第48話 遊園地デート(ただし妹)
ガタンゴトンと揺れる電車の中。ボックスになっている四席で、俺と琴歌が隣同士で操二ソラちゃんペアと向かい合っている。
「そう言えばどこに行くんだ?」
操二達に問いかける。ダブルデートとしか聞いてないからよく知らないんだよな。
「悟クン、デートと言えば?」
「へ?」
「デートで行くところと言えば?」
デートで行くところ……? 誰かと付き合ったことがないからよくわからないけど、琴歌とよく行く場所を答えたら正解になるのかな……?
「本屋?」
「あー、まあ女の子によっては正解だね! 派手じゃない子だったら喜んでくれるよ!」
(まあ今回の正解ではないんだけど。ダブルデートだし)
「琴歌はわかる?」
「わかるというか、琴歌はそもそも知ってるもん」
「うーむ……」
ダブルデートで、言い換えると大人数で楽しめる場所。そう考えると結構絞られてくる気はする。今日は違うけど花火大会とかも割とそう言うのに名前が挙がるよね。
「安直だけど、遊園地とか? 確かこの先の駅にあったよね」
「お、正解! そこそこ、デートスポットの王道で人気なんだよなー」
あそこか。特に観光名所となっているわけではないが、ローカルな人気は根強い古き良き遊園地。規模も割と大きかったはずだ。
「そういや悟クンお金足りる? 大人一人子ども一人で合計五千円くらいだけど」
「大丈夫だよ」
「お、それは良かった。まあオレは年パスあるから払う分もソラちゃんの分だけだし、言ってくれたら全然貸せたけどね?」
「年パスなんて持ってるんだ」
「あそこすげーナンパしやすくてさー。制服で来てる子とかむしろそれ待ち……痛てっ! ソラちゃんごめん! 脇腹抓らないで! もうしてないから!」
「……バカ!」
ムスッとした顔で操二に当たるソラちゃん。
まあ今のは操二が悪いだろうなぁ……。ついポロッと出た感じだったね。多分常習犯だったんだろう。
「おに……悟君」
「どうした?」
「悟君はやってないよね? ナンパ」
「ははっ、やれるような度胸は持ってないよ」
「……そっか! だって悟君だもんね!」
その納得の仕方はどうなんだ、と思いつつも琴歌の顔を見て言葉を引っ込めた。
あんなに嬉しそうな顔をされたらね。
「はい、ではこちらパンフレットになります。こちらから入場してくださいね〜」
到着した遊園地は夏休みだと言うのに人が少ない。閑散と言うほどではないが、活気があるとは言えないぐらいかな。
俺達四人はゲートをくぐり、正面に構える大広場で一旦立ち止まる。俺はさっき貰ったパンフレットを広げた。
「琴歌、ソラちゃん。どこか行きたいところはある?」
「「ジェットコースター!」」
「おお、見事なハモり」
琴歌とソラちゃんは目をキラキラと輝かせて答える。
そう言えば琴歌は絶叫系が好きだったっけ。昔家族で行ったどこかの遊園地でもこんな感じだったなぁ。
「操二もそれで良い?」
「……あー、まあ大丈夫だよ? 全然行ける行ける」
(っべー、初っ端からかぁ。まあ頑張ろ)
ああ、操二はこういうの苦手なのか。確かに今の答えもちょっと歯切れが悪かった。
「操二、もしキツかったら言ってよ」
「あんま心配すんなー悟クン。ソラちゃん達も楽しみにしてることだしね。へーきへーき」
「ん、そっか」
あくまで行くつもりならもう俺には何も言えることは無い。いつでも女の子第一。聞こえは悪いけど、良いことだよね。操二がモテるわけだよ。
──ジェットコースター、一回目。
「ねえねえソラちゃん! さっきの楽しかったねー!」
「そうだね琴歌ちゃん! 次はあれ行こうよ!」
「フリーフォールだよね! あたしも行きたかったの!」
「え゛」
──フリーフォール、一回目。
「次はもう一回ジェットコースター行こうよ! 待ち時間も十分くらいしかないし!」
「あたしも賛成!」
「え゛」
「……操二、大丈夫?」
「お、おうよ」
──ジェットコースター、二回目。
「次もう一回ジェットコースター行かない?」
「良いね!」
──ジェットコースター、三回目。
「今度は──」
「ごめん二人とも、オレちょいやばめ……うぷ」
流石に耐えかねた操二が口を抑えながらギブアップする。そりゃそうだよな、俺だって今ちょっと気持ち悪いし……てかむしろ琴歌とソラちゃんが強すぎるんだよ。
「えー、そう?」
「ごめんねソラちゃん……。これ以上行くと、流石にオレリバースしちゃうかも……」
(これ飯食べれるのかな……)
「大丈夫?」
近くのベンチに座った操二の背中を、ソラちゃんは心配そうな目でさする。少しだけ罪悪感も見えた。
「ば……バッチコイ……。あ、ごめん悟クン、二人は別のとこ行ってて良いよ」
「え、いやでも」
(丁度ソラちゃんとも二人っきりになれるしね)
「……わかった。じゃあ一旦別行動ってことで」
「頼むわ」
手をひらひらと振る操二。俺は琴歌に手を差し出し、繋いでからその場を離れる。
二人になって何か話すつもりなのかな。それとも単に二人になりたかっただけ?
どちらにせよ成り行きで、それも小学生が相手なのにあそこまで真剣になれるものなんだな。
今後のことはどう考えているんだろう。握っている琴歌の手にどうしようもなくブーメランを覚えながら、俺はあてもなく歩き出した。
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