第61話 学園ラブコメ編① ときめきでもリアル

 何でもない道路を歩いているが、何かがおかしい。いや、何かが。と言うよりは全てがおかしい。と言う方が正しいであろう。



 バンッ



「ちょっと、マサムネ! 何で今日は寄ってくんなかったのよ! 」



 突然、背中に衝撃が走り背中に手を当てたまま振り向くと、制服姿で通学バッグを持ちながら頬を膨らますセイラが立っていた。



「いってーな! なんだよコスプレイベントでもすんのか? 」



「はぁ~ 何言ってんの? 背中を狙ったつもりが頭に入っちゃったかな? 」



 ……なるほど。これは俺の夢か……それにしても、いまさら学園ものの夢かよ。こいつの姿と言い思わず笑ってしまった


「え? 本気で大丈夫? 何かニヤニヤして気持ち悪いんだけど」


「こっちの台詞だ。お前、ちゃんと鏡みたのか?」


「何で? ちゃんと見たわよ。どう? この綺麗な枝毛一本ないシルクのような金髪に、シワ1つない制服。まさに歩く清楚」



 長い金髪を耳にかけるとセイラ特有のとがり耳がピョコッと姿を表した。そのまま前のめりになり、意味ありげに微笑みながら、俺の顔を覗き込むように見上げてきた。



「あ~ 今、ドキッとしたでしょ? 」



「あぁ、正確には『今』ってよりも、今日、お前を見た瞬間からだけどな」



「な なな 何、言っちゃってるのよ」



 真っ赤になりながらバッグを俺に振り回して来たので、俺はバッグを受け止め補足を入れた。



「だって、お前スカート履き忘れててパンツ丸見え何だけど。清楚の欠片もねーよ」



 セイラは恐る恐る目線を下に向けると声にならない声を上げた。


「…………➡️⬇️↘️+キック」


 キャノンスパイクを繰り出すと、顔を一層真っ赤にしながら猛ダッシュで走り去っていった。



「あっぶね! ってか、あいつ夢でも面白れーな」


 そのまま俺は学校を目指した。とは言っても、どこに学校があるのかも分からないから適当に歩いていた。


「にゃぁ 遅刻 遅刻 いたっ! 」



 そして角に指し当たる所でまたも悲鳴のような声が聞こえてきたかと思うと、1人の女の子とぶつかってしまった。



「あいたたた。ど どこ見てるにゃ? や やらしいにゃ! 」


 倒れながらも謎に両手で額を隠して睨み付けてきた。

 今度はアイリかよ。夢でも爆乳なのは変わんねーのな。ってか額を隠す意味。



「わりー 大丈夫か。お前の場合は隠すのは額じゃなくて胸だろ……うわーー キモッ」



 よく見るとアイリの近くにはトカゲの食い掛けが散らかっていた。



「キモくにゃい! 朝ごはん食べる時間にゃかったら、食べながら走ってたにゃ。マサムネの心は猫の額にゃ。そしてアイリは急ぐにゃーー」



 そのままトカゲを咥えると走り去っていった。

 心が狭い。って事を言いたかったのか? ってか可愛い子が虫を食ってる姿なんてマニアック過ぎだろ。供給に需要が追いつかねーよ!



 そうこうしているうちに学校に着いてしまった。

 何となく廊下を歩き何となく教室に入ると、俺を見るなり男子生徒2人が声を掛けてきた。


「おはよう。マサムネ、いい朝だな」

「マサムネ。今日はセ セイラと一緒じゃないのか? 」


 げっ! ディアボロスとアベル!! 何か仲良さそーだな、おい。


「あ あぁ、おはよう。セイラは忘れもん取りに家に一回戻ったぞ」



「忘れもんとか。何、忘れたんだろ。 でも、おっちょこちょいな所も可愛いよなぁ マサムネは幼馴染みで良いなぁ」



 忘れたのは清楚な気持ち。で、おっちょこちょい。で済むレベルじゃねーけどな! そして俺はセイラと幼馴染みなのか。



「それよりも今日は転校生が来るみたいだぞ。爆乳だったら良いよな! それでもアイリには勝てないだろーが」



 こいつホントの男子校生みたいな事を言ってんな。

 とりあえず自分の席が分からないから、窓側の一番後ろに座った。



「マサムネ、そこ俺の席だけど」


 デストラ!! カボチャに学ラン。ってシュール過ぎる、じゃあ隣に座るか。


「あっ わり」


「そ そこは氷芽ひめさんの席だろ。マサムネはその隣、どうしたんだよ? 」


「そうだった……ど忘れしちった」


 デストラは不思議そうに俺を見ながら席に着いた。

『氷芽さん』って、言ってなかった? なにこれ?



