第45話 ちゃらんぽらん軍団って、みなさんのことッスよね?
果てしなく続く砂漠をひたすら歩くことおよそ一時間。
四十五度を超える真昼の大猛暑で、彼らはすっかり疲労困憊していた。
「もうダメ…。これ以上歩けないよ」
陸人はとうとう膝をついて音を上げた。
「俺ももう無理だ…。水筒の水も飲み切ってしまったし、このまま夜になるまで大人しくしていよう」
オーガストも手足を投げ出して砂漠に寝転がる。
「おい、だらしないぞお前ら!」
シメオンが声を張り上げて活を入れる。
「ようやく湖が見えてきたっていうのに、こんなところでへばってどうするんだ!体力振り絞って歩けよ!」
「マトン君、それは蜃気楼だ」
「もしくは幻覚ね。この暑さだもの、仕方ないわ」
「くそっ…!」
シメオンはまた砂を蹴って悪態をついた。
「ん…?」
蹴って抉れた箇所の砂が、どういうわけかわずかに振動している。
「なんだ?サソリか…?」
爪先を立ててさらに地面を抉っていると、急に足下の砂が波打つように動き始めた。
「なんなんだ、コレ…。気持ち悪いな…」
と、その場から移動しようとしたその時――――突如砂の中から両腕が二本飛び出してきた。
「うわぁぁぁっ!!」
謎の両手はシメオンの両足首をがっしりと掴んで離さない。
「おい、誰か助けてくれっ!ゾンビに足を掴まれた!」
が、陸人達は暑さにすっかり参っており、誰もその場から動こうとしない。
「なぁ、マトン君がゾンビに足を掴まれたとか言ってるぞ」
寝そべったまま、オーガストが気だるげに呼び掛ける。
「ゾンビは昼間から出てこないよ。トンビの聞き間違いじゃない?」
「どちらにせよ幻覚よ」
「じゃ、ほっといても大丈夫か」
「大丈夫じゃねーよ!さっさと助けろよ!」
と、シメオンがぶち切れた瞬間、またも地面が隆起し、今度は頭が飛び出してきた。
「ぷはぁっ!ああ、苦しかったぁ…」
シメオンの足に掴まりながらゆっくりと地上に這い出てきたのは、浅黒い肌をした十七、八くらいの若い娘。踊り子のようなサテンの衣服に身を包み、頭には長いベールを被っている。
「どうもみなさん、こんにちはっ!」
彼女は全身の砂を払いのけ、興奮した様子で喋り出した。
「ウチは砂漠の民、サンディ。ジャン・ギッフェルの秘宝を探してるちゃらんぽらん軍団って、みなさんのことッスよね?いやぁ、まさかこんな早く見つかるとは思ってもみなかったッスよ!ウチってホントついてる!」
陸人達はしばらく顔をしかめたまま少女を見つめていた。
「どうしましょう。私もついに幻覚が見えてきたわ」
「僕も今、変な女の子が見えてる」
「何…?あれは幻覚なのか?俺は声まで聞こえるが、これは幻聴か?」
「幻覚でも幻聴でもねーよ。ま、どっちにしろ無視だ、無視!」
「ちょっ…!待ってくださいよぉ!無視って酷くないッスか?!」
サンディがシメオンの服を掴んで引っ張る。
「みなさんのこと、色々噂に聞いて探してたんスよ。盗賊の女の子に騙し討ちを食らわせてお宝を強奪したり、クラリネートの化け物の城を丸ごと吹き飛ばしたり、天馬を脅して交通手段に使ったり、妖精のか弱い女の子をフルボッコにしたり――――」
「ちょ…!誤解を招くような言い方やめてよ!っていうか半分くらい嘘混ざってるし!」
サンディは陸人の言葉を受け流し、話を続ける。
「とにかく、なんか色んな意味で凄いパーティーらしいじゃないッスか?だからウチの家族のことも、助けてくれません?実は数日前からゴブリンに家を乗っ取られちゃって困ってるんスよ」
「は?」
シメオンはあからさまにに迷惑そうな表情を浮かべた。
「知るか、そんなこと。ただでさえクソ暑くて参ってるってのに、人助けしてる余裕なんて微塵もねーよ!」
「そうそう。また罠かもしれないしね」
陸人も同調して頷いた。
「そう言うと思ったッスよ」
サンディはふっと笑みを溢すと、おもむろに胸元から古びた小瓶を取り出して陸人達に突き付けた。
「んじゃ、お礼としてこれを差し出すと言ったらどうッスか?」
「え…?!」
小瓶の中にあるエメラルドグリーンの石を見て、陸人達はハッと息を呑んだ。
「おい、これは本物のデルタストーンかっ?!」
シメオンがさっそく食いつく。
「本物だと思うよ。巻物が光ってる。君、これをどこで見つけたの?」
「見つけたんじゃなくて、元々
「ふーん…。確かにこの瓶は年代物っぽい感じするね」
陸人が小瓶に手を伸ばそうとすると、サンディは即座に一歩下がって小瓶を遠ざけた。
「で、どうするんスか?」
得意げにニヤニヤ笑いながら、サンディが返事を促す。
「そんなの決まってんだろ」
陸人達は顔を見合わせて頷いた。
「よかったッス!んじゃさっそく移動しますか!」
サンディは歓喜の声を上げると、その場にしゃがみこんで砂の中から大きな円盤を掘り出した。
「もしかしてそれ、好きな場所にワープできる超便利で超高額な回転盤ってやつ?」
「転送盤だろ」
「準備できたので足乗せてってください」
サンディの指示を受け、陸人達は順番に足を乗せていった。
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