第27話 冴えないキャストの育て方

「えー 皆さんのお陰で、順調に客足も売り上げも伸びてます。ありがとうございます。そこで日頃の感謝を込めまして、ささやかではありますが、こうしてパーティーを開きたいと思います。今日は存分に楽しみましょう。乾杯」



 バックバーからマイクを持ったマサムネか店内のキャストに告げた。最近の売り上げとキャストの頑張りに、何かお返しをしようとホームパーティを主催したのである。



「どうして、店内でやるのにゃ?」



 アイリはテーブル席に座り、ピザを頬張っていた。アイリの猫耳が前後に揺れている事で、食べているピザの美味しさは保証されていた。



「四季がいるからでしょ? 四季はここからは出られないもんね」



 テーブル席のすぐ隣のカウンター席では、リリムが相変わらずワインを片手に、煙草を燻らせていた。



「にゃるほど。四季ちゃんもアイドルとして、貢献したにゃ」



 四季は定位置であるカウンター席の端に座っており、ニコニコとピザを両手に持ち、そのまま頭上に掲げると、頭上からはヴィヴァルディがピザをつまみはじめた。



「あのライブをやってから客足は伸びた気がしますわ」


「確かに、そうですね。新規客も増えましたし、私なんて謎に、ルナルサの爺やさんから、週5でアプローチされるのですが……」



美雨めいゆい、それは本当に申し訳ない。あのエロ執事め」



 クールビューティーズの氷芽ひめと美雨が、テーブル席に並んだ、サラダやチキンを向かい合いながら食べていると、隣のテーブル席でアイリと向かい合うルナルサが、怒りを我慢するように呟いた。



「まぁまぁ。みんな、それぞれ頑張ってくれているし、客単価も上がっている。約1名。ってか、1エルフ抜かしてな」



 マサムネはカウンター越し、真っ正面に座るセイラに向けて言うと、セイラの長耳はシュンと垂れてしまった。



「だって……」


「だって。じゃない」


「でも……」


「でも。じゃない」


「ところがどっこい……」



「ところがどっこい。どうした? 聞いてやるから続きを言え」



 セイラは自分の予想が外れてしまい、俯きただ口をモゴモゴさせるだけだった。

 マサムネはため息をつくと、カウンターバーに置いたハイボールを口に含んだ。



「セイラは相変わらず良いときと悪いときの波が激しいな。よし、特別にレクチャーしてやろう『冴えないキャストの育て方』だ」



 セイラは顔を上げると目を輝かせ、両手を胸の前で合わせマサムネを見つめた。



「それは私がメインヒロイン。ってこと?」



 マサムネは面食らったが冷静に答えた。


「いや、別にうちはメインヒロインもNo.1も決めてないが……」



「そうね。確かに逆ハーレムとか悪役令嬢アプリゲームで、あなたを引いた瞬間、ポンコツ過ぎてリセマラしたくなる位だから、メインヒロインではないわね」



 セイラの隣に座るリリムは、そう言うと煙草の煙をセイラに吹き掛けた。



「リリムしゃん。煙臭い!悪役令嬢ってより、ただの悪女だよ」



「あなたの方が実年齢は上だからね!」



 そういうとリリムは、先程よりも深く吸い込み、オーバーに煙を吹かしてみせた。



「お前らが恋愛アプリゲームで出てきたら面白そうだな。個性豊かな7人の女の子が、あの手この手で君を誘惑しちゃうぞ『行き遅れたサキュバスのリリム。お姉さんキャラを装うも、結構バカ』『元お嬢様は肉体系イフリータのルナルサ 豪快なサバサバ系装うも 神経質でメンヘラ』『黒ギャル爆乳ケットシーのアイリ 天然を装うも 実は計算してる嫌な奴』『婚約破棄された九尾狐の美雨 都会派装うも 凄い田舎もん』『冷静でクールな雪女の氷芽 お嬢様言葉のくせに貧乏人』『幼女の無邪気な座敷わらしの四季 子供ぶるが、だいぶ歳いってる』『元気に頑張るエルフのセイラ 正統派ヒロイン装うが めちゃくちゃ冴えない』さぁ。君は誰を選ぶ? みたいな。いや~喋るの疲れた。以外と、全員の事をしっかり見てるだろ? 因みに、このナレーションが入ってる時の背景は学園だったり、海だったり、夕焼けの公園になるからな!」




 マサムネが全員攻撃を受けたのは言うまでもない……



「今の時代にあり得ない女性蔑視や差別だらけです。これを録音して、SNSにあげたら凄い反響がありそうですね」



 美雨の言葉にマサムネは素直に頭を下げると、弱々しく呟いた。



「申し訳ない。すみません…… 調子に乗ってました。大事な大切な仕事仲間であり、戦友だ。これからもお願いします」



「もう、頭を上げなさいな。それで、セイラの育て方が気になりますわ」



 氷芽に言われマサムネは頭を上げると、セイラに向き直った。



「前から思ってた事なんだが、ようやく先方の都合が付いたんでな……」



「都合って?」



 セイラはキョトンとマサムネを見ると、マサムネは胸ポケットから名刺を取り出しセイラに手渡した。



「ん? エンジェルキッス……代表がぶ……り…ら?」



「にゃ? エンジェルキッスってカクテルの名前にゃ?」



 セイラが呟くと、すぐにアイリが反応した。



「あぁ。カクテルにもあるが、それは同じ街にある高級ラウンジの店名だ」



「私の事をスカウトした店ね。『エンジェル』とか合わないから辞めといたけど」



 リリムがセイラの見ていた名刺を取り、眺めるとマサムネに返した。



「な! リリム。ほんとか? 確かにお前なら『悪魔のキッス』だからな。ってか、同業の引抜きはご法度にしていたのに」



「スカウトって言っても、ドゥルキスに入店する前の事よ。それより、代表の『ガブリーラ』って、キャストから独立して、王都一のオーナーになった、伝説の女性じゃない」



 マサムネは名刺を胸ポケットに仕舞うと自慢気に喋り出した。



「そうなんだよ。この前、同業による懇談会の時に、うちのアイドルグループの話を向こうからしてきてな、興味がある。言ってたんで、今度来てもらう事にしたんだ。で、ついでに……」



「いたっ」



 マサムネはセイラにでこぴんすると、セイラは右手でおでこをさすった。



「お前のキャストとしての、教育も協力してくれ。って、頼んだんだよ。そしたら、快くオッケーしてくれてな」



「何で、でこぴんすんのよ! それに、教育とか嫌だよ。堅苦しいの苦手だもん。いたっ! う~」



 マサムネはもう一回セイラにでこぴんすると、今度は左手も使い両手でおでこをさすった。



「苦手なものを苦手なままにしてどうすんだよ。お前が一番働く時間も多いんだし、せっかくの機会だ! 明日、ガブリーラさんは来るから、しっかりな。みんなも挨拶とか返事はちゃんとやってくれよ」



 さぁ。明日はガブリーラさん直々に『冴えないキャストの育て方』を実践してくれます。セイラの運命やいかに……

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