「遅刻ギリギリですわ。おはよー マサムネ君にデストラ」


 急に声を掛けられ見ると氷芽が俺の隣に座っていた。


「ひ 氷芽さん。おはよう、珍しいねギリギリに来るなんて」


 氷芽は意地の悪そうな笑顔を浮かべていた。


「なぁに。デストラは私がもっと早く来て、一緒にいる時間を少しでも多くしたかったのかな~」


「そ そんなんじゃないよ。純粋に珍しいなぁ、って思っただけだよ」


「ほんとかな~? あっ デストラ 勝負しよ」


「な 何、突然……」



 これ! 何かアニメで観たことあるやつ~~

 おでこ広い可愛い女の子が、隣の席の男の子をからかうやつだろ!!

 この学校も夢もめちゃくちゃじゃねーか。

 辺りを見回すとアイリもセイラも席に着いていた。



 ガラガラ~


「静かにしなさい! あなたたち呪うわよ」


 ザワザワしていた生徒どもが、じょじょに大人しくなり、教室は静まり返った。

 静寂のなかコツンコツンとヒールの音を響かせながら美雨めいゆいが教卓までやってきた。



「あなたたちが大人しくなるまで、もう何分待てば良いのですか? 」


 いや。もう、大人しいだろ!



「ほら! そこ」


 美雨はチョークを廊下側の一番前に投げ付けた。



「さすがは美雨先生で御座います。このオズワルド、美雨先生が教室に入られて来てから、胸の鼓動がメタルバンドのドラムよりも激しく打ち付けられ」



 オズワルド!! 初老が学ラン着てるーー。でも、ビシッとしてるから何か似合ってんだけど。

 美雨は再度チョークをオズワルドに投げ付けた。



「そんな事を言ってるのではありません。あなたが息をしているので呼吸音が洩れていて不快なのです」



 オズワルドに死刑宣告来たーーー



「まぁ。良いわ、今日は後で転校生が来ます。着いたら紹介しますので、まずは出欠を取ります……見れば分かりますね。来てないのはルナルサとリリムですね」



 美雨は教室を見回したが、生徒全員が息をするのを我慢していた。

 美雨が出席簿に目を落とした瞬間、一斉に息を吸う音が聞こえてきた。



「デストラ、そのまま息を吸って~まだ、まだ、まだ吸える」


 ん? 氷芽は小声でデストラ相手に何やってんだ?


「まだ吸えるよ~ ハイ止めて!」


 デストラは空気で一杯なのか頬まで膨らませていた。


「デストラ、こっち向いて」


「ブッツッッッーーーーワ!」


 え? デストラが氷芽の顔を観た瞬間、吹き出してしまい溜めていた空気が一斉に放たれた。


「ちょっと~ へ 変顔は卑怯だよ氷芽さん」



 なにそれ? 氷芽の変顔とか、ちょー見たいんですけど!


「デストラ!」


 ガツンッ!


 デストラの顔面には美雨が投げ付けた黒板消しがヒットした。



「その飛翔体を取って、ここまで持ってきて下さい」



 美雨が無感情のまま告げるとデストラは飛翔体という名の黒板消しを拾い、氷芽を恨めしげに見ると教卓まで歩いていった。

 氷芽はデストラに片手を広げ軽く振ると、俺の方を向いてきて意地悪い笑顔を向けてきた。



 うぉー こんな氷芽も新鮮じゃねーか。少しからかわれたいかも。

 ふと教卓に視線を戻すとデストラが美雨に黒板消しを渡していた。


「デストラ。あなたはクラスの書記でしたね? 書記をまとめる総書記系男子でしたね。今から言うことを黒板に書きなさい」


 総書記系男子ってなに? 飛翔体とか言ってたし、あの人ヤバくね?


 デストラは美雨に言われている事を黒板に書き出した。



 ハーレムか? それとも純愛か? はたまた男子の友情か? 個性の違う魅力的な女の子たち(一部男子)を、あの手この手で落としちゃえ。本格的恋愛夢ゲーム


 ~夢短シ恋セヨ青年愛セヨ乙女~



 嫌な予感しかしねー。

 一部男子も落とせんのかよ! 落としたかねーよ。そんなもん!



「よぉ。マサムネ」


 突然、前の席の女の子が振り返ってきた。



「何かあったら、私に聞いてくれ。私に話し掛けてくれれば、今の対象相手との親密度や親密度を上げられるアドバイスが聞けちゃうよ」



 四季ーーー


 お前はチュートリアルでアドバイザー的な立ち位置か!



「じゃ じゃあ。今の段階で誰との親密度が高いんだ? 」


「よぉ。マサムネ 何かあったら~」



 マジか? イベント起こらないと同じことしか言えない使用か……



 これは夢だがリアルに先が思いやられるぜ。

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