第34話 殺戮の理由
今日の作戦前に、装備班から受け取った〈甲型弾〉。
士郎たちが「保護対象と認めた対象のみ」に使用することと命令され、この〈収容所〉に拉致されてきた不幸な女性たちを射殺していった――つもりの――銃弾だ。
「殺傷力がない……のか」
士郎は、答えを探すように思わず周囲を見回す。
すると、長屋のあちこちからぞろぞろと多数の女性が出てくるところだった。
香坂と
下着姿の女性をお姫様抱っこのように抱き上げて歩いていた香坂が、士郎を見て笑顔で頷く。
四ノ宮少佐はてっきり士郎たちにも「手を汚せ」というつもりで彼女たちの射殺を命じたと思っていたが、どうやら間違いだったようだ。
ふと、士郎は大事なことを思い出す。
「しかし……オメガはなぜ彼女たちを攻撃しないんだ?」
甲型弾に殺傷力がないのは理解した。
しかしオメガは?
今までの経験からすると、これまでの戦場では見境なく「味方以外」を排除していたのだ。たとえ相手が非武装の民間人であってもだ。
「それは……分かりません。ただ、先ほど誤って甲型弾を撃ち込んだ民兵も、まだ生きております」
そういって田渕は顎をしゃくる。その先には、両手を後ろ手に縛られ、両足を縛ったロープと括り付けられてエビ反り状に地面に転がされている一人の民兵がいた。
***
夜明け前に開始された今日の襲撃作戦は、およそ一時間で状況終了した。
ようやく大陸の刺すような朝日が大地全体を照らしだす。
「これがホントの朝飯前、って奴ですよね」
各務原が朗らかに軽口を叩く。
今や〈収容所〉は完全に制圧され、民兵は一人を除いて全員がオメガに息の根を止められていた。
中央の広場に停まっていた軍用トラックやSUVは爆破処分され、代わりに〈
その近くには、保護された多数の女性たちが一人ひとり毛布をあてがわれてうずくまっていた。
その数は下手をすると100人を下らないかもしれない。
さすがにこれだけの数を飛竜で連れて帰るわけにはいかないから、今は
未来たちが女性の間を回って、持参してきた
「釈然としない、って顔ですね。石動少尉」
本作戦の
「まぁ……そんなところです」
士郎は素直に認める。
「甲型弾に殺傷力がなかった……というのは、想定外でしたが結果オーライです。しかし何故オメガたちは彼女たちを襲わないのです?」
士郎の疑問はまさにそこだった。
オメガたちは一旦戦闘に入ると、自分たち以外の戦場にいる存在を決して許さない……はずだ。
「私も正直ホッとしてるわ……これで
新見は意外なことを言う。
貴方たち以外……?
「あれ? もしかして気付いてなかった? オメガと一緒に戦ってたの、貴方たち4人だけだったでしょ」
言われてみればそうだった。過去三回の――今日を含めると四回の――戦闘は、すべてオメガたち6人と、士郎たち4人の、計10人だけで戦っていたのである。
だがそれは単なる編制上の問題だったのではないのか……?
士郎のあからさまな疑問の表情に、新見が答える。
「やっぱり気付いていなかった、って顔ね」
「実を言うとね、彼女たち今まで、敵味方の区別がつかなかったの」
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