第23話~厄介な指示
イーバール国の中心に、首都イテルトがあり、そこに色んな施設の建物が建ち並ぶ。
ジェス達が住んでいるハリラロス村は、国の東側に位置し、馬車なら三日かかる。だがここは、魔術師の国。飛べる者は飛んで移動するので、ジェス達は三時間程で行き来出来る。
リズの仕事始めの場所は、ハリラロス村の更に東に位置する都市テーバ。ここは、富裕層が多く住む土地で、魔術師ではない者がほとんどだ。
彼らは、魔術師を個人的に雇い生活している。
イーバール国では、試験にパスすれば、中級までは隊に所属せずともなれる。上級からは、イーバール国の隊に所属し任を遂行する事になっている為、雇われている魔術師は、中級魔術師だ。
だが実力は、上級の者もしばしばいる。
リズとレネの今回の仕事は、このテーバに住むイッロ・ケルットが所持するマジックアイテムの確認だった。
つまり金持ちの道楽で集めたコレクションの管理体制のチェックだ。
イーバール国では、マジックアイテムは誰でも所持出来る事になっている。だが、魔術師ではない者や危険だと思われるマジックアイテムは、届け出が必要で、国で年に数度チェックする事になっている。
今回、そのチェックを二人は任された。
「うーん。これちょっと厄介かも……」
ジェスは、指示書に目を通し呟いた。
「え? そうなの? ただのチェックでしょう? ちょっと見せて」
レネに言われ、ジェスは指示書を手渡す。本来は見届け人の中級魔術師が見る物で、現在初級魔術師のレネが見れる物ではないが、レネも見届け人みたいな者だ。
四人は隊が用意した馬車に乗り込み、目的地に向かっていた。
ジェスとレネが並んで座り、向かい側にディルクとリズが座っている。
中級魔術師総隊長のアルドヘルムから手渡された物に、目を通す時間がなかったジェスは、今確認していた。移動中は、特に何もする事がない。なので最初からそのつもりだった。
今回の管理体制のチェック自体は、難しいものではない。ただ届け出ている通りあるか、ちゃんと保管しているかチェックをするだけだ。
厄介なのは、イッロがそれを拒んでいる事だった!
自分が雇った魔術師に管理をさせているので、大丈夫だと拒んでいるという。そこで、初級魔術師の仕事始めにお手伝い頂きたいという体裁でお願いし、形式的にチェックをさせて欲しいとイッロに通達。勿論いい返事は帰って来なかった。
「うっわぁ。何これ……。リズと私を組ませた理由ってこれにない?」
「僕もどっちかと言うと、そうだと思う」
レネの言葉にジェスも同感だと頷く。
昨年まではチェックを受け入れていたイッロが、それを拒む理由が何かあるはずだと睨み、初級魔術師の仕事始めのお手伝いという事で、確認をしようとした。
そこに、ちょうど中級の能力があるレネがいた。
イッロに、見届け人を雇っている魔術師にさせるという条件で、マジックアイテムの確認をするよう指示が出されていた!
なのでディルクが家族だからついて行くのがダメと言うよりは、この指示通り行うのに支障があるからだった。彼がいては、絶対について行くと言うに決まっている。
「僕、これ止められると思う?」
「ここはリズにお願いするしかないでしょうね」
「だよね……」
「うん? 何?」
自分の名が呼ばれ、リズがジェスとレネに聞いた。
「ちょっとお願いが、ね」
レネがそう言うと、指示書をリズに手渡す。
受け取ったリズが見始めると、ディルクも何だと覗き込む。
「これって……」
「はぁ? なんだこれ!」
リズは困惑顔、ディルクはムッとしている。
「大丈夫だって。レネが一緒だから。君だってリズの仕事始めを成功させたいだろう?」
「そうだけど! これ、仕事始めの仕事じゃないだろう!」
ジェスがそう言って説得しようと試みるも、ディルクは反対意見のようだ。
「でも、これを私達にって事は、私達になら出来ると思ってるって事でしょう?」
リズは、横に座るディルクに振り向き、彼にそう言った。
「うーん。ディルク。僕達、違う仕事が任されているよ」
「は?」
ディルクはその言葉で、ジェスが難しい顔をして手に持って見ていた書類に気が付く。
「どういう事だよ。それに何て書いてあるんだ?」
「リズとレネと別に行動して、イッロを探れって書いてある……」
ため息交じりでジェスは、ディルクに答えた。
見届け人の指示書とは別に、何か渡されていたとそれも確認をすると、自分達の仕事内容が書かれた物だった!
