第25話始まりのその先 その3〜説明フェイズ〜


「私たちが住んでいる世界『イマジナル』は、この世界・・・私たちは『ネプタ』と呼んでいるのだけれど・・その『ネプタ』とは別の次元に、その次元を統括していたという『ゴルトベルク』の租によって生み出された世界とされているわ。大きさは『ネプタ』の十分の1ほど。形状は・・・・ここみたいに球状ではなく、ひたすら平面に大地が広がっているといえば想像できるかしら」


「イマジナル・・・・ゴルトベルク・・・ネプタ・・・・」


結局ミリエルが色々語り出したので俺は黙って聞くことにした。机にはノートが置かれており、重要そうな要素はメモしていくようにしている。


「ねぇミリエル、その『イマジナル』とか『ゴルトベルク』とかって誰が名付けたの?なんかこの世界の言語に似てるような気がするけど・・・」


「たしか異世界大戦を取り仕切る人間の集団・・・・たしかネバーランド社だったかしら?がけんきゅう?のために色々とつけたそうよ」


「ふーん・・・・まだわかんないな・・・」


「当たり前でしょ。まだほとんど説明してないわよ」


ミリエルに呆れられてしまった。世も末だね。


「話を戻すわ。『イマジナル』は作られた当初、こことは違う独自の生態系が築かれていたの。環境は『ネプタ』とそんな変わらないんだけれどね・・・・ところが数千年の時が経った頃、変化は起きた。『ゴルトベルク』の租から生まれた数人の新たな『ゴルトベルク』たちによって百種類以上の知性のある生命体が作られ、『イマジナル』に放たれたの。それらは原住の生物よりも圧倒的に賢く、強かった。・・・・そしてそれらは一瞬にして『イマジナル』の生態系の一番上にまでのし上がったの。その百以上の知性ある生命体のことを私たちは『イマジナリー』と呼んでいるわ」


「・・・・意図が読めないな。どうして『ゴルトベルク』たちは『イマジナル』の生態系を壊してまで『イマジナリー』を放ったの?」


「さぁ、それはわからないわ。・・・・それこそ本人たちに聞かないことにはね」


『ゴルトベルク』・・・・おそらく何か握ってそうなんだけれど・・・今はいいか。


「『イマジナル』を掌握した『イマジナリー』たちはその後同じ種族ごとに集結し、それぞれ住みやすい環境帯にテリトリーを築いていったの。そしてそのテリトリー内で『イマジナリー』は長く繁栄し、個体数を増やしていった・・・・ここまではとても平和だったのだけれど、ある日それも限界がきたのよ」


「限界、と言いますと?」


「・・・・平面世界『イマジナル』には果てがあったのよ・・・果てには白い霧で覆われていて、先に進もうとしても進めなくなるの。このことを当時の『イマジナリー』たちが気付いた時はもうすでに『イマジナル』のほぼ全ての領土がテリトリー化された後だったわ」


ここでミリエルはお茶で唇を湿らせる。ここからが佳境なのか?


「今までは個体数が増えても問題ないように少しづつ自由な土地をテリトリー化していたのだけれど、それができなくなってしまったの。そうすると次は・・・・・・」


「奪い合い、か・・・・」


「そう・・・・最初は少数種族同士の小競り合いから始まり、そうかからずに『イマジナル』全体は戦乱に包まれたわ」


自分の種族の繁栄のためには領土の拡張が不可欠だ。自由に広げることができなくなってしまったならば、他種族から領土を奪うしかない。


当然のことだ。この世界だって同じことを繰り返してここまできている。どの世界だろうが行われることは変わらないのだ。


「各種族は武力によって強者と弱者に別れた。弱者は強者に従うしかなく、強者は弱者を食い物にしていく・・・・そうやって強いものが弱いものを取り込んでいった結果、ある二つの種族が『イマジナリー』の頂点を争うようになったの」


「その二つとは?」


「私たち『天使ヴァルキュナス』と・・・・・『悪魔サタニア』よ」


「・・・・天使に悪魔か」


そりゃ他の種族は太刀打ちできなそうだな。


「2種族はお互い取り込んだ他種族も戦力に加えて数千年あまり戦い続けた・・・・・たくさんの血が流れ、たくさんの種族が滅ぼされたわ。・・・・それでも『ゴルトベルク』が滅ぼされた種族を作り直すから減ることはなかったんだけれどね」


「作り直すか・・・・めちゃくちゃだな」


どうせ理由を聞いてもわかんないんだろうけど。


「そして今から数百年前、とうとうどちらかの種族が滅ぼされるまで総力戦を行おうとしていた時に、突然現れたの・・・・・が」


「えっ!人間!?」


この流れで!?突然すぎるだろ!!


