第5話 開闢

 6月10日早朝、明日にこの地を離れ東京に出発すると言う事で、小野目おのめさんが悔いが残らないよう今日一日時間を頂いた。


 天城あまぎさんに特別に許可を貰い、小野目おのめさん同伴で鬼泣村おになきむらに立ち入る事を許され、お墓といってはお粗末なものであったが、お供え物を持ちお墓参りに行く事にした。


 それから村中を歩きまわった、異臭が漂う……普通の人間なら目眩や吐きけを発症するだろう、小野目おのめさんもガスマスクの様な物を付けている。


 やはり僕は化け物なのだ……っと実感する、人が腐っていく匂いがとてもいい香りに感じてくる。確かにこれは違う意味で精神が壊れそうだ。


 それでも僕は歩き続けた。


 春樹はるきの家を通り過ぎる。


 月城つきしろ 春樹はるき

 お調子者で、余り勉強は出来なかったな……お馬鹿発言もあったが、憎めない奴だった。

 いつも春樹はるきの周りは笑いが絶えなかった。


 それから水音みずねの家を通り過ぎる。


 水篠みずしの 水音みずね

 第一印象はクールでとても綺麗な人だなと思ってたけど、イベント事が好きだったり、みんなと遊びにいくのが好きだったりと、とても明るい女の子だった。


 次に充彦みつひこの家を通り過ぎる。


 流川るかわ 充彦みつひこ

 頭が良くて、よく春樹はるきを馬鹿にして弄ってたな、嫌味なことを言う奴だったが、一番友達思いな奴だった。

 だから皆んな充彦みつひこのことは嫌いじゃなかった。

 クラスの何でも頼れるお兄さんタイプだったと思う。


 確かこの家はあいの家だったな。


 松永まつなが あい

 真面目な性格で委員長タイプの女の子だったのだが、身長が小さく童顔で慕われるって感じではなく皆んなの妹って感じだったな……。


 ここは相楽そうらくの家だな。


 木浦きうら 相楽そうらく

 貧乏ではあったが医者になる為に一生懸命勉強頑張ってたな。


 美由みゆの家大分壊されているな……


 折原おりはら 美由みゆ

 印象はチャラいなーって思ったけど、頭が良くて小学生の妹を凄く大事にする程優しい子だった。


 そして最後……真美まみの家、幼い頃から知っている。

 よく二人で遊んでたな、あぁまただこの感情がまた胸のあたりに込み上げてくる……

 胸が苦しい、真美まみのことを思い出すのは辞めよう……



 あの日僕は皆んなの身体を探して学校裏の森の中に埋めお墓を作った。

 顔は出来るだけはお墓に埋めてあげたかったがどうしても一人だけ見つけられなかった……

 けど体の右半分の身体を見つけられ埋めた。


 夕方か……


小野目おのめさん、長くお時間すみません。

 次が最後ですので」


「あぁ気にしなくていいよ、今日一日なら何時間でも構わないから」


「ありがとうございます」


 最後に僕は6年暮してきた、住み慣れた我が家に足を運んだ。


松五郎まつごろうお墓作ってあげれなくてごめんな」


 松五郎まつごろうは結局見つけられなかった。

 村中を歩き回り、家にも戻ってないとすると死んでしまったのだろう……、僕は最後に松五郎まつごろうのお墓を作りにきた。


 僕は皆んなのお墓を作り満足したかったのか、安心したかったのか……

 これは気休めなのかも知れない。

 ……まただ昔からそうだ、こんなことをいつも考えては僕は心が無いのだろうかと、自虐的思想に陥ることがよくあった。


「はぁ……」


 僕は僕のことが嫌いだ


 そう思うと僕は松五郎まつごろうお墓として作った砂山を蹴り飛ばしていた。


伏見ふしみくん、何をしているの!」


「何って……ただの砂山でしか無い物を壊しただけですよ。

 この中に松五郎まつごろうはいないんですよ、こんなので喜んでくれるなんて思う事はエゴでしか無いんだ」