普通は自分の手に余ると思えば辞退出来る。だが受け取ってしまえば実行しなければならない。
総隊長から直々に渡されて、断る者もいないが、だまし討ちに近い。
「お前、勝手に受けるなよな!」
受け取った書類を確認して、ディルクはジェスに叫んだ。ディルクもこの指示に従わなければならない。
「大丈夫よ。私達の方は。相手は、仕事始めの初級魔術師だと思っているんだから。大変なのは、あなた達でしょうね」
リズの言葉に、ジェスはその通りだと思った。
イッロが魔術師を一人だけ雇っているとは考えづらい。一人遠ざけた所で、他の魔術師を欺き、何かしら調べてこないといけない。
しかも目の前にいるディルクに、それが出来るとは思えない! 彼には隠れてこそこそやる任務は適さないからだ!
「だから、僕に直接だったのか……」
ディルクと一緒に、この任務頼める相手がいなかったのだろう。またレネを必ず同行させるのも作戦の内だ。だがネレが中級魔術師から初級魔術師に降格したのは、内密にされている。組ませるのはリズしかいなかった!
ディルクに仕事内容を伝えれば、リズにこの仕事をさせない様にするのは目に見えていた!
今回は、リズの初級魔術師の仕事始めに
ただ、腑に落ちない事が一つあった。この仕事はレネが行くとなれば、見届け人は事情を知っているジェスとなる。ディルクの件があれば尚更、もっと早くジェスに話があってもいいような気がした。
「うーん。他にレネが降格した事を知っている人がいたのかな?」
「何か言った?」
ついボソッとジェスが呟くと、レネが睨んできた。
「あ、いや。何でもないです……」
レネならすぐにでも中級に上がってくるだろう。
うかうかしれられない。ディルクを何とか説得して、自分の仕事を成功させなければならかった。
「ねえ、今回は、レネとリズを信じて、僕達の仕事をしよう。ディルク!」
「うーん。いいけど……」
「え?」
まさかゴネもせずに、協力すると言うとは思ってなかったジェスは驚く。いや、話を聞いていた二人もだ。
「取りあえず、あいつらを何とかした方がよくねぇ?」
「あいつら?」
ディルクが言うあいつらとは? と、ディルクが指差した馬車の外をジェスは見た。
砂埃を上げ近づいて来る集団がいた!
その者達は、各々馬に乗り十人程いる。
「賊みたいね」
「え? 賊って、魔術師の馬車を狙うの?」
「うーん。稀にね。馬車を使うのは初級魔術師だから……。あいつらの中に術を使える奴がいるんだろうね」
リズの質問に、外を見つつジェスは答えた。
賊とは言え一般人扱いで、魔術師ではない者達に術を使うのは禁止されている。なので、普通は賊から逃げまくる。その間に御者が応援を呼ぶ。
勿論、御者も魔術師だ。初級の魔術師で空を飛べ、ある程度武術も出来る者が当てがられている。
「まあ、向こうは僕達が飛べないと思っているだろうから、僕達はここからは飛んで目的地に行こう」
「私もその作戦に賛成よ」
ジェスが提案するとレネが賛成と頷く。
「OK。じゃリズは俺が守る」
「任せた。御者に合図を送ったら扉から外へ出るよ!」
ジェスの言葉に三人は頷いた!
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