異世界神社の管理人

いつきみずほ

第一章 期間雇用、それって終身雇用のことでしたっけ?

1-01 プロローグ

 暑い夏の日差しの中、神社の境内を駆ける小さな子供たち。

 スマホやゲーム機はもちろん、ボールや遊具の一つすら無いのに、楽しそうに笑いながら遊んでいる。

「ゆかりさま~、おはようございます」

「はい、おはよう。石段から落ちないよう、気を付けてね」

「はーい」

 傍を通った子供から挨拶を受け、わたしもまた挨拶を返す。

 廊下を抜け、拝殿の床に腰を下ろすと、山からの風がすぅっと吹き抜け、涼しい空気を運んでくる。

 微睡まどろみの様な昼下がり。

 穏やかな日常。

「ふぅ、若い子は元気だね……」

「――いえ、紫さん。なんだか如何にも長く生きてきた風な気分を出してますけど、まだ一年も経ってないですよね? 私からすれば、瞬きするほどの時間ですよ?」

「そうだったかしら? 忘れたわね」

 アンニュイに子供たちを見るわたしに声を掛けてきたのは、巫女装束を着た幼女。

 ただし、頭には狐の耳、お尻には狐の尻尾が見えている。

 もちろん、普通の人間ではなくて、ここの祭神の神使――いや、分け御魂?

「――そんな感じの存在で、名前は宇迦うか。わたしにとってはとても頼りになる、パートナー的存在」

「いや、なんですか、紫さん。突然モノローグなんて喋り始めて。褒めても何も出ませんよ?」

「どれぐらい頼りになるかというと、面倒な仕事は全部片付けてくれて、わたしはただのんびりと、お昼寝していれば良いぐらいに頼りになる」

「いやいや、勝手なモノローグで私をキャラ付けしないでください! きちんと働いてもらわないと困るんですから!」

「……ちっ」

 流れで行けるかと思ったけど、ダメだった。

「そもそも、紫さんを選んだ一番の理由、妖魔撃退すら、まだしたこと無いじゃないですか」

「…………そういえば、そんな設定もあったわね」

「いや、設定じゃないですから! 紛れもない事実ですから!」

 そんな事を神様から言われたような、気がしないでもない。

 積極的に忘れたいけど。

 そしてこのまま出てこなければ良い。

「それに、夏祭りの準備も全然進んでないじゃないですか」

「えー。宇迦、任せた」

「『えー』とか言わないでください。やるっていったじゃ無いですか」

「わたしが巫女舞を舞うなんて聞いてないよ~」

 お祭りやりたいなら、好きに境内を使って良いよ、屋台とか出るなら、わたしも食べに行こうかな、ぐらいのつもりだったのに、わたしもガッツリ関わることになるなんて!

 ……いや、当たり前だよね。

 どっちかと言えば主催者側だよね、神社の巫女って。

 本当なら、宮司とか、そんな人がやる事かもしれないけど、この神社、わたしと宇迦しかいないからね!

 それらの役職、全部まとめて私だからさっ!

「今から取消しは……」

「できますか? あの子たちの笑顔を見ても」

「うっ……」

 話を聞いて、「今年はお祭りがあるんだ!」と喜んでいた子供たち。

 その表情を思い出すと、さすがのわたしも「やっぱナシで!」なんて言えるはずもない。

「ほらほら。そこまで難しくは無いですから頑張りましょう。ね?」

「うえーい」

 我ながらなんとも締まらない返事をしつつ、わたしは宇迦に背中を押され、立ち上がったのだった。

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