第17話 ふはははは…
「で…これからどうするんだ?」
切り出したのはシメオンだった。
「うん…」
陸人は視線をオーガストに向けながら、
「デルタストーンは取られちゃったし、ここにもう用事はないよね」
軽く咳払いし、オーガストがぎこちなく口を開く。
「わ…悪く思うなよ、陸人。俺だって好きであの石を渡したわけじゃないんだ」
「わかってるよ。油断してたらリザに石にされたんだろ」
「いやぁ、まさか本物のメドゥーサの杖だったとはな…。てっきりコスプレの小道具かと思ったんだよ」
「いいよ、もう。過ぎたことは今更どうにもならないよ」
「諦めるのか…?」
「そうしたいけど、諦めるわけにはいかないよ。どうしても叶えたい願いがあるから…」
「それを言うなら俺だって同じだ!」
シメオンが角で陸人の背中を小突く。
「痛っ!何するんだよ!」
「いつまでもしょげ返っていても仕方ないだろう。なんとかしてあの小娘から石を取り返すぞ!」
「うむ、その意気だ。応援してるぞ」
オーガストは他人事のように感心している。
「取り返すって言ったって、彼女達がどこへ行ったのか見当もつかな――――」
言いかけて、陸人はハッとした。
リザはニセの巻物を持っているのだ。その巻物にはニセの宝の在処が記されているのだ。
――――なぁ、ジャン・ダッシュ!
陸人は巻物を広げ、ジャンの残魂に呼びかけた。
――――リザに渡したニセの地図を、ちょっとここに表示してみてくれないか?
『お安い御用』
頭の中で声が響き、ほどなくして紙上に地図が浮き出てきた。
「おい、何してるんだ?」
シメオンとオーガストが陸人の両側から地図を覗き込む。
「ん?」
先に気付いたのはオーガストだった。
「これはあの宝の地図とはちょっと違うな」
「は?何言ってるんだ、おっさん」
シメオンが顔をしかめながら言う。
「赤いバツ印も青いバツ印もちゃんとメラースの森とアコルダン半島についているだろう」
「他の三つの印はどうだ?」
シメオンは思わず口ごもった。
「四六時中地図見てるわけじゃないんだ。全部の場所を記憶してるわけないだろ」
「俺は全て記憶している」
オーガストは得意げににんまりと笑い、
「他の三つの場所は位置がまったく違う。黄色のバツはもっと北側にあったし、緑のバツはこんな海のド真ん中にはなかった」
「うん、そうなんだ」
陸人は彼の言葉に同調し、さらに話を続けた。
「これはリザに渡したニセの地図なんだ。偽物だと気付いていなければ、彼女達はこの地図を頼りに次のお宝を目指して進むと思う」
「なるほど。ここから一番近いのは、黄色のバツ印――――オルガノ草原だな」
「うん。だけど、今から出発しても追いつけるかどうか…」
「ふははは…」
突然オーガストが笑い出した。
「おじさん…?大丈夫?」
「気でも狂ったか?」
「いや、至って正常だ」
オーガストはピタリと笑うのをやめ、おもむろに腰から指揮棒のようなステッキを引き抜いた。そのまま棒の先を床に付け、片足を軸にして円のようなものを描き始める。
「お…おじさん、何やってんの?」
「まぁ、見てろ」
円が完成すると共に、オーガストは目を閉じて何やらぶつぶつと呪文を唱え始めた。
描かれた円の線が徐々に輝きを増し始める。
「よし、魔法陣の準備ができたぞ」
オーガストが振り返り、陸人達に円の中へ入るよう呼び掛ける。
「あのおっさん、只者じゃないみたいだな…。あれはたぶん、転移魔法だぞ」
「テンイマホウ?」
「ああ。一瞬にして目的地まで行けるという、かなり高度な魔法だ」
「すごい!じゃあなんとか間に合いそうだね」
「おーい!二人共早くしないか!オルガノ草原に行くんだろう?」
全員が魔法陣の中に入ったのを確認し、オーガストが最後の呪文を唱える。
「“転移せよ!ドロン!”」
眩しい光が放たれると共に、徐々に視界が揺らぎ始める。
祖父の家からこの異世界へ飛ばされた時と、似たような感覚だ。
やがて陸人の目の前は真っ白になり、何も見えなくなってしまった。
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