「そう、あなたと同じ人間よ・・・・人間はお互いの陣営に一人ずつ現れた。彼らは私たちの想像を超えるほどの優れた知恵を持ち、瞬く間に両陣営を認めさせ、従えていったわ。"天使"も"悪魔"も彼らの策に従って動き、殆どの戦いで犠牲者を出さなかった。そうして『イマジナル』史上最大の大戦になるはずだった戦争は、最も死傷者をださず・・・"悪魔"の勝利で終戦したの」


「その人間は・・・・その人間の名前は?」


知りたい。俺は身を乗り出していた。


どんなにすごい指揮官だったのか。死傷者の少ない戦争ほど難しいものはない。それを成し遂げる人間なら、きっと俺よりもはるかにすごい人たちだったんだろう。


「わからない・・・・昔サキエル様に聞いたことがあるのだけれど答えることはできないと断られてしまったわ」


「そう、か・・・・」


しかし、ミリエルは俺に望む答えを与えてくれなかった。俺はがっかりしながらも質問を続ける。


「その、さっきからでてる『サキエル様』っていうのは?」


「今の"天使"の長であり、『天使の時代ヴァルキュナス・エラ』の前継承者にあたるお方よ・・・・大戦時"天使"側の指揮官のことをよくお慕いしていたわ」


「・・・・サキエル」


この天使もおそらく話のキーになるのだろう。ノートに書いておこう。


「それで・・・・その戦いの後はどうなったの?」


「一応、戦争の終結は"悪魔"の勝利ということで一時は決着したのだけれど、それに納得がいかなかった両陣営のいくつかの勢力はそれでも戦いを続けようとしたわ・・・・いよいよ収拾がつかなくなったとき、現れたのが『ゴルトベルク』の一人である『均衡の神』だったのよ」


「えーっと・・・『ゴルトベルク』の『均衡の神』っと」


さすが異世界。新出単語のオンパレードですねぇ〜ノートが追いつかないよ〜。


それにしても、ようやく"神"が単体で現れたな。『均衡』・・・・なんだか胡散臭そうだけど。


「『均衡の神』は納得のいかない者たちも含めて、この戦いの決着を正式に決めたの。『この戦いは"悪魔"の勝利で終わったのだ。それ以上でもそれ以下でもない』とね。『均衡の神』は両陣営に取り込まれていた種族を全て解放し、2種族はこれ以上の領土の拡張を禁止され、他の種族の領土も奪えなくした。当然、またお互いが争うこともあったけれどそこはそれぞれの長が火種が燻る前に止めたのだそうよ・・・・結果2種族以外の種族は再び争いを始め、2種族は沈黙を保ち始めた。こうして、『イマジナル』全土を巻き込んだ"天使"と"悪魔"の戦争は幕を閉じたの」


そう言ってミリエルは一区切りをつけた。


ミリエルの口調には、多少の悔しさに似た何かがにじみ出ていた。おそらくなんらかの理不尽な思いを背負っているような、後悔にも似た顔だった。


それでも、俺のために淡々と語ってくれたのだ。


「大丈夫?ミリエル、なんか少し辛そうに話してたけど」


「・・・・大丈夫よ。それにまだ終わりじゃないわ」


ミリエルは少し緩くなったお茶を一口飲む。俺が新しいのだそうか?と腰を上げようとしたがミリエルは手で「いらない」と答えた。


「こうしてまだまだ戦いは続いたけれど、大戦のように大きいものはなく、ある程度の秩序が生まれつつあったわ・・・・でもそれから数百年の時が流れて、またしても"天使"と"悪魔"は火種を起こし始めたの」


ミリエルはどこか後ろめたく話す。・・・自分の種族のことをどう思っているのか、その一部が垣間見えている気がする。


それでもミリエルは俺の目を見る・・・・これからが本番であると言うように。


「またしてもかの大戦のようになっては『イマジナル』が崩壊する恐れがあると危惧した『均衡の神』は、あの時大戦を見事穏便に済ませた功労者である人間に再び力を借りようとしたの。これが『異世界大戦』が生まれたきっかけとなったのよ」


今のミリエルは、先ほどの後悔とは違ってとても意思のこもった、決意の眼差しを俺に向けている。

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