第34話確認

「・・・いつから気づいていた?」


「うーん・・・最初からかな? なんとなくそんな気がしてたからね。だから“ケン”て名前が偽名だってすぐにわかったんだよ」


フォートからの答えを聞いて、ソーマは「ハア」とため息を漏らす。


「そうだよ。俺は・・・いや私は女だよ。お前の言うとおりだ。でも、本当によくわかったな」


「まあ、初めのうちは『もしかして僕の勘違いかな?』って思ってたんだけどね。でも、その後いろいろと手がかりがあったから・・・」


「手がかり?」


「ほら、君ってトイレする時いっつも物陰に行くでしょ? 男同士だから、わざわざそんなことする必要ないのに。まあ、いっつも大便をしているって可能性もあったけど、こっそり君が用を足した跡を確認しに行ったら、おしっこの跡しかなかったから・・・」


――――ぼかっ!


「いったあああああ!」


「なんで人の便所の跡を確認してるんだ!」


「言ったじゃん! 確認するためだって!」


「それなら直接聞けばいいだろーが!」


「直接聞いたら教えてくれたんですか!?」


「言うかバカ!」


「ほら見ろ!」


そんなやりとりが数分続いて・・・・





「まあそんなわけで、君のトイレの跡から60%くらい確信したんだ」


「ちょっとまて、なんだよ残りの40%は?」


「いや、なんというか顔は女性っぽいんだけどなんというか・・・そのぅ・・・」


「なんだよ? 早く言え」


「・・・・・・胸が」


――――グシャア!


フォートの顔面に、拳がめり込んだ。鼻が顔に陥没した。


「ギャアアアアアアア!」


「てめえ! ぶっ殺してやる!」


「これだよ! だから言いたくなかったんだ!」


「うるせえ! ありとあらゆる苦痛を与えてからぶっ殺してやるよ!」


「ギャアアアアアアア! やめろオオオオオオオ!」


そんなやりとりがまた数分続いて・・・・・





「・・・まあそういうわけで、僕は君が女性だと確信するに至りました」


「それについてはわかった。だけど、なんで黙ってた? 私に聞いて確認することだって出来ただろ?」


「いや・・・それは・・・」


フォートは少しためらった後、渋々答えた。


「隠してるんだし・・・なにか言いたくない理由でもあるのかな・・・と」


ソーマはため息をつく。


「別に隠してるのは言いたくないからじゃねえよ。単にこっちの方が都合が良かったからだ」


「・・・都合がいい?」


「そうだよ。スパイをやってると、どうやっても敵に掴まる可能性がある。そのとき、もし私が女だったらどうなると思う?」


「・・・・・・ああ」


「だから身バレしないように極力、男のふりをしてるんだよ。それだけだ」


「・・・なるほどね。それじゃあ、これは僕たちだけの秘密にしといた方が良いわけか」


「そうだな。よろしく頼む」


ソーマはぺこりと頭を下げた。


「・・・ところでさ、できるだけ女ってばれたくないんなら、もしかして僕と一緒にパーティーに行く気はないって事? そうなると僕たちは今から合コンをセッティングしないといけなくなるわけだけど・・・」


もちろん、フォートにはそんなつてなどない。そうなると、シャルーナに相手を見繕ってもらうか、依頼を断るしかなくなってしまう。

どちらも、男として情けない限りだが。



「いや、それはもういい。私が男としてパーティーに行こうと思っていたのは、お前にばれていないと思っていたからだしな。ばれてるとわかった今は、どうせ知り合いにも会わないだろうし、会ったとしてもわからないだろうから、女として行ってやるよ」


「うーん・・・でもばれたときのことを考えると・・・」


「そんなこと言ったって、それ以外に方法はないだろ? お前に女がいるとは思えないしな。今から探すのは、どっちにしろ無理だ」


本当に情けなくなってきた。よくよく考えると、僕は転生する前からずっと彼女がいないままだ。転生ハーレム物の主人公を少しでも見習う必要がある。


どうやらこちらの世界でハーレムを作ると言うことも、目標の一つになりそうだった。


「・・・確かにそうかもね。君の言うとおり、それしかない」


「だろ? 私としても、どうしてもパーティーには参加しないといけないしな。このまま駄々をこねて、行けなくなるのだけは絶対に困る」


「・・・? なんで? 別に君にとって、この依頼ってそこまで重要じゃないでしょ?」 


僕に頼まれて冒険者をやっている彼女にとって、この依頼はそこまで重要じゃないはずだ。なのに気のせいだろうか? 必死すぎる気がする。


「・・・任務以外に用事でもあるの?」


「え!? ・・・いや・・・その・・・ほら、一応本業はスパイだし? こういう機会は逃せないって言うか・・・」


「・・・ふーん」


なんとなくだけど、嘘をついてる気がする。ほんとになんとなくだけど。


「・・・まあいいや。深くは聞かないよ。でもさ、ほんとのほんとに、それでいいの? 最悪の場合、君が身バレしちゃうかも知れないんだよ?」


それはスパイであり、そして女の子である彼女にとって、最も恐れるべき事だ。もちろん、そんなことにならないように努力はするが、やはり100%とはいかない。


正直、僕は心配だ。しかしこの直後、僕に別な心配が出来ることになった。


「大丈夫だよ」


僕からの最後の確認に、ソーマはニッコリと笑って


「ばれたら、気づいた奴を全員殺すから。もちろん、お前がバラしたとわかったらお前も殺すぞ?」


そう言った。

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