第2話
キュベリエが連れてきた謎の少女はあの伝説の巫女、レイナ・フィーマンだった。
「本当に⁉ あなたが‘‘調律の巫女”、レイナ・フィーマン⁉」
「え、ええ。そうだけど……」
「落ち着け、お嬢サマ。巫女さんがちょっと怖がってるだろ」
「レイナさん……
「うわあ……本物のレイナさんだぁ。わたし、モリガンの記憶でしか見たことなかったけど、やっぱりすごく綺麗な人だねぇ」
「私もロキやカーリーたちから聞いていただけだったから、実物に会うのは初めてだ」
「ちょっとみなさん、そんなに一度に喋ったら姉御が困るじゃないですか」
レイナが伝説の巫女だと知り口々に話す一行を、泣き止んだシェインが制す。しかし興奮した一行を止めるのは至難の業で、なかなか収まらない。
「……ふふ」
「どうしたんですか、姉御?」
いきなり笑ったレイナにシェインが尋ねる。他の皆もしんと静まりレイナに注目した。
「あ、ごめんなさい。変な意味じゃないの。ただ、シェインがみんなのお姉さんしてるなぁって……」
嬉しそうに言うレイナにシェインは顔を赤らめる。
「そ、そりゃあ百年も経てばシェインだって変わりますよ」
「そうね。百年前は私もシェインも
「姉御……」
懐かしそうに目を細めるレイナとシェインに一行は何も言えなくなる。
特にティムは、一行の他のメンバーよりもシェインのことを知っていると自負していた割に何も知らなかったのだと軽くショックを受けている。シェインがあんな風に泣くのも、今は落ち着いていても昔は騒ぐ側だったことも、分かっているつもりだったシェインの大切な、それはもう百年も探し続けるような大切な仲間のことも、何も知らなかった。
「もー、レイナさんもシェインさんも久しぶりに会えて嬉しいのは分かりますけど、もう少し私のお話を聞いてくださいよぉー!」
「それもそうね。やっぱり私よりキュベリエから話した方がそれっぽ……じゃなかった、分かりやすいし」
「今『それっぽい』って言いかけましたよね⁉ 私の説明の価値は様式だけなんですか⁉」
「そんなことありませんよ。尊敬してます、ポンコ……じゃなかった、駄めが……でもない、浄化の女神さま」
「また『ポンコツ』とか『駄女神』とかぁ!」
「いいから早く話しなさいよ、ポンコツ女神」
「今、完全に隠す気なかったですよね⁉」
一連の漫才のような流れを済ませると、キュベリエがこほんと咳ばらいをした。
一行に緊張感が走る。
「みなさんには、レイナさんと一緒にある者を鎮めてほしいのです」
そもそも巫女さんと姐さんの方がメインぽくなってるけどな、というツッコミをティムはぐっと呑み込み、女神の次なる言葉を待った。
「‘‘沈黙の霧”をさまよい、想区に襲来する影、シャドウを!」
キュベリエがはっきりと一行、そしてレイナに言い放つ。
「シャドウ…。それは『調律』や『再編』されることなく、想区ごと消えてしまったカオステラーのなれの果ての姿…。彼らは『運命の書』の記述を失い、霧の中を彷徨う幽霊のような存在です。シャドウは無差別に想区に襲来し、大きな混乱をもたらしていく。そしていまも、シャドウはあてどもなく‘‘沈黙の霧”をさまよい続けているのです。まるで失ってしまった自身の運命を求めるかのように…。」
説明を終えるとキュベリエは重たそうに口を開き、補足説明をする。
「まあ、今回のシャドウはかなりイレギュラーなんですけどね……。なんせ、シャドウ化したのは空白の書の持ち主ですから」
「……なるほど。姉御がここにいる時点で何となく予想はついていましたが……。では、シャドウ化したのはまさか……?」
シェインがレイナに確認の視線を送ると、レイナはこくんと頷く。そして強い決意を持った瞳でシェインたちを見据える。
「今回シャドウ化したのは……エクスよ」
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