 そんな哀れみの顔を向けるなよ……


「第一僕は人間じゃ無いんだ! 化け物が人間の真似事をした所で、感情が無い僕が供養したもどうにもならないんだよ!」


 初めて声を荒げた。


 その瞬間、小野目おのめさんが僕を抱きしめる。


「何ですか……」


「大丈夫、貴方はまだ人間の心が残っている優しい子だよ」


「優しい……違う、お墓は自分が安心したいが為に作ったんだ。

 それに優しいというなら友達以外のこの村の人達には供養も何もしていない、これは見て見ぬフリをして正義を唱う偽善者と同じだ……僕は感情が無い化け物だ!」


「じゃあ今何を思って怒鳴っているの? 怒り? 悲しみ? 自己嫌悪? それはね全て感情なんだよ。

 感情がなかったら怒鳴る事も出来ないし、涙を流す事も無いんだよ。

 全く君の言葉と行動は矛盾だらけだね」


「くぅ……なんでなんで僕はああぁぁあ……」


 そして初めてこの歳になって声を上げて泣いた。


 小野目おのめさんに抱かれながら子供の様に泣き続けた。

 それから松五郎まつごろうの墓を作り直し、僕の家を後にし、東京に向かうためこの村を出る




 村に村の人達に最後に伝えた言葉は後悔や懺悔ではなくありふれた言葉だけど、どの場面でも一歩踏み出す為の希望の言葉……


 ——行って来ます——




伏見ふしみくん、早く車に乗って出発するよ」


「はい!」







 ——日付が変わり6月11日00:00時

 鬼泣村で今後、伏見ふしみに降りかかる『絶望』が産ぶ声を上げる。


『絶望』はなぜここにいるのか自分でも分からなかった。


 頭が痛いズキズキする、頭を抱え気付く……角が生えている事を、そして思い出す自分が鬼により殺され身体を食われた事を。


『絶望』は混乱した、白銀はくぎんでは覚醒は無いと宣告されている。なのに今の自分はなんだ鬼じゃないか、迷い迷い混乱し絶望し、また迷い迷い迷い……


 そして悟る、これは復讐する為に神がくれた物なのだと、自分は神に愛されたのだと思う事にした。


 この力を知る為にまずは町へ行こう、大きくて色んな人や鬼がいる東京へ……そこなら色んな事が分かるかも知れない。


「ごめんね皆んな先に東京に一人で行く事になるけど許してね。

 少し長くなるかも知れないけど帰って来たら次はみんなで東京に行こうね、それまで天国で見守ってくれると嬉しいよ」


 一つ『絶望』は知っていた

 村の図書館……図書館っと言っても誰も使ってない小屋に村人が本を置いているだけだが

 そこで昔の言葉で書かれているボロボロの本を見つけ興味本意で解読してみた

 解読出来なかった所もあったが一つ皆んなが幸せになる為の言葉を見つけていた


【白き鬼は死者を我々の前で生き返らせた】


『絶望』は自分に宿ったこの力が白き鬼の力だと信じ、友を両親を生き返らせる為にこの世界の深淵へと一歩踏み出した



 余談だが『絶望』が解読出来なかったボロボロの本の続きはこうだ……


【生き返らせたのち白き鬼は力を失い角が砕け折れた

 だが生き返らせた物は生前の記憶もなく目を開けた刹那に苦しみ、血反吐を出しながら息絶えたのだ。

 やはり人を生き返らせる事は世のことわりから外れた事なのだ。

 白き鬼は力を失い、同じ人を二度殺した事に心を痛めた。

 我らは確信した、この白き鬼はいい素体だと黒鬼と協力し白き鬼を捕え研究し、野望を成し遂げるために長い月日かけ、いい村人を演じ信頼よわさを作りあげよう。



 鬼泣村おになきむら村長 、陰陽道おんみょうどう宮城郡みやぎぐん統括・清水せいすい 清彦きよひこ



 ……無知な事は罪である。








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