第32話 納車
3日後。
今日は先日購入した「軽トラ」の納車の日だ。
午前中はいつも通りにピルバグを狩りをして一汗流し、午後になってから出かける。
ススイカを使い改札部屋から駅へ出る。
隣の改札に移動してからチャージいらずの魔改造ススイカでタッチして、そのまま駅のホームへと向かう。中古車屋さんは隣駅だ。
電車を一区間だけ乗ってすぐに下車。
幹線道路沿いを歩き、中古車屋に到着したら目に付いた女の店員さんに声をかける。
「先日軽トラの契約をした森田ですが、車ってもう乗って行けますか?」
「森田様ですね。少々お待ち下さい。」
女の店員さんは、軽くお辞儀をして奥へと消えていき、すぐにスーツを着た敬太の契約をしてくれた店員さんが出てきた。
「森田様、お待たせしました。お車のご用意出来ておりますのでこちらへどうぞ。」
挨拶もそこそこに、すぐに案内してくれた。
店員さんの後ろに付いていき店の外に出ると、軽トラが敬太の前に移動してきた。
そして、中からつなぎを着たオッサンが降りてきて、整備した場所を説明し始める。ブレーキパッドを交換しましただの、エンジンオイルを交換しましただの。
敬太は「そうですか~」と仕事しましたアピールをぼんやり聞いている。
その後、スーツを着た店員さんに「車検の時にはまた当店に」と軽くセールストークをされてから、鍵を渡されようやく解放され軽トラに乗り込むことが出来た。
マニュアル車は久々だったので、恐る恐る運転し始めたが、道路に出てしばらく走っていると体が思い出し、すぐに慣れてきた。
走りながら車の具合を確かめ、4WDに切り替えて走り心地を確認したりしていると、あっという間に敬太の家に着いた。
昔は父親の車が置いてあったんだけど、お金が無くて数年前に売り飛ばし、それからは何も置いてなかった家の駐車場にバックで駐車して止める。
車の鍵を閉めると、家には入らずそのまま駅へと向かう。
新しい鍵を弄びながら、キーホルダーでも付けようかなんて考えているとすぐ駅に着き、ススイカを使って改札部屋へと戻ってきた。
さあ、ここからだ。敬太名義の車を手に入れた。これでどう変わるのか?
早速駐車場へ移動する。
改札部屋から扉に近い所にある壁のドアを開けて駐車場に入り、引き戸近くの壁にあるパネルを見る。すると、パネルには「車両登録」の項目だけがあって、押してやると「ピン」と反応し「ズズキ ギャリー」と軽トラの名前が出てきた。
よしよし思った通りだ。やはり敬太が所有している車両が登録出来るようだ。
問題なのはこの先どうなるのかだな。
続けてパネルの「ズズキ ギャリー」を押す。
「ピン」
電子音が鳴ると、後ろに気配がした。
敬太がパッと振り返ると、そこには家の駐車場に止めてきた「軽トラ」が現れていた。パネルに目をやると「車両登録」の他に「車両呼び出し」「車両戻し」の項目が増えていた。どうやら車両を自由自在に呼び出したり、戻したり出来るらしい。敬太が想像していた中で一番いい結果だ。
向こうの車を持ってくる事が出来て、整備なんかは向こうで出来る。夢が広がる。
この日、改札部屋の駐車場に車両を呼び出す事が出来たので、更に100万円をススイカから引き出して中古のバイク屋さんに駆け込み、手頃なモトクロスバイクを契約した。
それから数日後にモトクロスバイクが納車され、やっとダンジョンの外の探索を進める準備が整った。
前回の探索から10日ぐらい経ってしまったが、どうにか探索の範囲を拡大させる準備が整い、やっとダンジョンの出口の洞窟から出てこれた。
乗っているのはポンダのモトクロスバイクCCB250で、ボディプロテクターを始めエルボーガード、ニーガード、ついでにダブルレンズゴーグルをネットショップで購入してフル装備している。所謂モトクロスバイク仕様だ。
