アイヴィーへと捧げる歌
酒呑ひる猫
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それは、長い長い冬がようやく終わりを告げて、うららかな春が顔を見せようとしていた、まだ雪解けの残る時期のことでした。
いつものように朝早くに起きて、メイド服に身を包み、庭先にあるポストへと郵便物の確認に向かったとき、すこやかな朝を告げる小鳥たちの鳴き声に混ざって、赤ん坊が泣き叫ぶ声が聞こえました。
不思議に思いながらその声のほうへと向かうと、なんと、庭先のポストの下に、生後間もない赤ん坊が木製の小さなバケットに入れて置かれていたのです。
「ど、どうしましょう? こんなところに赤ん坊がいるだなんて……。誰かが置き忘れてしまったのでしょうか」
戸惑いながらも、わたしはその泣き叫ぶ赤ん坊をバケットごと拾い上げて、とりあえず身体を温めなくては、とお屋敷へと引き返しました。
整備だけはしていたものの数十年間ろくに使用していなかったストーブに点火し、赤ん坊を温めながら、バケットを探っていると、毛布などと一緒に、一枚の紙が出てきました。そこには、諸事情により赤ん坊を育てられなくなったため、どうか代わりに育ててほしい、というお願い事が書かれていました。
なんともまあ、身勝手なお願いです。
わたしは、腕のなかですやすやと眠る赤ん坊を見つめました。とても可愛らしい表情で目を瞑っています。楽しい夢でも見ているのでしょうか?
わたしはその子の、柔らかなほっぺを撫でました。
翌日のことです。
長年メイドを勤めながらも、情けないことに赤ん坊のお世話に自信がなかったわたしは、お屋敷近くの村に暮らすリンダさんをお呼びして、育児についてお聞きしました。リンダさんは二〇代前半の女性ですが、村人の出産や子育てのお手伝いが豊富なようで、その説明はとても参考になりました。
「この子が生後何か月かはわからないけど、まだ一歳は経過していないようだね。それなら授乳で育てるしかないよ」
「そう言われましても、今の時代、粉ミルクは手に入りませんし。どうしましょう?」
「とりあえず、村で乳が出る子を大急ぎで紹介してあげるよ。その子を乳母として採用するかどうかはアンタに任せる」
育児に自信のないわたしの代わりに、どなたか赤ん坊を引き取って育てられる人はいないかと尋ねたのですが、それに対してリンダさんは首を横に振りました。
「こんな時代だからね。誰もそんな余裕ないよ。多少の手伝いならできるけど、引き取るのは無理だ」
「そう……ですよね」
そこで、わたしは決意しました。
これも何かの縁です。幸いなことに、と言ってはならないのですが、当お屋敷の旦那様は出張されていて、おそらく、しばらくは帰ってきません。わたし以外の使用人もいませんし、ここはわたしの独断で決めさせていただきましょう。
この可愛らしい赤ん坊が独り立ちするまで……もしくは、この子のご両親がこの子を引き取りにくるまで、当お屋敷のメイドであるわたし、アイヴィーが責任をもってこの子を育てると!
……追記になるのですが、この赤ん坊と一緒にバケットに入れられていた手紙には、この子の名前も記されていました。ただ残念ながら、どうやら外国語のようで読むことができませんでした。
また今度、村の本売りにでも尋ねて、この子の名前を調べることにします。
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