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「ロム、レーミュは眠ったわよ。」

軽い布の服とスカートを着たレイナが教会の談話室にやって来た。

そこに、シスターローブからナイトローブに着替えたロムが待っていた。

「ありがとう、レイナ。大変だったでしょう。」

「大丈夫よ、私もあの子にエネルギーをもらった感じがするわ。」

「子供って、不思議ですね。」

「エネルギーの塊のようなものだからね。」

レイナはそう言ってほほ笑む。

「さて、ここからは大人の時間ね。明日の話だけど。」

「レイナ、改めて確認します。あの依頼文に書かれた事は本当ですか?」

ロムが真剣な表情でレイナに尋ねる。

「私の予想が正しければ、今回の野盗騒ぎは、どこかの国が裏で糸を引いてる。」

「どこかの国、ですか。」

「多分ここだろうって目星は付いてるけど、確信は持てないからね。」

レイナは、右手を軽く上げてどうしようもないと言う事をアピールする。

「証拠を集めたとしても、国が相手だと、責任を問うには難しいですね。」

ロムもまた、腕を組んで首をひねる。

「それに、これが何の為の行為なのかも分からない。黒きモノを制御したなんて事も信じられないし。」

「こうなると、本当に野盗を捕まえて、話を聞くしかないのですね。」

「だから、私の中で一番そう言う事に強いあなたにお願いしたわけよ。」

ロムに向けて満面の笑顔を見せるレイナ。

「分かりました。」

レイナの説明に、ロムは納得した表情で頷いた。

「明日は、ちょっとした冒険になるわよ。」

「歩きで森まで行くのですか?結構な距離がありますよ?」

ロムの言う通り、街から森までは歩きで2時間はかかる。

「森の近くまでは、飛んでいきましょう。」

レイナの提案に、ロムがほほ笑む。

「相変わらず、レイナは強引に行きますね。」

「力は使えるときに使わないとね。」

そう言って、レイナは人差し指を立ててくるりと円を描く。描いた場所には、ほのかな光が残っていた。

「後は、どうやって盗賊の目に留まるかなんだけど。」

「大きな荷物を抱えた女性二人・・・ですよね。」

今日購入した革のバックパックと、それに詰めた枕を見て、レイナが問いかける。

「もし、ロムが野盗だったら、襲う?」

ロムは首を横に振る。

「私一人だったら、絶対に襲いませんね。仲間がいたとしても、警戒します。」

「そうよねぇ・・・。」

レイナは、テーブルに肘を付き、力なく答える。

「相手も、単独行動はしてないと思いますし、森の中に入ってしばらくすれば寄っては来ると思いますよ。」

「そうだといいんだけど、こればかりは相手頼みよね。」

「後は、森に入る理由がありそうなら、襲われやすいかもしれませんね。」

「理由?」

ロムの言葉に食いついたレイナは、その意味を聞き返す。

「ええ、山菜取りとか、材木集めとか。いかにも周囲から離れましたって言う雰囲気を出せば襲ってくれるかもしれません。」

それを聞いたレイナは、少し考えて答える。

「じゃあ、ロムがか弱いシスターで、私がか弱い魔法使い。魔法の材料採取に来ましたって感じを装いましょうか。」

「レイナが、か弱い・・・ねぇ。」

ロムは、普段のレイナを思い浮かべる。しかし、か弱い姿は全く想像できない。

「うん。無理ですね。」

「だよねぇ・・・。」

そう言って、レイナはテーブルに突っ伏した。

「もうあれね、魔法の材料採取に来たって体だけでいいかな。」

レイナがそう言って投げやりになっているところで、ロムが不意に手をたたく。

「あぁ、そうです。絶対に襲われる条件をすっかり忘れてました。」

「襲われる条件?」

「ええ、ありました。これ以上ないっていう条件が。」

「何?」

けだるそうに尋ねるレイナ。それに嬉しそうに答えるロム。

「お金ですよ。」

「それなら、ダミーの荷物で何とかならないかな?」

「いや、見えない大きなものより、見える小さな宝物ですよ。」

「そんな物かしらね。」

レイナは自分の持ち物で一番高価なものを考える。しかし、一番高い物はいつも着ているローブだ。

「私の持ってる高級品って、ローブしかないわよ。」

「あのローブですか・・・見た目には、店売りでお買い得品になってそうな・・・。」

ロムはレイナのローブを思い出すが、どう頑張ってもおしゃれとは言い難い、黒いローブだ。

「まあ、その通り、ローブ自体はお買い得品なんだけどね。」

不敵に笑うレイナに、ロムもつられて笑う。

「レイナが着ているから、高級なんですか?」

「もしそうなら、私自身が金の生る木ね。」

苦笑いしながらレイナが否定した。

「えっと、それではなぜ?」

ロムがレイナに尋ねる。

「あのローブにはね、色々な効果が付与されてるのよ。」

「なるほど。付与は高いですからね。」

「全くよ。汚れが付かないとか、洗濯要らずとか、ローブの自己修復とか付けてると費用だけが嵩むのよね。」

かかっている付与を説明して、苦笑いするレイナ。

「冒険に必要と言うよりも、ずっとそれを着ていたいって言う確固たる決意を感じる付与ですね。」

「数日野宿もあるからね。私にとって、これ以上ないってくらい優秀なローブよ。」

「でも、見た目があれでは、間違っても高級品とは思われませんね。」

そう言って、ロムが笑う。

「そういう訳だから、ワンポイントの目立つ高級品、準備お願いできる?」

「仕方ありませんね。ちょっと待ってください。」

ロムが席を立ち、自分の部屋に戻る。そして数分後、小さな箱を抱えて戻って来た。

「これなんてどうですか?」

ロムが箱の中から一つのアクセサリを取り出し、レイナに手渡す。

「あら、綺麗。」

それは、シルバーの鎖と胸元に親指大の宝石が三つ嵌った金のメダルをあしらったネックレスだった。

「これは?」

「この街でもらった、私の勲章の一つです。」

「勲章なんて、借りてもいいの?」

「大丈夫です。これは副賞の方ですから。本物はこれですよ。」

同じ箱に入っていたワッペンを見せる。そのワッペンには、五つの星と二つの交差した剣があしらわれている。

「何の称号なの?」

「防衛勲章ですね。この街の自警団を組織したときに頂いたものです。」

「やっぱり、ロム様は偉い人なのね。」

「いえいえ、黒衣の英雄様ほどではないですわ。」

二人は顔を見合わせて苦笑する。

「やめましょう。互いにそんな柄じゃないわね。」

「そうですね。」

今度は、笑顔になる二人。

「それじゃあ、これを借りてもいいのね。」

「ええ、もちろんですよ。」

ロムから受け取ったネックレスを首にかける。黒いローブを着ていれば、このメダルは目を引く。

「これは目立ちそうね。これで、美味しい餌が出来上がりと言う事かしら。」

「食いついてくれるといいですね。」

「そうね。後はやってみるしかないわね。」

レイナの言葉に、ロムが頷く。

「さて、明日も早いですし。そろそろ休みましょうか。」

「そうね。」

ロムの提案に乗るレイナ。

「寝室は、いつもの部屋に準備してます。」

「ありがと。もし寝坊したら、起こしてくれると嬉しいな。」

「分かりました。レイナ、おやすみなさい。」

ロムは笑顔でレイナを見送る。

「レイナ、明日は頑張りましょうね。」

そう呟いて、ロムは談話室の明かりを消し、自分の部屋に戻った。

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