第三十四話 疑い持つ者への証明

 僕は、集落からフッケへと戻ったその足でギルドへと向かうことにした。

 中に入るとあまり人はいないようだが、隅のベンチでは明らかに感じの違う6人組が座っている。

 あれがジョージさんの言っていた町で一番の有力パーティーかな?

 受付の方を見ると、今日は珍しく列が無かったジョナさんと目が合い、僕に手を振った後にギルドマスターの部屋へと入っていった。


 しばらくすると、ギルドマスターのジョージさんがジョナさんと一緒に出てきて、ベンチに座っていた6人と僕を呼び寄せたので、一緒になってマスターの部屋へと入っていく。


「帰って来たばかりなのにすまないね。 フィン」


「別に構わないが……ジョージさんが言っていたのがこの子供か?」


 フィンと呼ばれた男性は白いスケイルメイルに身を包み、頬には大きな傷もあってまさに強者と言う雰囲気だ。


「そうだ。 この子は我々が鍛錬場を突破するための重要な戦力だ」


 ジョージさんの説明にフィンさんは疑い深げな眼で僕を見てくる。


「ふん……まぁいい、とりあえずは挨拶はしておくぞ。 俺が紹介された金級パーティー『獅子の咆哮』のリーダー、フィンだ」


 嫌々ながら手を差し出してきたけれど、僕は握手を交わした。


「俺はロイドだ。よろしく頼む」


 フィンさんの後ろから進み出たのは全身フルプレートメイル、顔も兜で見えない大男だ。

 背中には僕の身長くらいある大金槌を背負っている。


「こんな子供に自己紹介なんていらないだろ?」


「バッカス!」


「……ちっしょうがねえな……俺はバッカスだ」


 フィンさんに窘められて、嫌そうに自己紹介したバッカスさんは、赤い革鎧を着けて比較的軽装だけど、背中にはこれまた大きな剣を背負っている。


「私はレフトだ」

「私はライトだ」


 ほぼ同時に話してきたのはお互い弓を担いだ顔そっくりの双子の男性だ。


「最後は私ね。 どうもメリッサよ」


 礼儀正しく挨拶してきたのは黒いフード付きのローブを着た女性の方だった。


「どうもよろしくお願いします。 ムミョウと言います」


 僕も挨拶をしたが、相変わらず皆さんは疑いのまなざしを止めようとはしない。


「ジョージさん、この子は本当に強いのか? 元黄金級のジョージさんを倒したなどとは到底思えないのだが……」


 念を押すようにフィンさんがジョージさんに詰め寄る。


「それは間違いない。 というかこの子は私を剣を振ることなく倒したのだぞ?」


「なに!? 剣を振ることなくだと? 一体どうやったらそんなことが出来るというのだ?」


「やられた私でも未だに分からんのだが……気? というもので私の首などを斬り飛ばす光景を見させられてな。 あまりに迫真の光景で恥ずかしいがそれ以上足腰が立たなかった」 


 ジョージさんの話を聞いてフィンさんは驚き、僕の方を何度も見返す。

 あんまりジロジロみられると恥ずかしいんですが……


「とりあえずだ……この子は我々よりもはるかに強い。 だから私はこの子に鍛錬場に現れた凶悪なモンスターを倒し、弱点や攻略法が無いか調べてほしいと依頼した。 だが今まで鍛錬場に入ったことが無いらしく、全くと言っていいほどあの場所の事を知らない。

 逆に君達『獅子の咆哮』は、今は10階層突破がやっとの状態ではあるが、以前は40階層突破目前とまで言われたパーティーだ。 鍛錬場の事なら手に取るようにわかるだろう? そこでお互いの知識や情報を共有して攻略に役立ててほしいと思ってこの場に引き合わせたのだよ」


 ジョージさんの言葉に、フィンさんや他の人達は僕を見つつも言葉を出そうとはしない。

 こういうのを針のむしろって言うんだっけ?

 あまりここには長くはいたくないなあ……


 なんとなく居心地の悪さを感じていたら、フィンさんが悔しそうな顔をしながら下を向いた。


「確かに……我々では今のところ10階層を突破するのがやっとだ……だが……3年前までは我々はあと一歩で40階層を攻略できるところだったのだ! 黄金級目前とまで言われた我々が、突然見ず知らずの子供の方が強いからという理由で協力してやれなどと言われるのは、いくらギルドマスターの要請であっても到底容認できるものではない!」


 絞り出すような言葉に『獅子の咆哮』の人達もゆっくり頷く。

 そしてフィンさんは僕を見据えるとはっきりと言った。


「……もしお前が協力してほしいというならば、お前の力がどこまでなのかを見せてほしい。 本当にお前が鍛錬場を攻略できるなら10階層まで我々と……」


「――いえ、30階層まで1人で行ってきます」


 僕はキッパリと答えた。


「今……なんと言った? 30階層を……1人で?」


 その言葉にフィンさんだけでなく、その部屋にいた僕以外全員が固まった。


「はい、フィンさん達は僕の力を見たいんですよね? 現在僕はまだ銅級ですし、金級であるフィンさん達『獅子の咆哮』とは等級が釣り合っていません。 お互い協力し合うならば同じ等級の方が良いはずです。 ならば僕が30階層まで突破して金級になれば、僕の力を示せるしフィンさん達も納得するでしょう?」


「そっそれはそうだが……」


 フィンさんは何を言っているのかわからないといった驚きの表情で僕を見つめる。

 後ろや横にいる皆もだいたい同じ顔だ。


「それに……」


 僕はすらすら話し続ける。


「僕は3年前……魔王の出現した連合国に、修行として師匠と一緒に行き、今まさに鍛錬場に出て来ているようなモンスター達を倒していきました。 人間に倒されたモンスター達が鍛錬場に出現するようになる……今の状態になっているのはある意味僕達が原因みたいなものです」


 皆一様に黙り込む。

 それも当然だろう。

 僕と師匠の連合国での修行の結果が、鍛錬場の攻略に影響が出ている原因と言われても信じられるはずがない。

 普通であれば冗談はよせって笑われるだけだろうけどね。


「信じてほしいなんて言いません。 ただ、鍛錬場にいるモンスター達には因縁があります。 僕が師匠と鍛えたこの剣をもう一度試せる相手がいるんです。 だから……僕は1人で行ってきます」


 最初はパーティーを組もうかとも考えたけど……やっぱり今回は僕は自分の力だけで進んでみたい。


「もちろん、ちゃんと依頼は果たすつもりです。 3日……3日頂ければ30階層まで攻略して見せますし、ちゃんとモンスターの情報も集めます」


 僕の力強い言葉にジョージさんは腕を組んで考え込んでいたが、大きく頷くと


「分かった。 3日待とう。 フィンもそれでいいか?」


「うむ……分かった」


 ジョージさんの言葉にフィンさんも頷いた。


「そんな……! いくらムミョウ君でもそれは危険です! 」


ジョナさんが真っ青になって止めようとするけど、僕はニッコリ笑って唇に人差し指を当てた。


「大丈夫ですよ。 ジョナさん、僕は強いですから」


そう言ってなだめようとしたけど、ジョナさんは目に涙をためて今にも泣き出しそうだ。


「それじゃあ、善は急げってことで行ってきます!」


僕はそのまま勢いよくギルドを飛び出て鍛錬場へ向けて走り出した。

後ろではジョナさんの止める声が聞こえたけど、そんなこと気にしてられない。

鞘を握る左手に力が入る。

自然と足もどんどん速くなって僕はまるで風のように街道を駆け抜けていった。

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