第5話 (ハッピーエンド?ルート)年上の女房が金の草鞋を履いて旦那を探した話


獅子頭(ライオンではなく獅子舞の頭である)を船首像に据えた帆船がウッチウラ港に入港する。

板が渡され、わらわらと鹿頭の小人・・・鹿人ワーディアが飛び出してきて2列に整列する。

そして黒い短髪黒目の隻眼の剣士が降りてくる。着物の前を大きく開け、大刀2本脇差1本を腰に差している偉丈夫だ。

つぎにマッサチン公国発祥の執事服タキシ-ドに身を包んだ銀髪赤目のくるくるの特徴的な眉毛の若い紳士が降りてくる。

最後に茶色い月代を剃らずに頂きで束ねた総髪に黒目。胸にある大きな×印の傷を見せるよう大きく前を開いた半袖の青シャツに半ズボンの男が降りてくる。


「サンゴ王国の第八姫にして、ハコダテ領主アリエル・シーポープであります」

式典用の装飾が施してある白い皮鎧に身を包んだアリエルが総髪男に頭を下げる。


「貴女が我が国の民の救出に尽力されたアリエル殿か。俺がワ国マツマエ領の猿辰瑠布衣である」

猿辰とアリエルはがっしりと握手する。


「ではこちらにどうぞ」

アリエルは猿辰をエスコートして王城に向かった。


サンゴ王国ウッチウラ城の広場で猿辰の歓迎晩餐会が開かれる。

サンゴ王国の沿岸を荒らす、海賊集団ワ寇の元締めだと噂される猿辰だが、噂に過ぎない。

ワ国の公人として正式に訪問している以上それなりの待遇をしなければならないのだ。


「おお、万寺殿。よくぞ無事で」

「猿辰さま。お手数をおかけます」

白いドレス姿のアリエルに付き添われてきた万寺と猿辰が軽くハグをする。

それから猿辰は三人の犬人ワードック船員にもねぎらいの言葉をかける。

しかし、ハーフエルフのルリウスには言葉もかけることなく、侮蔑したような眼で一瞥すると再び万寺と話し始める。

「ふん。金糸雀が仕事もせずいい気なものだな」

くるくるの特徴的な眉毛の紳士がルリウスを見下ろす。

「屑が」

露骨な舌打ちして、隻眼の剣士がルリウスの腕を掴む。


「ちょっと待ってよ」

ルリウスをちょっと、いやかなり好ましく思っていたアリエルは、三人の態度に我慢できなくなった。

隻眼の剣士の行為を止めさせるべく隻眼の剣士に手を伸ばす。


「はっ」

僅かな殺気を察知し、条件反射的にアリエルの手を払おうとして、隻眼の剣士が手を上げる。

ばちん

視覚的にも、言い逃れ出来ないほど完璧な形で隻眼の剣士の裏拳がアリエルの頬を激しく叩いた。


つぅ

アリエルの端整な口から紅いものが流れ落ち、ドレスを汚す。


「お、おい、斬次!レディになんてことを」

隣りにいた眉毛の紳士が慌てて隻眼の剣士斬次の腕を掴む。

「いやズロよ、俺は殺気を感じてだな」

「王女殴った言い訳になるか馬鹿野郎」

例えアリエルが先に手を伸ばしていたとしても、眉毛の紳士ズロが指摘する通り、言い訳できない事態である。


「言い訳する前に謝るのが先だろが斬次!」

いつのまにか側に来ていた猿辰の巨大化した拳骨が斬次の頭に落ちた。


「すみませんでした」

猿辰にボコボコにされた斬次がアリエルの前で土下座したのは10分ほど後のことになる。


エピローグ


結局、隻眼剣士の斬次が起こした凶行は、国家間の問題には発展しなかった。

彼らがルリウスを侮蔑した理由。それは今回の事故でルリウスが負う賠償金が原因だった。

いわく、ルリウスの本来の仕事は通訳でなく天候観測士。

風の精霊を使役し、悪天候で船が遭難しないように導くのが仕事。

遭難を回避するための義務があり、怠れば相応の罰と賠償を負わなければならないという。


ルリウスは、犯罪奴隷に落とされたうえで今回の被害総額白金貨五枚の賠償が課せられるのだという。

アリエルは事件を不問にする代わりにルリウスの借金を白金貨四枚にまけさせたうえで、残りを現金で即払いしルリウスを身請けした。

後に、このことの理由を聞かれ「一目惚れした弱味だよ」と豪快に笑ったアリエルを誰もが「漢らしい」と苦笑いしたという。


ただ、この後ふたりの間に生まれた子供たちの残した偉業を考えると、白金貨四枚は非常にお得だったと評されることになるのだが、それは別のお話。


- ☆ - - ☆ - - ☆ -


元ネタ人魚姫。オチはどちらの話が好みだったでしょうか?


新しいお題が出るまで暫し休演となります。


またお会いできる日まで

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