第2話「犯人は案外身近にいるものさ。」前編



獅子谷珠、東の都での夢の女子高生生活を送ろうとした矢先、

いつもの不幸のスパイラル。何時もの事だから慣れちゃった。

不幸体質で片づけていいものかと思う時もあるけれども、慣れというのは恐ろしいもので、肝心の住む所を無くしてしまった私は、寮の管理人さんである餘目さんの知人である多々野さんという便利屋さんを尋ねることに。

なんとか住める所を探してもらおうとしたはずなんだけど、


「なんでここにいるんだろう。」

「ねこ君。もっと溶け込まないとレディ君にバレてしまうよ。」

「お姉ちゃん、勘が鋭いから気を付けてね、ねこちゃん。」


妙にワクワクした多々野さんとGirlさんを横目にココアを啜った。

可笑しいなぁ…。なんでか分からないけどしょっぱいや…。




事の数十分前。


「なるほど。最近、レディ君の周りで変なことが起き続けていると。」

「そーなの!ね?ね?大変でしょう?」


多々野さんの事務所にやってきたアンティーク黒電話頭のTelephone Girlさん。

彼女のお姉さんである、Telephone Ladyさんの周りで最近妙な事が起き続けているらしい。


「最初に変だなーって思ったのが、お姉ちゃんに妙な電話が続けて掛かるようになったの。お姉ちゃんが電話に出ると、すぐ切っちゃって、私がどうしたの?って聞いても、間違え電話だったみたいってはぐらかすんだけど、」

「間違えにしては掛かり過ぎる電話の数…か。」

「そう!それに間違いだったら一言二言交わすでしょ?

でもお姉ちゃん「もしもし」って言った後、そのまま黙って切っちゃうの。毎回。」

「ふむ。」

「それだけじゃないのよ。お姉ちゃんの周りで何故か小物…例えばペンとかメモ帳とかばっかり最近無くなってるぽくて。」

「ふむ。単純に物を無くしたとなると彼女の性格からは考え辛いな。」

「ね?ね?そうでしょ!極めつけはお姉ちゃんと歩いている時、誰かがじぃ~っと見ている気がするの。」

「君が狙われていないっていう確証は?」

「私が一人歩いていても何も感じないから。」

「あ、あの、」


黙っているのが耐えられなくなって思わずソロリと手を上げる。


「なぁに?ねこちゃん。」

「その、そこまで思う節があるならどうしておまわりさんじゃなくて多々野さんに…?」


おまわりさんならちゃんとして処置をしてくれるだろうし、探偵ならまだしも多々野さんは便利屋であって、とても適材とは言い切れないような気がする。


「…心外だなぁねこ君。」

「?」

「あはは!ねこちゃん。今の全部口に出てたよ。」

「あ、嘘。」


慌てて口を押えるけど時既に遅し。Girlさんは笑い始めるし、多々野さんは、


「…。」

「(表情分からない筈なのにとっても不機嫌そうなオーラ出てる。)」

「ははっ…は~面白い。えっと、警察だっけ?うーん…警察ね、警察…。」

「?」


ん~と何か言い辛そうに言葉を溜めるGirlさんに私はただ首を捻ることしか出来なかった。


「身近にいる警察がちょっと不信というか…なんというか。でも、たまちゃんが言おうとしてくれることは分かるよ。だからこそ、こういう時に信用できる多々ちゃんの所に来たんだ。」

「信用、できる…。」

「そ。ねこちゃんも信用してるから多々ちゃんの所に来たんじゃないの?」

「ねこ君は初対面だよ。僕とは。」


足を組み直した多々野さんがGirlさんにそう呟くと、決めた!と自分の膝を叩いた。

それが私たちがこうしているのに繋がる15分くらい前の事。




「ねこ君がこの依頼の手伝いをしてくれるのなら、僕は君の住む所を無償で探してあげるよ。安全で家賃も手頃な所をね。勿論、この依頼でねこ君を危険にさらすことは絶対にしないさ。なんたって、僕は、そこらの、警察に、比べ物にならないくらい、頼りに、なるから、ね!!!」




言葉を区切る度にずいずいと距離を詰めてくる多々野さんには少し恐怖を覚えました。なんか、こう、壁が迫って来るかのようで。

圧力に耐え切らずよろしくお願いしますと頭を下げてしまった自分。

あれ、やっぱり元凶って自分じゃないか…?

