戦が始まった瞬間にリタイアしたよ」


「なるほどなじゃあ将来模擬戦ルームの外で戦う事になったらどうするんだ?」


 泡島が当然の質問を投げかける。『鳴細学園』に入学する生徒のほとんどの目的は将来軍に入る事だ。しかし、軍に入ればそこには模擬戦ルームなんて便利な物は無く、実戦だけになる。そんな状況でタビアが使えないなど致命的なのだ。


「ああ、そういう時はライター持つ事にしてるから大丈夫だ」


「なるほどな、ならいいんだけどよ。おっ、第ニ試合が始まるみたいだぞ」


「美桜と薺ちゃんの模擬戦か、今までずっと一緒にいた凛から見てどっちに軍牌が上がりそうだ?」


「そうだな、まあ順当に行くなら凛が勝つだろ。ただ何が起こるのかが分からないから断言は出来ないな」


「まっ、だろうな♪」


「答えが分かってたんなら何で聞いたんだ?」


 まるでその答えを待っていましたと言わんばかりの楽斗に和葉が呆れながら聞く」


「いや、まあ、何となく?」


「そうか、まあいい。それよりも始まるぞ、この勝負は美桜がいかに戦いを工夫するかが見ものだからな。目は離せられない」


「あれ、さっきどっちが勝つか分からないとか言ってなかったか?」


 楽斗が首を傾げながら不思議そうに聞く。


「何だ楽斗、揚げ足をとるのか? 私はどっちが勝ってもおかしく無いと言っただけでこの勝負は凛が有利だと見てるよ」


「へぇ、そうかよ。まっ、俺も次の対戦相手のチェックはしとかないとな♪」


「どっちが勝ち上がっても楽に勝てると思うなよ?」


 和葉は楽斗に、美桜と薺の事を誇らしげに思いながらそう言った。


「へっ、楽しみにしてるよ♪」


((こいつら仲いいなあ))


 楽斗と和葉の会話を聞きながら京也と泡島はそう思うのであった。




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