第10話 詩音さんがいない

 ガラガラ……。

 オレは絵本研究部の部室のドアを遠慮がちに開ける。

 中には詩音さんが先に来ているかもしれないんだ。

 驚かしたら悪いと思って静かに開けたんだが。


「やあ新入り。今日は詩音はいないよ」

 相楽部長が一人だった。

「えっ?」

 オレはショックであやうく持ってる物を落とすとこだった。

「明らかにがっかりされるとこっちも心外なんですけど」

「いやそんな」

 オレは昨日の自分の席に座った。


 あー、マジショックだわ。

 一日詩音さんに会えるのを楽しみに生きていたのに。

 

「まあそんなに気を落とすな。

 詩音は明日は来る。

 生徒会もやってるだろ?

 それにしかも詩音は廃部寸前の家庭科部を、うちとかけもちして救っているのだ」

「えっ?」

「名前貸すだけじゃなくて、ちゃんと参加してるところが真面目な詩音らしくて偉いだろ?」

 自分の手柄のように話す相楽部長は、友達の詩音さんのことが好きなんだなあって思った。


(詩音さんすごいな) 

 まあ会えないのは寂しいが事情を知ってオレはますます詩音さんが好きになっていく。


 ショックだが絵本研究部は好きになれそうなので、オレは絵本を開いた。



「へえ感心だね。ちゃんと絵本持ってきたんだ?」

「はあ」

 オレの横に座る相楽部長がほめてくれたんで嬉しかったが。

 やはり美人な先輩女子との近すぎる距離感が慣れない。



「ねえ? 詩音に好きだって言われた?」

 ぐいっとオレの顔を相楽部長がのぞき込んできてびっくりした。

「ええっ?!」

 驚いてガタッと立ち上がる。

 詩音に好きだって言われた? って相楽部長に言われたのもびっくりした。


「好きだなんて言われてませんよ」

 一番好きって言われたけどファン(オレのなんのファン?)としてだろうし。

 オレの書いたポスターのファン?

 一番のファンだって言われましたが。


「なんだ。昨日、詩音はタヌキ(先生)から君がここに来るって知って。

 詩音さ君に絶対伝えるって言ってたから」

「なっなにを」

「ごめん。こっからは本人に聞いて。余計なこと言ったわ」

 すっげえ気になるんですけど。


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