プチ不幸と思った事が気付かぬうちに口から出てるってもう、救い用がない。


そんな事で、私たちはカフェでお茶をしてるGirlさんのお姉さん、Telephone Ladyさんを離れた席から様子を伺っています。


「今の所、怪しい人はいないよね。」

「あぁそうだな。しかし、犯人は案外身近にいるものさ。」

「あ、あのぉ~…やっぱりこの格好目立ちませんか…。」


サングラスをかけたお二人(というか目ってどこ…。というかどうやって眼鏡掛けてるんだ。そもそもかける意味はあるんだろうか。)そして何故かウィッグをかぶせられた私。

偵察はまず形から!と多々野さんが頭の箱に手を突っ込んだときはびっくりした。


頭の箱…って開くんだ…と。


「多々野の坊主はいわば何が出るかはお楽しみのビックリ箱ってところやけんね。」


事務所でお留守番しているかんばせさんの言葉を思い出す。


異形頭の人種によくある、頭そのものの個性。

多々野さんで言えば色んな物が飛び出す箱。

Girlさんで言えば、文字通り電話を掛けられる。

中には例外とされる無個性さんもいるらしい。


自分が住んでいたところでは滅多に異形頭さんは見なかったから驚きの連続だ。


「僕と、勿論ガール君はレディ君に顔を知られているからな。顔を知られているからには隠さないとだろう?」

「Ladyさんと面識がない私は…、」

「私は雰囲気を楽しみたいんだ!!」

「似合ってるよーねこちゃん。」

「(もう何も言いますまい。)」


喫茶店に来たからには何か頼まないと怪しいし店に失礼だと、奢ってもらったココアをまた口に運びながら、ちょっと離れた所で座っているLadyさんを盗み見る。


アンティーク黒電話の異形頭の、Girlさんのお姉さん。

かれこれ数十分、Ladyさんを観察しているけど、Girlさんとは正反対で落ち着いている人のようだ。黙々と本を読み進め、時たま外を眺めまた本を読み進める。

かれこれカフェに入り込んで一時間近く経過していた。


「中々動かないな。」

「お姉ちゃん本を読み始めるといっつもあんな感じだよ。あ、このパフェ美味しい。ねこちゃんはい、あーん!」

「むぐ。」


スプーンを口に突っ込まれ甘い味が口に広がる。

観察することに飽き始めたのか、お二人共料理を頼みだして…、


「(あれ、そもそもどうやって食べ、)」

「!多々ちゃん大変!お姉ちゃん出て行くみたい!」

「何?!しょうがない急いで残りを食べるぞ。ねこ君、すまんが先にお会計を済ませてきてくれ。君ならレディ君に鉢合わせても正体はばれないだろうから。」


そう言って私に財布を押し付けた多々野さんにGirlさんは急いで残りの料理を食べ始めた。特に料理を頼んでいなかった私は、まぁしょうがないと会計をしているLadyさんの後ろに並ぶ。

面識がないのだからバレる事はない筈なのに何故かどきどきと心臓が高鳴る。

お、落ち着くんだ…。私はただ会計を済ませる一般人aだ。もし見られたら、特に反応しなければいいんだし、大丈夫大丈夫。


「大丈夫?」

「ファイ!?」


ぽんと肩を叩かれて大げさに体を飛び跳ねた。

視線をあげるとそこにはさっきからずっと様子をうかがっていたLadyさんが見下ろしていて、潤したはずの喉が一気に乾いた感じがした。


「驚かせてごめんなさいね。次、貴女の番よ。」


レジで困ったような顔をするウエイトレスのお姉さん。どうやらLadyさんはとっくに会計を済ませていたようで、次に並んでいた私が声をかけられるものの、心を沈ませることに手一杯だった私はその声に気付かないほど必死だったようだ。


「ご!ごめんなさい。考え事をしてて。」

「いいのよ。それじゃあいい一日を。」


軽く会釈をされて大げさに頭を下げる私。

へ、変じゃなかったかな。…いや、絶対変わった子と思われたことだろう。というか、私も早く会計を済ませないとそれこそLadyさんを見失ってしまうのでは…?


「おおお願いします!!」


見失ってしまったら元もこうもないと急いで会計を済ませる。外に出ようとしたタイミングで丁度、多々野さん達も食べ終わったのか合流出来た。


「待たせたね。」

「多々ちゃん。ソースついてる。」

「おっと失礼。」


頭をかぱっと開き中からハンカチを取り出した多々野さんはソースが付いた箇所を噴きながら、所でレディ君は?と尋ねて来た。


「あっちです。」


少し離れた先を歩くLadyさんを指差す。見失わなくてよかった…。


「よくやったぞねこ君。さて、またばれないように後を着けていくとするか。」


キリッとした声色でそう言う多々野さんですが…、すみません、拭ききれていないソースのせいで少し残念に見えます。


「ねこちゃん、しっ!」

「…また声に出てました私…?」

「んん゛っ。さぁ行くぞ。」

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