体がモコモコでゴリラの様になっているのはご愛敬、これだけしっかり装備していれば、転んでも怪我を最小限に抑える事が出来るだろう。
ゴーレムに階段の段差を埋めさせていたのが功を奏し、改札部屋の駐車場からバイクに乗ったまま簡単に地上まで上って出てこれた。
今は残してきたゴーレムに階段を全部スロープに変える作業をお願いしており、30体ぐらいのゴーレム達がチカラを合わせて頑張っている。
「行くぞ!」
気合いの一声と共にブルルンとエンジンを吹かしてバイクを走らせる。
見た事が無い木、見た事が無い葉、見た事が無い草。
同じ様な景色が永遠と続く中、雑木林をモトクロスバイクで駆けていく。
十代の頃にバイクの免許を取り、車を買ってからは乗る機会がなったので久しぶりの運転だった。それに加え、地面は枯れ葉が積り滑りやすくなっていて、走りにくいので速度はたいして出せていないが、徒歩と比べれば雲泥の差だ。周りの景色が凄い速さで流れていく。
雑木林とはいえ、密林の様に木々が乱立している訳ではなくバイクで走るのに問題ないぐらいに木と木の間隔があるので、慣れてくると楽しい。
地面の様子や、通れるルートを思案しながらスピードを上げていく。
頭の中に浮かび上がる地図を確認しながらぐんぐんと進んで行った。ものの20分~30分で、前回徒歩で来ていた場所を通り越し、未知のエリアに入って行く。
この調子でどんどん頭の中の地図を埋めていきたい。
北方向に走る事3時間。
そろそろ引き返そうか迷っていたところ、前の方に20mぐらいの高さがある壁のような切り立った崖が立ち塞がっているのが見えてきた。その崖は左右にずっと伸びていて万里の長城のように先が見えないぐらい続いている。
「なんだこりゃ。」
思わず口にしてしまうぐらい広大で、しばらくの間見とれてしまっていた。
目の前にある高い崖をよじ登ろうと思えば登れるかもしれないが、足を踏み外して落ちたら死んでしまいそうな高さがあるので、怖くて登ろうとは思えなかった。
バイクに乗りながら30分ぐらい崖の切れ目を探して、崖沿いを走って見たが、崖は緩いカーブを描きながら延々と続いていて、切れ目を見つける事が出来なかった。
スマホの時計を見ると、そろそろ戻った方がいい時間になっていたので、この日は諦めて帰路に着いた。
ダンジョンに戻りカモフラージュされている駐車場の引き戸を開き、軽トラが止まっている脇にモトクロスバイクを止める。
モトクロスバイクのガソリンタンクは8ℓなので、1日乗ってくると大分減っていた。なので、軽トラの荷台に乗っているガソリン20ℓ携行缶からガソリンを補給しておく。
このガソリン携行缶は向こうでガソリンを入れてきたのだが、何やらセルフのスタンドで勝手にこの携行缶にガソリンを入れるのは良くないらしく、わざわざ人が居るガソリンスタンドに行って「これに入れて下さい」って頼んで入れてもらった。一度、家に帰って携行缶を置いて、空の携行缶を軽トラに積んで、また違うスタンドに行ってを繰り返して集めてきた。なかなか手間がかかったガソリンなのだ。
軽トラの荷台には携行缶は3本あるのだが、この調子だとすぐになくなってしまいそうだ。
駐車場のドアを開けて改札部屋へ入る。今は全てのゴーレムが作業に出ているので部屋の中は畳が敷かれているだけで誰もいない。
モトクロスバイクに乗るのに新しく買った装備、ボディプロテクター、エルボーガード、ニーガードを外しロッカーにしまう。
ひとまず汗をかいていたのでシャワー室で服を着たままシャワーを浴び、服を洗いながら体も洗いさっぱりさせる。シャワー室しか水場が無い生活で、いつの間にやら身についてしまった方法だ。
シャワーを済ませたら、洗濯物を手早く干し、それからテーブルのデリバリーを使い晩飯を済ませる。
