第41話 お願い
「ただいまー」
明日香の家を出たのがお昼前だったので、スーパーで四人分のお弁当を買って家に帰ってくると、
「あれ? 優君……出掛けてた?」
リビングから下着姿の琴姉ちゃんが現れる。
だけど、どうして不思議そうな表情で僕を見てくるのだろう……って、思い出したっ! 今のミウちゃんの姿を見せないように、今から夫婦で子作りするっていうメチャクチャな宣言をしたんだ。
「あー、えっと、その……は、激しく動いてお腹が空いたから、お昼ご飯を買って来たんだよ」
「なるほど。優君から話を聞いて調べたけど、確かにあれはカロリーを消費しそう……」
今、僕から話を聞いて調べたって言った? 何を? ……もしかして、琴姉ちゃんは子供の作り方を知らなかったの!?
いやいや、そんなはずはない。だって琴姉ちゃんは十九歳だよ? これまで恋愛だってしたきただろうし、そもそも義務教育で……って、琴姉ちゃんはアメリカの大学に飛び級で入学してたっ!
だから僕に全裸を見られても、何とも思って無くて……マジで!?
僕がリナさんから異世界の話を聞いた時と同じくらいの衝撃を受けていると、
「それより優君。分からない事がある。教えて……」
琴姉ちゃんが上目遣いで見つめてくる。
下着姿で、綺麗な肌を惜しげもなく露出させた琴姉ちゃんが、子作りの方法を調べた後に分からない事を教えてって、その内容は非常にマズくないだろうか。
「優君。来て……」
「琴姉ちゃん、待って」
「無理。待てない……」
不意に琴姉ちゃんが僕の手を取り、引き寄せてくる。
ダメだよ! 僕は明日香の事が好きで、ようやくリナさんとミウちゃんの一件が解決した所なのに!
それに教えてって言われても、僕には知識は有っても経験が無いから、教えられる事なんて無いよっ!?
だけど僕の意志に逆らって、身体は琴姉ちゃんに従ってしまい、
「優君。これ……どうしたら良い?」
白い煙が上がるキッチンへと連れて来られた。
幸い未だ火に掛けてから時間が経って居なかったのか、小さな鍋が置かれたガスコンロの火を止め、換気扇を回しただけで収まったけど、琴姉ちゃんは一体何がしたかったのだろうか。
「琴姉ちゃん。これは何だったの?」
「お腹が空いたけど、優君が出てきてくれないから、ご飯を作ろうと試みた。でも、火に掛けたのにスープが出て来ない」
「……あ、インスタントラーメンを作ろうとしたんだ。でも、お湯が無いよね?」
「お湯? お湯が要る……?」
話を聞くと、鍋に麺を入れて火を点ければ、中からスープが出てくると思っていたらしい……って、琴姉ちゃんもリナさんも鍋を焦がし過ぎっ!
リナさんはまだしも、琴姉ちゃんはアメリカでどうやって生活しているのさっ!?
「琴姉ちゃん。後片付けはやっておくから、一先ずこのお弁当を食べて」
「優君は?」
琴姉ちゃんが、少し寂しげに僕の顔を覗き込んできた。
僕がミウちゃんに会えないようにしてしまったし、実際に寂しかったのだろう。せめてお昼ご飯くらいは琴姉ちゃんと一緒に食べようか。
だけど、ミウちゃんは病気だという設定にしてしまったので、リビングへ呼ぶ事が出来ない。
リナさんを呼んでミウちゃんを一人にする訳にもいかないし、悪いけど部屋に居て貰うか。
「リナさんとミウちゃんにお弁当を渡したら戻ってくるよ」
そう言って、リナさんとミウちゃんのお弁当を手に移動する。
「リナさん、お昼ご飯ですよー」
声を掛けて二人が居る部屋に入ると、
「優ちゃん! どうやった!? やっぱりダメやったん!?」
僕に抱きつく勢いで、リナさんが飛んで来た。
まだ本来の姿である獣耳状態なのだけど、やっぱり良い!
非現実的な獣耳にモフモフ尻尾の美少女が僕の目の前に居る。元の世界へ帰る前に、その状態でメイド服を着てくれないだろうか。いや、待てよ。巫女装束も捨て難いっ!
「あの、優ちゃん?」
「あ……えっと、大成功ですよ。明日香との仲は完全に元通りになって、デートの話で盛り上がりましたし。まぁ強いて挙げるなら、あの台詞がイマイチな結果になったって事くらいですよ」
「そうなん!? じゃあ、優ちゃんと明日香さんで、子作りしてきたんや」
「いえ、子作りまではしてないですよ」
「えぇっ!? 何でなん!? 優ちゃんと明日香さんが子供を作ってくれへんとミウが、ミウが……お願い、優ちゃん。明日香さんと子作りしてきてっ!」
突然リナさんが目に涙を浮かべ、懇願してくる。
だけど、どうしてリナさんはここまで子作りに拘るのだろうか。僕と明日香の仲は良好だし、本来の未来に戻るはず。
だから、ミウちゃんだって元の姿に戻って……ない!?
「あ、あれ? ミウちゃんが、元に戻ってないの!?」
「うん。まだ獣人族のままやねん。だから優ちゃん、やっぱり夜這いしに行こ?」
何故!? どうして元に戻っていないんだ!?
僕と明日香の仲は元に戻った。それどころか、デートの約束を取り付けているし、元より仲が良くなっているくらいだというのに。
やっぱりリナさんの言うように、明日香と子作りをしていないから? だけど、明日香はそういう行為は苦手そうだし、夜這いだなんて絶対に許してくれない気がする。
でも、だったらどうすれば良いんだ!? 夜這いとまではいかなくとも、告白はしなければならないのか!?
「優ちゃん、分かった。女の子と子作りするのが初めてやから、きっと不安やねんな」
「え? リナさん? 何を言って……」
「大丈夫。ウチが女の子の事を教えてあげる。ウチで練習しよっ!」
ミウちゃんの状態が戻らず、不安なのだろう。
獣耳と尻尾が生えた状態のリナさんが、止める間も無く全裸になってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます