予想外
アムの英雄願望は作られた奇跡によるモノだった。だけど、奇跡の法具である俺とリンカーは天使シルンに利用されるために生みだされたのではなく、アムとアムを思う人々の願いによって生まれたのだった。
「ですが、予想外の事態が起こりました」
たくさんの人が不幸になったこの物語の一端を、不謹慎ながら嬉しく思ってしまった俺。その意識を天使シルンの言葉が引き戻した。
「母体となっているグラチェに邪念による影響が出始め、アムサリアの半身の抑制が効きづらくなってきたのです。さらにエイザーグとなったアムサリアも半身に対しての
「わたしが単独でエイザーグに挑んだときだな」
アムにとって痛恨の出来事であろう無謀な闘いの記憶を思い出し、渋い表情を作ると、リンカーはその感情を察してか、
「おれの見せ場だったな。そして、最後の最後で復活を遂げ、英雄の刃となって邪悪を討つ。最高の気分だぜ」
と語った。
「その剣の強い想いを受けたワタシは、その存在を
「なるほどな、聖都の使者から教わった禁断の法術の源となった無尽蔵の陰力は、エイザーグと同じく
「陰力を自らの魂で浄化し輝力に転化することで、莫大な輝力を得る。支えるべき英雄を
「ばかな、そんなことをすればアムの魂の消失の可能性だってあるはずだ!」
俺は苦しみながら莫大な輝力を溢れさせてエイザーグを圧倒するアムの姿を思い出し、同時に猛烈な怒りも込み上げてきた。
「それが
「そうですね。あのときそなたが命を
アムの魂を防塵フィルターや中和剤みたいに扱う天使シルンの言葉に、俺は怒りで爆発寸前だった。
「てめぇ……」
だがアムは左手で俺の手を握って穏やかな目で俺を
「リンカーとラディア、アムとエイザーグの散り際の強い想いは良く覚えています。ラディア、そなたはアムサリアをその手で護りたい、アムサリアと離れたくないと願いました。それによって彼女の心と結びついたのです。そして、ラディアの心は近くにあった新たな命と結びつき、人間として生まれ変わりました」
近くにあった新たな命。それがお父さんとお母さんの子ども……。そうやって俺は人となり生まれて来たのか。アムの心を連れて。
「そして、アムサリアの命を救いたいというリンカーの願いによって、魂が消えゆく寸前にリンカーのそばへと引き込みました。それだけの願いを叶える代償は、『最愛の人と共にいながら会えない』ことです」
「おれは、邪念の浄化で苦しむアムの魂を、二十年間ただ眺めることしかできなかった」
「なんて意地の悪い代償を払わせやがるんだ」
毒づく俺の感情を軽く払うように天使シルンは言葉を返した。
「その代償はワタシか決めるのではありません。願いに見合う大きな力が必要なのです。どちらもそれほどの代償を払わなければアムサリアの存在はこの世から消えていました」
そう言われて微妙にシルンを責められなくなってしまう。感情のぶつけどころを失った俺は、もやもやした状態でなにかを言おうと思いながらも口を開けたり閉じたりしていた。
そんな俺を気にもとめず、天使シルンは話を続けた。
「エイザーグが消えてからは参拝の回数が減ったことでなんとか邪念の浄化が保たれていました。しかし二十年の月日が経ち、アムサリアの魂による浄化作用が限界に達した頃です。クレイバーがクリア・ハートを使ってリンカーと接続したことで外界との道が開きました。ラグナの中でアムサリアの眠っていた心が目覚めたのはそのためでしょう。それを切っかけに今こうしてそなたたちはここに集い、
「そういうことだったのか。これですべての疑問が解消されたよ。理由はともかく、お陰様でわたしは英雄気分を味わい、クレイバーやタウザンやクラン、ラディアとリンカーなど多くの者たちと出会えた。そのうえ、この現世に復活できたとなれば、これは感謝すべきことだ」
感謝とは似つかわしくない重苦しい声で言葉を返したアムから、
「……多くの人々の命が失われたこと以外はな」
陰力は徐々に強くなり隣にいる俺やクレイバーさんもあとずさるほどに高まっていく。その手に握ったリンカーをゆっくりと持ち上げ、両手で上段に構えたときには、高まった陰力は暗黒力の域へと達していた。
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