ゴルはご飯を食べ終えると、ゴーレムの為に敷いてある畳の上で済まし顔で寝転んでいた。
それから、リクライニングチェアでくつろぎながら明日の探索方向なんかを考えて、しばらくまったりとした時間を過ごした。
今日は慣れないバイクの運転で疲れていたのだろう、眠気が襲ってきたので、それに逆らう事無く寝室に移動した。
寝室に入り眠る前に、日課となっている「ゴーレムの核」を作り出す。残っているMPを使い切ってしまわないと勿体無いからね。
「土玉」
魔法を使うと、敬太の手の平からピンポン玉ぐらいの青い玉がヌルっと湧き出てきた。
「あれ?青い・・・。」
いつもだと白い玉なのに、今日は青い玉が出てきた。
もしやと思い鑑定をしてみる。
『鑑定』
ゴーレムの核LV2
石、土に埋め込むとゴーレムを作りだす事が出来る
おぉ作り出した核のレベルが2に上がっている。
レベル1だと土限定だったのが、石と土になっている。土の塊のゴーレムしか出来なかったが、これからは石のゴーレムを作れるようになったって事か。
新しく出てきた青いゴーレムの核を眺めながら、明日の予定をひとつ付け加え、敬太は眠りについた。
翌朝。
スマホのアラームで起こされ、ゴルと一緒に寝室から出てきた。
顔を洗い身支度を整えて、テーブルのデリバリーで朝ご飯を頼む。タブレットからポチっと注文すれば、即座にテーブルの上にある白い箱が動き出し、朝の焼き魚定食が出てくる。定食には納豆と海苔が付いていて、旅館の朝食って感じで最近のお気に入りだ。
ゴルにも新しいお水と猫の餌をあげて、一緒に朝ご飯を食べ始めた。
食事を終えると、今日の探索の準備に取り掛かる。
まずは、日課のピルバグを狩りからだ。
手早く装備を身に着け、つるはしを担ぎ体育館部屋へと向かう。
2時間かからないぐらいで全てのピルバグを煙に変え、改札部屋に戻る。それからデリバリーで昼食のサンドイッチセットを頼んで、ネットショップで箱買いしてあるペットボトルの水を4本持って駐車場に移動する。そして、モトクロスバイクの後ろに付けてあるシートバックに、持ってきたサンドイッチと水を入れて、もう一度改札部屋に戻ってロッカーを開き着替えをしていく。
罠を仕掛けて辺りを一掃してからは、ダンジョン内でもゴルは自由に歩かせていてピルバグを狩っている時にも「近づきすぎてはダメ」とか敬太が戦っている時の距離の取り方を教えている最中なので、こうやって出掛ける準備で部屋の中をウロウロしている時も、シャワー室で顔を洗っている時も、駐車場に行った時も、ピルバグを狩っている時も、ゴルは何故か犬の様に敬太の後を付けてくる様になった。
「何してるの?」って顔して敬太の視線に入るようにしてくるのだが、まぁ可愛いので文句はないです。
ゴリラの様に膨れ上がってしまうプロテクター一式を装備して準備完了だ。
駐車場に続くドアを開けてゴルに声をかける。
「ゴル、行くよ。」
「ミャー。」
しっかりと返事をして、ハードシェルバッグに自ら潜り込んでくれるのでとても助かる。
ゴルを背負い、駐車場の引き戸を開け放ち、モトクロスバイクにまたがりセルを回してエンジンをかける。
キュルルン ブルルルル
カモフラージュされている駐車場の引き戸を外から閉めて、いざ出発。
カツンとギアを入れて軽快に走り出す。スロープ付き階段のスロープ部分をぐんぐんと上って行き、ピルバグ地帯を抜け、狭い通路を抜けあっという間にダンジョンの外に出た。
今日も外は良い天気だ。絶好の探索日和、頭の中に浮かびあがる地図を確認して、進行方向を決めていく。
「今日は西に行くぞ。」
アクセルを捻り、枯れ葉を舞い散らせながら雑木林を疾走していった。
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