疾走
街の灯りが、ものすごい勢いで後方に流れていく。こんなに速く走るなんて、何年ぶりだろう。
そう言えば、小学校の頃は、足が速いだけで人気者になれたっけ。思えば、あの頃が俺のピークだったのかもしれない。
何人もの人とぶつかりそうになった。それでも、俺はスピードを緩めることなく、自分の住むマンションに向かって走り続けた。
俺が住むのは、最寄駅から徒歩20分のワンルームマンション。歩道橋からだと、もう少し遠くて、徒歩25分といったところだ。
その距離を全力疾走したんだから、マンションに着く頃には、俺の心臓は限界をはるかに突破して、拍動していた。まるで胸の内側から、もう限界だと訴えているかのようだ。
激しい呼吸で肩が上下しているせいだろうか。カギを開けようとしているのに、うまくカギがさせなかった。やっとの思いでカギを開けると、俺は倒れ込むように部屋に飛び込んだ。
部屋に入った俺は、水道の蛇口に飛びついて、水を出した。そして、おもむろに顔を近づけて、水を飲んだ。
「ゴボッ!ゲホッゲホッ」
激しく息が乱れているせいで、思い切りむせてしまった。ノドの奥が千切れて、血が出そうなほど苦しい。
俺はそのまま頭から水をかぶった。鈴木と話すために、少し冷静にならなければと思ったからだ。
水道の水は、思っていたよりずっと冷たかった。頭皮が、首筋が、水の触れた部分がピリピリと痛む。
季節は1月の終わり。とはいえ、今日は真冬並みの冷え込みらしい。気がつけば、俺の手が紫色に染まっていた。
おかげで、少し冷静になれた気がする。乱れていた呼吸も、落ち着いてきている。
俺は鈴木の名刺を眺めてみた。もう先ほどのような光は放っていない。
鈴木は、たしか名刺に呼びかけろとか言ってた。俺は名刺に口を近づけ、控えめに呼びかけてみた。
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