第198話 既得権益を守る為の規則らしい。
「ありがとう、こんな話、最後まで聞いてくれて」
「どういたしまして、僕も参考になりましたから」
「それほど好きじゃない」と前置きしたにもかかわらず、別れるのは辛いようで、彼が高校で素敵なカノジョを見付けてくれる事を、心から祈っているようだった。
別れるくらいなら、付き合わなければいいのに――カノジョが出来る前の僕だったら、きっとこんな風に考えただろう。でも、今の僕には、そうは思えない。
別れた後も、お互い親友でいられるように――ネネコさんが、あらかじめ交際期限を決めておいてくれた本当の理由が、今になってようやく分かった気がする。
ネネコさんは、やっぱりすごい人だな。
上佐先輩の話を聞いて、僕は改めてそう思った。
「それじゃ、またハヤリと交代するね。――ハヤリー!」
「はーい!」
上佐先輩は、呼び出した
杉田さんがハサミを持つと、浴室の雰囲気が一気に明るくなった。
「今日もハヤリが、カッコ良く仕上げて見せますからねー!」
「よろしくお願いします。期待してます」
シャキ、シャキ、シャキ、シャキ……。
杉田さんは、自分の左手を
年下の女の子に頭を
「ところで、先輩にお聞ききしたいことがあったんですけど、いいですか?」
「もちろん、いいですよ」
「ネネコちゃんとの交際期間が、たったの2か月って、どういう事ですか?」
これは、
その「一般人女性」がネネコさんであることは、報道される前から全校生徒に知れ渡っている。
「ネネコさんと僕が正式に付き合う事になったのは、僕の誕生日からですから」
本当は、途中で1度別れてリボンさんと付き合っているので、2回目に付き合い始めてからは1か月ほどしか経過していないのだが、このあたりの事情は杉田さんも良く知っているはずだ。 (第178話参照)
「それだと、ダビデ先輩ファンクラブの結成よりも後じゃないですかー」
僕がダビデファンクラブの存在を知ったのは、10月の初めだった気がする。
僕の誕生日は10月11日なので、それより前である事は間違いないだろう。
「そうですね。でも、結成より後だと何か問題があるんですか?」
ファンクラブの存在を知った直後に、ネネコさんとの交際を始めた事は、ファンへの裏切り行為なのかもしれない。
しかし、杉田さんの話を聞いた限りでは、既にネネコさんと僕が交際中である事を承知の上で作られたファンクラブらしいので、特に問題は無いはずだ。
「『抜け駆け禁止』なんてルール、作るんじゃなかったなーって思ったんですよ」
「僕は、そのお陰で助かっていますけどね。応援してくれるのは嬉しいですけど、18人のファンを相手に個別対応というのは、僕には無理ですから」
「でも、そんなルールが無ければ、もしかしたら、ハヤリでも先輩とお付き合い出来た可能性もあったのかなー、なんて、思ったりしちゃうじゃないですかー」
「あははは、杉田さんにそんな事を告白されるとは意外でしたけど、ダビデファンクラブは、どうして『抜け駆け禁止』なんですか?」
杉田さんは「お互いが初めて」というのを理想とするタイプで、「浮気する人は最低」らしいので、今の僕は恋愛対象にはなり得ないはずだ。(第64話参照)
「だって、クルミとハヤリは、こうしてダビデ先輩と普通におしゃべり出来るじゃないですかー。抜け駆け禁止にしておけば『既得権益』は守れますよね?」
「僕は、経済力のあるオトコじゃないですから『益』は出ないと思いますよ」
一応、健康なオトコなので『液』なら出せますけど。
「えー! クルミには正露丸をあげてるじゃないですかー」
「なるほど、あれが『既得権益』ですか」
正露丸は部屋の常備薬で、僕の私物ではないし、
「ハヤリにもご褒美くださいよー」
「いいですよ。何がいいですか?」
「どんなご褒美があるんですか?」
「高価なものでなければ、何でもいいですよ」
杉田さんには、いつも髪を切ってもらっているので、僕も何かお返しをしてあげたいところだ。杉田さんは、どんなものを欲しがっているのだろう。
「それじゃあ、ハヤリの事、名前で呼んでみて下さい」
「そんな簡単な事でいいんですか? ――ハヤリさん、いつもありがとう」
女の子の名前を簡単に呼ぶことが出来るなんて、僕もオトナになったものだ。
これも、ネネコさんやポロリちゃん、ヨシノさんやリーネさんのお陰だ。
「キャー! ダビデ先輩に名前で呼んでもらえるなんて、ハヤリ感激です!」
この反応は、管理部の後輩達を初めて名前で呼んだ時以上かもしれない。
僕は、その時にアイシュさんから「
杉田さん改めハヤリさんに髪の長さを整えてもらった後、いつも通り上佐先輩に髪を洗ってもらった。
ハヤリさんとの会話は全て上佐先輩へ筒抜けなので、上佐先輩の事も今日からは「ハナ先輩」と呼ぶ事になり、それに加えて誘導尋問で、ネネコさんと1日に6回「仲良し」した事まで白状させられてしまった。ハナ先輩、恐るべし。
「ねえ、チカ! チカのカレシって、続けて何回くらい『仲良し』できる?」
「えー? おねだりしても、せいぜい2回ってとこかな。ハナのカレシは?」
「私のイトコも、いつも1回で終わり。しかも、すぐに終わっちゃうし」
「普通は1回だよね。何でそんな事聞くの?」
「だって、ダビデ君がカノジョちゃんと1日で6回も……」
「わー、ハナ先輩、やめて下さい! それは、ここだけの話ですから!」
僕はハナ先輩の口を押さえようとしたが、すり抜けられてしまった。
「ダビデ君、続けて6回もできるの? じゃあ、今から証拠を見せてもらおうよ」
「もう、それしかないよね。私とチカで3回ずつね。ゴムは、ちゃんと付けてね」
「ダビデ君が責任取ってくれるなら私は
「あわわっ、もしかして、お姉ちゃん達は、センパイのエクスカリバーを自分たちのサヤに収めようとしているのでは?」
「それは、大変! 早くネネコちゃんに知らせてあげないと!」
「ハヤリさん、それもやめて下さい! 皆さん落ち着きましょう!」
「はっはっはっ、もちろん冗談だって。カノジョちゃんがちょっと
「何言ってんのハナ? 私は割と本気だったんだけど……」
「たとえ相手がお姉ちゃん達であっても、ダビデ先輩ファンクラブの会長として、私がハヤリと共に断固阻止しますから!」
「うっ……ハヤリは、どちらかというと、お姉ちゃん達から1回ずつ分けてもらったほうがいいような気も……ごめんなさいっ! ハヤリは悪い子でしたぁ!」
204号室のお嬢様方は、どうやら、いろいろと
その後は、お菓子を食べながら、5人で楽しくおしゃべりをした。
尾中さん改めクルミさんは、まだカレシを作りたいとは思っていないらしく、そんな事よりも明日の「検便提出」に備えて、お腹の調子に気を遣う事のほうがよほど重要なのだそうだ。
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