パパとバレンタイン④
夕方になって、私はやっと城に帰った。
アドっさんはまだ城にいないらしい。
ということは、ドリアードさんと上手くやっているんだろう。
ニヤニヤしながら一旦調理室へ向かってから玉座の間に行くと、そこはすっかりお菓子だらけになっていた。
「くそ、街の女どもめ! こんな神聖な場所に甘ったるい菓子などを!!! おい、今すぐこれらを片してくれ! 最悪お前らが食べて構わん!」
「なんだと!? その言葉がどれほどオラ達を侮辱しているのか分かってんべかぁっ!!!」
「うわああああ!? な、なんだ!? 何故怒っている!?」
そう言って、ゴブリンさん達から逃げ惑うアムを無視して、私はパパのいる玉座に走った。
「パパ、すっかりお菓子に囲まれてるわね」
「エレナ。帰ったのか」
パパは私を抱き上げる。
「ふむ。誰かに好かれているというのはなかなかに照れくさいものだな」
「でもちょっと妬いちゃったよ。パパのカッコよさは私だけ知っていればいいのになーって。なんちゃって」
「…………」
「ま、魔王様!! ゴブリン達の反乱です!! 今まで反乱など起きなかったテネブリスの歴史がー!! あ、ちょっと待て! それは冗談では済まされないぞ!! アス! アスー! え? いない? 女共とどこかに行った? あいつ……っ!!」
ゴブリン達と騒いでいるアムとは対照的に静かになるパパ。
私が不思議に思っていると、パパが胸を押さえた。
「パパ? 胸が痛いの? 大丈夫?」
「あぁ。きゅーんと鳴っただけだ」
「胸が!? パパの胸ってきゅーんって鳴るの!?」
「エレナを見ると大体きゅーんと鳴るぞ」
「へ、へぇ……魔人って変な身体の仕組みしてるんだね」
ってそんな会話してる場合じゃない。
私は両手に抱えていたホールケーキをパパに渡す。
「パパ、はいこれ。城の皆にもあとでケーキ配るんだけど、それはニクシーさん達と一緒に作ったもので……これは一から自分で作った人参ケーキ。バレンタインは好きな人に想いを伝える日だからね。世界で一番好きだよ、パパ。いつも愛してくれてありがとう」
「! 戴こう」
パパはホールケーキの欠片を指で摘まみ、それを口に含んだ。
ケーキを作るのを協力してくれたニクシーさんからは「レイの糞の匂いがする。あと食べ物の色ではない」と酷評だったけど……。
「今日は、たくさんの菓子をもらったが……」
「っ!」
「──やはりお前のは格別だなエレナ。愛情が流れ込んでくるぞ」
「……パパ」
パパはそれから黙々とケーキを食べていく。
アムがゴブリンさん達に全身を拘束されてつつかれている中、私はそんなパパの逞しい身体に寄りかかって夢心地だった。
***
その日の夜、私は自分の部屋のベッドの中で、なかなか寝れずにいた。
ドリアードさんとアドっさん、どうなったのかな。あの様子じゃ絶対両想いなんだろうけど。明日ドリアードさんに問い詰める必要があるな。
それにしても眠れない。
この際、もう諦めて本でも読んでみる?
私がそう考え始めた時──物音がした。
一瞬パパかと思ったが、物音はバルコニーへと続く扉からだ。
トントン、とノックされている。
「えっ? なんで……」
私は恐る恐る扉に近寄る。
するとそこには──。
「ノーム!?」
いや、なんで!?
私は慌てて扉を開ける。
「エレナ! よかった起きていたか」
「ノーム!? こんな遅くによく来れたね!?」
「バレンタインはもう終わったか?」
「え? 何言って……」
「ん」
ノームが照れくさそうに私の手を握った。
そして私の手には──綺麗なガラスの容器が乗せられる。
透明な容器に入ってるのは、茶色のビー玉ほどの大きさのなにかが数粒。
「これは?」
「とりあえず食してみよ」
「食べれるの? えっと、いただきます……?」
私はビー玉をそっと口に含む。
すると口内いっぱいに懐かしい甘みが広がった。
これは、ビー玉じゃない。
嘘、そんなはずない。
これって、まさか──。
「──チョコ?」
「うむ。お前がチョコの話をした時、カカオとかいう豆からできていると教えてくれただろう。名称はともかく豆からできる甘味な菓子を召使に調べさせ、やっとその豆を探し出してな。しかしその豆の採取の途中でキメラに出くわしてここまで遅くなってしまった」
「えぇ……だ、大丈夫なの? よく見たら腕とか……怪我してる」
「なに、大したことはない」
ノームは怪我をしている腕を摩りながら、「それで」とそっぽを向く。
「チョコとやらは、気に入ったか?」
「! ……ちょっと待ってね」
私はチョコをもう一粒摘まんで、口に放り込んだ。
ちょっと苦いけど、間違いなくチョコの甘さが舌に滲む。
まさかこの世界でもチョコを、食べれるなんて……。
……嬉しすぎて、泣きそうだ。
「き、気に入ったどころじゃないよ! 本当に……本当に、ありがとう!!」
そう言って、受け取った容器を抱きしめた。
するとノームは「そうかそうか!」と分かりやすく喜ぶ。
「でもチョコ、貴重なものだったんだよね? なんだか勿体なくて食べれないな」
「ば、バレンタインでなくとも、チョコはまた余がお前に贈るから安心して食べていいぞ」
「! ……ノームは、本当に優しいね。大好き、ありがとう!」
「~~~~~っ!」
しかしここで私は「あ、」と声を上げた。
ノームの分のケーキ、全部ゴブリンさん達にあげちゃった!!
だって今日会えると思ってなかったし……。
それを伝えるとノームはショックを受けたような表情になった。
「ご、ごめんノーム! お礼は後日するから!」
「いや、よい。お前にはテネブリスについて色々教わっているしな。その礼だ。ま、まぁ……お前がどうしてもというなら、お前の手作りの菓子を食べてやらんこともない」
「ふふふ。じゃあどうしても食べてほしいから今度頑張ってみるね」
「……お前、やけに平然としているな」
「?」
「バレンタインは、異性に想いを伝えるための日だと言ったのはお前だろう」
「うん?」
「うんってお前な……だ、だからその、余は……これからもずっと、お前には隣にいてほしいと、思っている、のだが……」
「そんなの、当たり前じゃない!」
私はノームの手を握る。
「んな!? あ、当たり前……!?」
「テネブリスとシュトラールの国交の為には、ノームと私が仲良くなるのは必至だもんね!! 魔族と人間の諍いを失くしていけるようにこれからも一緒に頑張っていこうノーム! 私達、
「…………???」
まさかこの世界で
懐かしすぎて泣きそう!
するとノームが突然レガンを抱きしめて落ち込みはじめる。
──え? 私なんかおかしなこと言ったっけ?
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